【俺はググらない】自分の考えや好みを押しつけようとしているときは聞く必要ない…ブレイディみかこさん

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 「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)という一風変わったタイトルの本が話題です。著者はイギリス在住のライター・ブレイディみかこさん。アイルランド人の夫との間に生まれた中学生の息子が、イギリス・ブライトンの「元底辺校」の中学に進学してからをつづったノンフィクション作品です。彼がノートに書き付けた言葉をそのままタイトルにとった…というエピソードを聞くと、どういう意味が込められたタイトルなのか分かるのではないでしょうか。

 人種、国籍、経済事情、文化的背景、性別…多様性という言葉で表すのはカンタンですが、多様性の軸そのものが多様な現代社会を中学生の目から追体験する同作は、世界の生々しさを表していると同時に、あるときはそれを軽やかに超えていき、あるときは川の中の石のようにぶつかり合うティーンエージャーたちにはっとさせられます。

 もともと、思想家の内田樹さんに今回のテーマでの取材を終えた際、「このテーマで取材するとしたらどなたに聞いたら面白いと思いますか?」とうかがったら、ブレイディさんの名前を挙げていただいたのでした。ライターで保育士でもあり、イギリス在住ということで日本とイギリスの子育ての比較論にも言及してくれるのではないか…というもくろみもあり、さっそくメールでのやりとりをさせていただきました。

 ※「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の特設ページはこちら

新潮社写真部提供
新潮社写真部提供

――ご自身の子ども時代を振り返り、大人(親あるいは先生など)からどんな場面で「言うことを聞きなさい」と言われたことが印象に残っていますか。それは悪い印象か良い印象かどちらでしょうか。
ブレイディ 記憶をたどる限り、言われたことないと思います。
 私は言うことを聞かない子どもだとみんな知ってたからではないでしょうか。

――言うことを聞かない子どもだったんですね。それでも大人たちが何か言うことを聞かせようという場合はどうしていたでしょうか?たとえば優しく諭されたり、こんこんとひざ詰めで話をされるということはありましたでしょうか?あるいは、むしろ放っておかれるような状態だったのでしょうか。
ブレイディ うちは物凄く貧乏だったので両親とも働くことと生きることに精いっぱいで、わたしは放任されていたと思います。
 「お金さえ使わなければ何をしてもいい」みたいな感じでした。
 「言うことをきかない子」というのは暴れん坊だったという意味ではなく、子ども騙しが通用しない子、という意味です。親は苦労していることを子どもに全然隠さないタイプの親だった、というかそういう余裕もなかったのだと思いますが、そのおかげでずいぶん早熟でませていました。

 小学校のときに説教された覚えがないのも、そもそもそうしなければならないようなことをしない、要領のいい子どもだったのでしょう。

――ご自身の保育士としての経験や子育てをしてきた中で、「言うことを聞きなさい」と強く言ってしまったできごとなどがありましたら教えてください。
ブレイディ 命の危険があるとき、大けがをするかもしれないとき。
 あと、自分だけでなく、他者の体を危険にさらすとき。
 そして他者を傷つけているとき(体だけでなく、言葉でも)。

――大人の言うことのうちこういうことは聞いた方がいい、こういうことは必ずしも聞く必要がないのではないか、といった大人との距離感の取り方についてお考えを教えてください。また、そうした子どもと大人の距離感は、イギリスと日本では違いがあるものでしょうか。
ブレイディ 命の危険があるケースなどでは言うことを聞くべき。なぜなら自分や他者にダメージをおよぼしてから(あるいは死んでから)気づくのでは遅いから。
 大人が自分の好みや考えを押し付けようとしているときは聞く必要ないと思います。
 たとえば、この服を着ろとか、頑張り屋さんになってくれたらうれしいとか。
 「私はそれは嫌い」とか「私はそんなに頑張りたくない」とか自分が思うことをはっきり伝えたほうがいい。
 英国の大人だと、そう子どもに言われたら、「なんで?」とその理由を聞いて友だちみたいに話し合う人が多いと思う。
 日本がどうなのかは、もう23年間英国に住んでいるので、わたしにはわからないので比較はできません。

――ご自身の子育て、保育士としてのご経験についてもう少しお伺いしたいのですが、命の危険があるケース以外で、「子どもに言うことを聞いてほしい」ということを伝える場合、どんなふうに伝えていたでしょうか?そもそもそういったことはあったでしょうか?あるいは、そうした自分の気持ちとどのように向き合ったか、といったご経験について教えていただけますでしょうか。
ブレイディ 英国は4歳で小学校に通い始めますから、保育園はそれ以前の幼児になるので、そもそもこんこんと言うことを聞かせても聞くような年齢に達してません。

 だから「言うことを聞かせる」というよりも、おもしろおかしくゲームみたいにして正しい順番で物事がことができるように身に付けさせたり、似たような問題が出てくる絵本を読んだり、誰かをいじめている子がいたら、人形遊びでいじめられている子が出てくるストーリーをやって見せてそれはいけないことなんだと気づかせるようにしたり、「遊び」で伝えることを英国の保育はやります(たぶん、日本もそうでしょう)。

 育児に関していえば、うちは配偶者が短気でよく叱るので、わたしは「言うことを聞け」な態度は絶対に取りません。

 両親ともそれだと子どもは窒息すると思うし、子どもだからと言って親の言うとおりにしなければいけないことは、命の危険や他者を傷つけている場合(あともちろん、法的に犯罪になることも)などの少数の例外を除けば、ほとんどないと思う。

 私は「言うことを聞きなさい」ではなくて、「私はこう思う。あなたはどう思う?」と話し合います。相手が大人ならそうするので、子どもに違う付き合い方をする必要はないと思います。

――どうして大人は子どもに言うことを聞けと言うのでしょうか。
ブレイディ ただ単に本人の命や別の子どもの命がかかってる問題のときには、それは本人のために言わなければならないから。

 それ以外では、自分が思い描くような、好みの子どもになってほしい場合もあるだろうし、いろいろ説明する時間や心の余裕がなくて「とりあえず言うことをきけ」になるときもあるだろうし、「こうすれば絶対うまくいくんだ」と信じている方法があるから別のやり方をやってる子どもにもっと効率よく成功してほしくて忠告しているケースもあるでしょう。

 でも命を失う危険や大けがのリスクや、他者を傷つけている場合以外は、遠回りしたり失敗したり迷ったりして、自分なりのやり方や好みを見つけたほうが子どもには勉強になると思う。

 たぶん、「言うことを聞きなさい」と言う大人は、その人が子どもだったときに、遠回りしたり失敗したり迷ったりすることを許してくれる大人がそばにいなかったのかも。

 遠回りし、失敗し、迷うときに許してくれる大人、あなたの回りにはいますか?

 ブレイディさんの答えは、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」と地続きであることがよく分かります。子どもを「子ども扱い」しない、ステキな答えだと感じました。

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887805 0 お知らせ 2019/11/08 12:00:00 2019/11/08 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191107-OYT8I50064-T.jpg?type=thumbnail

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