【俺はググらない】優しくしてあげる必要なんかありません 意地悪をされたら、怒りなさい…森本あんりさん

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 キリスト教の教えが書かれた聖書には、「誰かが右の頬を打つなら左の頬を差し出しなさい」という教えがあります。一見、「意地悪をする相手にも優しくしなさい」という言葉に似ているようにも思えます。そこで、編集室ではキリスト教にくわしい人にも、この問いに対してどのように考えるか聞いてみようと思い立ちました。

 国際基督教大学の森本あんり教授に連絡を取ったところ、「キリスト教の視点から、というのを無理に出すと、どうしてもつまらないものになってしまいます」と教えていただきました。キリスト教的な観点と森本教授自身の観点、どちらも明確にした回答をいただくということで話がまとまり、森本教授に寄稿をいただきました。

 質問をくれた小学生に語りかける形で原稿を書いていただきました。とても誠実に向き合ってもらっています。

 森本教授の回答は…

「どうして意地悪な人に優しくしなければいけないの」

1.あなたの質問

 この質問をじぃーっと見ていると、それを聞いているあなたの姿が何となく浮かんできます。きっとこれは、あなたが最初に聞いたことじゃなかったと思います。はじめあなたは、こう聞いたはずです。「意地悪な人がいるんだけど、どうしたらいいの?」

 そう聞かれた大人は、たぶんまず、その子がどんな意地悪をしたのか、あなたに尋ねたでしょう。そしてあなたは、その子が学校や近所でどんなことをしたか、あれこれ説明したと思います。意地悪をしたのはどんな子か、ということも聞かれたでしょう。そういうことをみんな聞いた後で、きっとその大人は、「意地悪をされても、仕返しをしないで、なるべくその子に優しくしてあげなさい」と言ったのだと思います。

 あなたの声も、何となく聞こえてきます。きっとあなたは、その答えに納得できなかったでしょう。それで、この質問になったのです。だからあなたの声は、ぶすっとしていて、不満で、お口もとんがっていたのではないでしょうか。向こうが意地悪なのに、こっちは優しくするなんて、不公平です。

 だいいち、あなたはよく知っているのです。そんなことで解決するはずがありません。こっちが優しくしたら、向こうはますますつけあがるだけです。あなたはその子のことをよく知っていますが、あなたが相談したその大人は知らないのです。だからそんなのんきなことを言うのです。

2.わたしの答え

 はじめに、もしわたしがあなたに直接そう聞かれたら、何と答えたかを書いておきます。優しくしてあげる必要なんかありません。意地悪をされたら、怒りなさい。その子のところに行って、「何でこんなことをするの」と大きな声ではっきり言いなさい。もしたたかれたら、思いっきりたたき返してやりなさい。

 意地悪のしかえしをしてはいけません。そんなのはゲスのすることです。でも、意地悪をされたままにしてはいけません。自分から相手をたたくのもいけません。でも、たたかれたら、そのままにしてはいけません。

 たぶんあなたは、たたき返すなんてできない、と言うかもしれません。たたき返せる人なら、こういう質問をしないからです。もし、自分でたたき返すことができなければ、ちゃんと相談に乗ってくれる人のところに行きなさい。

 小さな意地悪なら、無視してとりあわない方がいいでしょう。でも、たちの悪い意地悪なら、きっぱりと怒りましょう。怒ることは、ぜんぜん悪くありません。えんりょしないで、相手に伝わるように、はっきり怒りなさい。他の人が一緒にいるところで言うのがいいと思います。

3.相談した人の答え

 さて次は、あなたが相談した大人のことを考えてみます。なぜその大人は、「意地悪な人にも優しくしてあげなさい」と言ったのでしょうか。きっとその人は、あなたのことをよく知っていて、あなたのことをとても大事に考えてくれる人だろうと思います。そうじゃなかったら、あなたはその人に相談に行かないからです。

 その人は、あなたからいろいろ事情を聞いた後で、そういう結論を出したのでしょう。あなたは、「意地悪な人」と言っています。「意地悪」には、いじめとか暴力とかも入るでしょうが、そこまで深刻でないことも入りそうです。その答えからすると、たぶんあまりひどく悪いことではなかったのかもしれません。

 もう一つ考えられるのは、男子と女子の話です。もし、あなたが女子で相手が男子なら、「意地悪」の意味が少し違ってきそうです。きっとあなたは嫌でしょうが、その子はあなたに好意をもっているのかもしれません。ちょっかいを出してくるのは、あなたのことが気になっているからです。だいたい男子はガキっぽいので、自分の気持ちを素直に表現することができないのです。そういう話なら、わたしも同じように答えたかもしれません。

 でも、もしほんとうにひどい意地悪なら、「いじめ」です。がまんすることなんかありません。先生に言いましょう。正々堂々と言えば、告げ口ではありません。もしそれでも解決しないなら、親に言いなさい。わたしがあなたの親だったら、その子をひっつかまえて、親の家に怒鳴り込みに行きます。子どもも親も、ぜったいに許しません。

4.ほんとのところ

 キリスト教の聖書では、「敵を愛せ」と教えられています。「意地悪な人にも優しくしなさい」という答えは、そのことを言っていたのかもしれません。でもそれは、子どもではなく大人に向かって言われた言葉です。いじめられてほんとうにつらい思いをしている子どもが、いじめられたままでよいはずがありません。そういう子どもには、イエス様もおそらく違うことを言われたでしょう。

 仏教のお釈迦樣も、同じように相手を見て教えをとかれました。「対機説法」といいます。どんな薬でも、万人に同じように効くわけではありません。人それぞれに事情が違うので、その人ごとに効く薬も違うでしょう。それと同じです。だからあなたにそう言った人も、最初にいろいろとあなたの事情を尋ねたのです。

 わたしは、小学生のころ「いじめっ子」でした。クラスの中で「弱い者いじめ」をしていました。だからわたしは、そういうことをする子の気持ちがよくわかります。ほんとうはわたしが「弱い者」だったのです。悪い友だちと一緒になって悪いことをしては、自分の家の嫌なことを忘れようとしていました。今思うと、とても申し訳ない気持ちがします。

 大人になって、親になって、今度はわたしの子どもが学校でひどい意地悪をされたことがあります。それを知ったとき、わたしはすごく頭に来て、その子の家に怒鳴り込んでやろうと思いました。ところが、よく聞いてみたら、その子には怒鳴り込むべき家がなかったのです。つらい事情があって、親と離れて施設に住んでいた子でした。

 意地悪やいじめをする子は、自分もどこかに淋しいところがあるのだろうと思います。もちろん、だから悪いことをしてよい、ということにはなりません。でも、「あの子はどうしてあんなことをするんだろう」と考えてみると、大切なことがわかるかもしれません。相手のことがもっとよくわかれば、対応のしかたも変わるかもしれません。優しくしてあげるのは、その後で十分です。

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1214864 0 お知らせ 2020/05/12 10:09:00 2020/05/12 10:09:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200428-OYT8I50072-T.jpg?type=thumbnail

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