KODOMO新聞が伝えてきたスポーツ
完了しました

【2017年 日本人初の100m9秒台】
その日は、たしか土曜日でした。
読売新聞の編集局があるフロアは吹き抜けになっていて、何か大きなニュースが飛び込んできたとき、そのざわめきがフロアを超えて雰囲気として伝わるようになっています。しかし、デスクの怒号が飛び交い、ヒラの記者が走り回る……そんな機会も、なかなかあるわけではありません。
その日、土曜日で編集局内が静かだったこともあるでしょうが、テレビを見ていたある一角から野太いどよめきがフロアを超えて聞こえてきました。社会部か、運動部でしょうか。桐生祥秀選手が日本人で初めて9秒98、つまり10秒台を切る前人未踏のタイムをたたき出した瞬間でした。
さあ、そうなるとKODOMO新聞編集室も大変です。土曜日にはもう次の週の巻頭特集は固まっていますが、これはいつも通りスポーツニュースのページで入れておけばいいというレベルのニュースではありません。陸上の短距離で、日本人が世界とたたかうことができるかもしれないという大ニュースです。巻頭特集は差し替え。何人かの記者が書くことを分担し、一気に仕上げます。「ついに出たぞ、夢の9秒台!」記事の書き出しは、何が9秒台なのかの説明を置き去りにし、高揚するスピード感そのままに筆を走らせました。
しかし9秒台が「すごいすごい」とはしゃいでいるばかりだと、興味のない人には何がすごいのか、なかなか伝わりません。当時の世界記録ウサイン・ボルト選手と比べるとどのくらい差があるのか、小学生の記録とはどのくらい差があるのか、いやいや、チーターとも比べてみたらどうだろう……? ただ9秒台というだけではなく、そのすごさを多くの人に実感してもらうために、あの手この手で記事を書いていくのです。
スポーツは、「プレーヤーやファンにとっては常識だけど小学生にはあまり知られていないこと」ということがよくあります。2021年2月、大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝したことを伝える記事でも、四大大会のコートの状態にはハード、クレー、芝の3種類があり、それぞれに特性があることをイラスト入りで伝えました。