棋士ら20人に聞きました「藤井三冠はなんで強いのか教えてください!」前編

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 「藤井さんすごいな……もうタイトル3つもとってるんだね」

 9月16日号で藤井三冠が叡王のタイトルをとった記事をつくった際、編集長がつぶやきました。藤井さんがプロになった中学生の頃から5年。もう「藤井くん」ではなく「藤井さん」と呼ぶのがふさわしい青年です。

 「これまでは『またもや最年少記録を更新しました!』というテンションで記事を書いてきましたけれど、ここまで来ると『これも通過点に過ぎないのかもしれない』と、こっちも冷静になりますね」

 「なんでこんなに強いのかな」

 「分かりません」

 「将棋に詳しくない人でもなんで強いか分かるように記事を書いてみようよ」

 「それは難しいでしょう。だいたい、僕、将棋のこと全然分かりませんし」

 「じゃ、ちょうどいいじゃん。自分が分かるように書いてみてよ」

 藤井聡太三冠の強さのヒミツを探る。たしかに面白そうな取材です。でも本当に将棋のことが何一つ分からなかった記者は、取材を始める前に将棋アプリをスマホにダウンロード。10枚駒落ちのアプリと対局し、1時間以上かかってなんとか詰みまで持って行けました。そんなレベルの素人記者に果たしてどこまで深く取材ができるのか…。不安は募るばかりです。

将棋の基礎を文化部の記者に聞こう!

将棋会館の入り口。ここで数々の名勝負が生まれている。
将棋会館の入り口。ここで数々の名勝負が生まれている。

 東京・千駄ヶ谷の将棋会館を訪ね、文化部で将棋を担当する吉田祐也記者に、まずは将棋の基礎を聞きました。「将棋って序盤・中盤・終盤に分かれていると聞きましたが、それぞれ何なのか教えてください」という素人の質問にもいやな顔ひとつせず答えてくれました(吉田記者の回答をもとに10月21日号の18ページで将棋の序盤・中盤・終盤について説明しています)。

 藤井三冠をはじめ多くの棋士を取材している吉田記者。藤井三冠のエピソードを聞くと、

吉田  「 対局中のご飯は、カレーライス、うどん、ラーメンなど早く食べられるものが多いです。1分1秒でも早く食べて対局室に戻り、盤面をにらんでいます。本人も『早食いは体に良くないと分かっているのですが……』と話していました

 勝負への執念を感じます。

棋譜が書かれた吉田記者の取材メモ。新聞記者の取材メモは余人には読めないことが多いが、これはそのレベルを超えている。
棋譜が書かれた吉田記者の取材メモ。新聞記者の取材メモは余人には読めないことが多いが、これはそのレベルを超えている。

 話していると、吉田記者が千葉幸生七段を連れてきてくれました。

千葉  「 藤井三冠は全体的に少しずつ強い。対局したときもはっとするようなきれいな手を指されて、『こんな手があったのか』となりました。できれば終盤に入る前に差をつけたい相手ですね

学者の分析を聞いてみよう!

 将棋のことがちょっとは分かったところで、今度は棋士以外の人に話を聞きに行くことに。棋士とは違う視点から藤井三冠の強さを読み解いてもらいました。

 まずは、将棋ソフト水匠の開発者・杉村達也さん。水匠は多くの棋士が勉強に活用している将棋ソフトで、千葉七段は杉村さんのことを「 棋士みんなの師匠です 」と話していました。しかも杉村さん、現役の弁護士でもあります。

杉村さんの開発した水匠の画面。
杉村さんの開発した水匠の画面。

杉村  「 ふつう、将棋ソフトを勉強に活用される棋士の方というのは、序盤の出てきそうな局面での指し手を覚えるのに使うことが多いと聞きます。しかし藤井三冠はどうも、出てくるかどうか分からない局面で指し手の評価値を見て、自分の評価軸をただすことに使うそうなんです。とてもめずらしい使い方で、ほかにあまり聞いたことがありませんし、そんなことが本当に可能かどうかも、ちょっと分かりません

 どうやら、開発者の想定を越える使い方のようです。

 次は棋士が指し手を考える際の脳のはたらきを研究したことのある脳科学者の中谷裕教さん。

棋士の頭のはたらきについて解説する中谷さん
棋士の頭のはたらきについて解説する中谷さん

中谷  「 将棋の世界には、『長考に妙手なし』という言葉があります。プロの棋士ならある局面で指すべき手の候補はぱっと見て直感でいくつか思い浮かぶのですが、藤井三冠より前の世代はそれをきたえることこそ大事だと考え、直感を鍛えるようにしてきました。しかし藤井三冠は長考派。直感で手が思い浮かばないのではなくて、直感で思い浮かんだ手も疑ってひたすら考えるのをやめない……それが藤井三冠の強さにつながっているのだと思います

 これも、「なんでそんなことができるのだろう」という疑問を引き起こす話ではあります。

 どんどん聞いてみましょう。次は臨床心理士の藤井靖さん。藤井三冠のファンで、マルチアングルで藤井三冠の対局映像を見ているうちに、あるしぐさに注目するようになりました。

藤井  「 集中するときまって将棋盤に覆い被さるように前傾姿勢になります。ほかにも記者会見で目を閉じて考えてからしゃべったりする様子などを見ていると、『目』から入ってくる情報を制限することで、自分の心やペースを守っているんです。

前傾姿勢で将棋盤に向かう藤井三冠
前傾姿勢で将棋盤に向かう藤井三冠

 藤井さんは、「 子どもたちにも参考にしてほしい。人とコミュニケーションを取るのも大事だけど、まずは自分を守った上で人と関わっていくことが大事 」とも。

 たとえば世代論で見えてくるものはあるのでしょうか。藤井三冠は1990年代後半以降に生まれたいわゆる「Z世代」。このZ世代についての著書があるマーケティング・アナリストの原田曜平さんにも聞きました。

原田  「 ゆとり世代の次に該当するZ世代は、目的とやることがずれていません。昔だったら、たとえば『もてたいからサッカーをする』『金持ちになりたいから勉強をする』という動機で物事を始める人が多かったですが、Z世代の特徴は『好きだからやる』。藤井三冠も、おそらく将棋が好きで将棋にのめりこんでいるということなのではないでしょうか

 のめり込み方が尋常でないとは思いますが、今までの話をなんとなく裏付けしてくれそうな視点です。

 だいぶいろいろな視点から藤井三冠の強さに迫れそうな気がしてきました。

 でも、やはり実際に藤井三冠を間近で見ている人の話をもう少し集めたい、それによって、出てきた「視点」を補完する必要がありそうです。

 そこへちょうどたくさんの棋士が関わるあのビッグイベントが控えていました。後編では、その取材の様子をお届けします!

等身大の2人の棋士のパネルが設置された会場。この2人の対決と言えば…?
等身大の2人の棋士のパネルが設置された会場。この2人の対決と言えば…?

 棋士ら20人に聞きました「藤井三冠はなんで強いのか教えてください!」後編は こちら から

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