【俺はググらない】泣き濡れた1000年前の男たち…今関敏子さん

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 泣くことは文化的にどんな意味を持ってきたのか。それを知ることができる興味深い本があります。「涙の文化学 人はなぜ泣くのか」という、2009年に青簡舎から出版された本です。

 この本は、様々な国の文化の中で「泣く」ことの意味を考え、美術や演劇、文学において「涙」がどのように表象されているかを、各分野のエキスパートである学者14人が書き下ろした著作集。この本を読むと、それぞれの文化の中で「涙」が果たしてきた役割をうかがい知ることができます。

 たとえば、「涙と文化」という章でたびたび言及されるのが、日本や中国、韓国で葬式のときに登場する「泣き女」。雇われた泣き女が葬式で号泣してみせることによって、故人が惜しまれる人柄であったことを広く示し、故人の供養とする、というものです。「涙のフォークロア」(山本志乃)中では、「石川県輪島のあたりでは、五合泣き、一升泣きなどと、謝礼の米の分量に応じて泣き方に等級があったという」とされています。

 一方、同じ「涙と文化」の章にある「涙を断ち切る文化」(飯田卓)で取り上げられているマダガスカルのヴェズ社会では、葬儀に多くの村人が集まり、遺族が涙を流すのを断ち切るように、飲んで踊ってお祭り騒ぎを続けると言います。死者は生きている者に様々な影響を与えるため、その影響力を断ち切るため、にぎやかな葬儀を行うと考察されています。

 同じ葬儀という場をとってみても、文化が違えばそこでの涙の意味も「故人の供養になるため流すべきもの」から「死者を引き留めてしまうので断ち切るべきもの」に変わってしまうのです。この本の編者は国文学者の今関敏子さん。どうしてこの本を作ることにしたのか、そして王朝文学では涙は枯れるのかどうか、今関さんに話を聞きに行きました!

  本を作った経緯を教えてください。

  私が研究対象としている平安時代の王朝文学を読むと、涙を流す場面がたくさん出て来るんです。たとえば源氏物語でも、須磨に流された源氏が涙しますし、伊勢物語でも在原業平がモデルとおぼしき主人公は、失恋して大泣きしています。あまりに涙を流すので、「袖がかわくひまもない」「袖を絞る」という表現がなされるほどです。ある日本文学者は外国人から「なぜ日本人はこんなに泣くのか、日本人の袖はタオルでできているのか」と聞かれたそうです。

 でも、これらの王朝文学の主人公は、涙をたくさん見せるからと言って魅力が減じることはありません。むしろ泣いてもいい男はいい男、というように、涙は肯定的に描かれているわけです。

 私は「涙の文化学」の「王朝人の涙」という原稿で、「伊勢物語」「紫式部日記」「讃岐典侍日記」というそれぞれ100年の隔たりがある三つの王朝文学を取り上げ、涙のシーンでの表現の豊かさを指摘しました。たとえば「泣く」と「涙」という言葉は、場面によって使われ方が違い、相互に入れ替えることができない、それぞれに必然性を持って選ばれている言葉であることが分かります。平安時代の王朝では、豊かな涙の文化がはぐくまれていたのです。

 ひるがえって現代を見ると、「男は泣くものじゃない」「笑う門には福来たる」といった価値観が大勢を占めています。この違いはどこから来たんだろう?外国文化は涙のことをどう受け止めているんだろう?こうしたことが気になり、様々な分野の研究者に声をかけて作ったのがこの本でした。

  涙をめぐる価値観はなぜそのように変わったのでしょうか。

  はっきりとは分かりません。西洋からの文化の輸入や、ある種の軍国主義の影響もあるかもしれません。王朝文学では笑いより涙の方が多いですが、江戸時代くらいにくだってくると、笑いも文学の要素として出てきます。

 英文学者の安井信子さんによれば、アメリカ文学では泣く男というのは基本的に登場しません。たとえばヘミングウェイの作品なんかでも、男は泣かずに心の痛みをこらえるという美学があります。これは現代のアメリカにも共通していて、政治権力を持つ人が涙を見せると信頼が失墜するという風潮があるんです。

 日本の場合、時代とともにどのように価値観が変わっていったか、までを追うことは難しいですが、時代や地域によってそういう涙に対する価値観が全然違うことは確かですね。今ここにいる自分にとっては当たり前のことでも、それがいつでもどこでも当たり前というわけではない……それは人文科学におけるセオリーですが、涙についてもそういうことが言えるのではないかと考えています。

  王朝文学において、涙は枯れることがあるでしょうか。

  王朝文学を読む限り、涙が涸れ果てたということはありません。泣く要因があればいくらでも涙が出て来るという描かれ方をしています。

 「涙は本当に枯れるの?」ほかの回答はこちらから

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