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【俺はググらない】泣くのは脳からの指令…有田秀穂さん

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 悲しいとき、うれしいとき、切ないとき、つらいとき、あたたかい気持ちがあふれたとき……。ヒトはさまざまな感情で涙を流します。このとき、アタマの中ではどんなことが起きているのでしょうか。

 脳生理学者で医師の有田秀穂さんに詳しく解説してもらいました!

  泣くときに脳はどんな動きをしているのでしょうか。

  心が動かされて涙を流すとき、脳のどこが動いているのかを調べたことがあります。感動するビデオを見ている人の頭の中では、おでこのあたりにある「前頭前野」の血流が急に増える時があります。その10~30秒後に人は泣き始めることが分かりました。ここは、脳の中でも共感や直感を担う部分です。この前頭前野から脳幹に信号が伝わり、「泣き顔を作れ」「泣き声を出せ」「涙をいっぱい作れ」「肩をふるわせろ」という指令が脳幹から発せられて泣くのです。

 このように情動で泣くのは人間だけと言われています。

  そうなんですか!?でも、ほかの動物も涙を流すことがありますよね。

  それは、情動によって泣くのではなく、涙のほかの機能、つまり目に入ったゴミを洗い流したり、目をうるおわせたりするために涙を出しているのだと考えられます。1980年代、アメリカの研究者がたくさんの動物園の園長に「動物が目にゴミが入ったのでもなく、目が乾燥したのでもないときに涙を流した場面を見たら連絡して欲しい」というアンケートをとりましたが、そういう報告は入らなかったという研究結果があります。

 前頭前野というのは、人間が一番発達しているんです。人間には、「ほかの人に共感し前頭前野が興奮するとそれが引き金になって泣く」という脳のシステムがあると考えられています。

  泣いた後の脳の状態はどうなっているのでしょうか。

  体の中の信号を伝える神経には、自律神経と呼ばれるものがあります。手や足を動かすときは「こういう動きをしよう」と意識して体を動かすと思いますが、「胃で消化しよう」とか「汗をいっぱいかこう」と考えなくても、消化や発汗をしますよね。そういう意識せずに体を動かす指令を頭から体全体に届けているのが自律神経です。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、昼間起きているときには交感神経が主に働き、夜寝ているときには副交感神経が働くようになっています。

 泣いた後、アタマの中では、本来交感神経が主に働いているはずなのに副交感神経の働きが強くなることが分かっています。昼間活動している時間なのに、夜眠って体を休めているときと同じような神経回路にモードが切り替わっているのです。泣くとすっきりすると言われているのはこのためです。緊張がやわらぎ、不安やネガティブな感情が解消されてしまうのです。

 ただし、「タンスの角に小指をぶつける」といったような体の痛みによって泣いたり、子どもがおなかがすいたために泣いたりするような涙では、こうした効果は得られません。あくまで共感という脳の機能によって前頭前野が活性化して泣いたときだけ、副交感神経に切り替わってストレスが解消されるのです。

  みんなで集まって感動するビデオなどを見て一緒に涙を流し、ストレスを解消する「涙活」というイベントを、有田先生が寺井広樹氏と共同で進めている理由は、ここにあるのですね。

  そうです。特に現代は肉体労働ではなく頭脳労働に従事する人が比較的多い社会。頭脳労働でアタマが疲れすぎると、なかなか眠れなくなるんです。あまりアタマを使いすぎると、睡眠状態に導入することが難しくなってしまうんですね。眠れたとしても眠りも浅くなり、夢をたくさん見るためにアタマが休まりません。こういう時代こそ、眠れない人を癒やすための涙活の必要性が高いと考えています。

  ただ、泣く理由って必ずしも共感ばかりではないですよね。たとえば親しい人が亡くなって悲しくて泣いているときも、前頭前野が動いているのでしょうか。

  それは実はとても難しい。というのも、そういう現場で脳の状態を測定することはできないからです。動いている可能性はあると私は思いますが。

  なるほど。たとえば、笑いすぎても涙が出ますよね。あれはどうなんですか?

  あれは全然違います。「笑う」と「泣く」のは脳の中で共通の回路があるんです。大脳辺縁系という部分なのですが、「笑え」と「泣け」という指令が伝わっていくときの回路が一部一緒になっているため、そこが混線すると「笑いすぎて涙が出る」ということになるんです。一種のバグみたいなものですね。

  そういうことなんですか。あの、ひとつ根本的なところでギモンがあるのですが、目を守るために目から水を流すというのは理屈としてよく分かるんですけど、「感情が高ぶる」ということと「目から水を出す(=泣く)」ということが、どうして人間の体の中でセットになっているんでしょうか。当たり前のことではあるんですが、よく考えたら意味が分からないと思って……。

  泣く、というのはとんでもない状況なんですね。「目から水が出る」もそうですし、「顔がくちゃくちゃになる」「声が裏返る」と、普段とは全然違う、緊急事態だということが、ぱっと見て分かる状態です。自分の頭の中がとんでもない状態になっているということを周囲に示すために、こういう機能が備わったのではないでしょうか。

 それと同時に、脳の中ではストレスをリセットして疲労状態をすっきりさせている。ここに人間にとって「泣く」意味があるのです。進化的には「共感」を司る前頭前野は一番最後に登場した機能だと言われています。脳が複雑になり、感情を処理しきれなくなったときのリセットボタンなのかもしれません。

 そもそも「泣く」というのはコミュニケーションのひとつなんです。赤ん坊は言葉がしゃべれない代わりに周りの注意を喚起するため「泣く」という手段を使います。ただ、言葉を話すようになると、コミュニケーションとしての涙は使わないように社会的に学習させられます。オトナの社会では、涙を見せる人間は「ストレスに弱い」と評価されるからです。

  それでは、ここまでのお話を踏まえて、「涙が枯れる」ということはあり得るでしょうか。

  「涙が枯れる」というと、水道水が出なくなるように涙がなくなってしまうという状況を想像しますが、実際に泣き終わる要因としてあげられるのは、「泣け」という脳の回路の興奮が静まることです。興奮が静まれば涙は止まります。興奮が静まるのは、たとえば神経の疲労により脳の指令がやむという場合が想定できます。いったん涙が止まっても、同じ出来事の記憶が何かでよみがえり、共感する脳が揺り動かされるたびに、涙はまた出ることになるでしょう。脳からの信号がどうやって止まり、また出て来るかは状況によるので、一概には言えません。

 「涙は本当に枯れるの?」ほかの回答はこちらから

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1407694 0 お知らせ 2020/08/13 17:11:00 2020/10/06 10:53:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200807-OYT8I50019-T.jpg?type=thumbnail

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