文字サイズ
    中学受験サポートに協賛する会員校の特色や、会員校からのお知らせなどを掲載しています。

    主体性をどう育むか、SSH指定校第3期の挑戦…玉川学園

     玉川学園中学部・高等部(東京都町田市)は、先進的な理数系教育を目指す「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」3期目の指定校として新たな取り組みを始めた。2008年度からSSHに指定された同校は、第1期、第2期の成果を踏まえ、今年度からの第3期は新たに「生徒が主体性を持って研究に取り組む姿勢を身に付ける」ことを目標に掲げている。指導にあたるSSH主任の今井航教諭に話を聞いた。

    SSHの高度な課題研究を機に大きく飛躍した生徒

    • 第3期SSHプログラムの狙いを話す今井教諭
      第3期SSHプログラムの狙いを話す今井教諭

     今井教諭には忘れられない生徒がいる。今春、高等部を卒業した前田英汰君だ。小学生の頃の前田君は「計算が苦手で、宿題をため込む生徒」だった。中学時代も彼自身が「暗黒時代」と話していたほどだが、高1の時に受けた数学の授業がきっかけで、めきめきと力を伸ばし、高2からは高度な課題研究「ヘロンの公式の対称性を保った証明とその拡張」をテーマに研究を深めた。SSHの全国大会に相当するSSH生徒研究発表会では奨励賞を受賞。さらに、東京理科大学が主催する「坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト」では優秀賞を受賞し、東京工業大学に進学した。

     「彼のように没頭できる課題が見つかれば、あとはどんどん自分で伸びていきます」。そんな体験を生徒ができるようにするには何が必要なのか。それを探り出すのが第3期目の課題だ。

    伸びる子とそうでない子にみられる主体性の差

    • 広大なキャンパスに幼稚園から大学院、研究施設までをそろえた玉川学園
      広大なキャンパスに幼稚園から大学院、研究施設までをそろえた玉川学園

     SSHの狙いは、科学技術分野で国際的に活躍できる人材を育成することにある。文部科学省からSSHに指定された学校は、国立研究開発法人の科学技術振興機構(JST)の支援を受け、先進的な理数教育を目指して独自のカリキュラムを開発・実践し、高度な課題の研究に取り組んでいる。

     同校は第1期(2008~12年度)、大学との連携を軸に据えた。お茶の水女子大学などとのサンゴの研究や、併設する玉川大学脳科学研究所と連携して先端科学を学ぶSSHリサーチ脳科学など、高度な課題の研究に取り組むとともに、課題を発見して、調べて共有し、効果的にプレゼンテーションする探究型学習に力を入れた。

     第2期(13~17年度)は、第1期の取り組みに加え、2007年から同校で取り入れている世界標準のカリキュラム「国際バカロレア(IB)教育」を参考にして、創造力や批判的思考力の育成に力を入れた。生徒たちの研究成果は、日本学生科学賞東京都大会の最優秀賞をはじめ、さまざまな賞を受賞するなど高く評価された。

     今井教諭は「課題研究を通して創造力や批判的思考力を伸ばすと、学力もアップすることが分かりましたが、課題も見つかりました」と話す。現在、自ら設定した課題の研究に中3から高3の約120人が取り組んでいるが、第2期までと同様に「伸びる生徒とそうでない生徒の間に、主体性、自己認識力、計画性、発表姿勢といった点でバラつきが存在する」という。特に、自分から進んで取り組む「主体性」には大きな差があり、「研究活動には、創造力や批判的思考力とともに、土台として主体性が必要」という考えにたどりついた。

    主体性を育む六つの仕掛け

     第3期(18~22年度)は、主体性の育成を主眼に置いた。「教員や親がやってほしいからやるというのではなく、主人公は生徒で、それをサポートするのが教員です。教員は生徒の考えや能力を引き出すのが役割」

     さまざまな研究分野から自分の興味・関心に沿ってテーマを決め、自発的に研究に取り組む「自由研究」の時間(週1回2時間)に、生徒10~15人が集まって高度な課題を研究する。担当の先生1人がつき、生徒は「主体性ペンタゴン」の考え方に基づいて課題に取り組む。

    • 「主体性ペンタゴン」で生徒の主体性を育成する
      「主体性ペンタゴン」で生徒の主体性を育成する

     「主体性ペンタゴン」は、六つの「仕掛け(きっかけ)」から成っている。中核となるのが「言語化」で、生徒は教員と相談しながら自己分析シートに、将来なりたい自分や自身の強み・弱み、目標達成に向けて実践すべきことなどを書き出す。さらに「触れる(知る)」「リサーチ(調べる)」「発表(伝える)」「学びあい(共有する)」「活動(実践する)」の五つの仕掛けとも組み合わせて、主体性の育成につなげていく。言語化した目標をさまざまな仕掛けと組み合わせて具体化することで、自発的な行動を促すことができる。

     仕掛けの一つ、「触れる(知る)」ことを体験してもらうために開いているのが「サイエンスキャリア講座」だ。若手の研究者を招き、高校生の時にしていたことや、研究に携わるようになったきっかけを話してもらっている。

     五つの仕掛けすべてを体験できる「企業との共同研究」も進めている。講演者の研究所や工場を見学させてもらい、生徒の課題研究とのコラボレーションまで発展させる。「今年度はロート製薬に協力してもらい、オリジナル製品を開発中です。自己満足で終わることなく、社会に貢献できる活動をすることで、『社会との共創』の実現を目指している」という。

    知的好奇心をかきたてる多彩なSSHプログラム

     企業との共同研究などのほかにも、さまざまな仕掛けを含む多彩なSSHプログラムを実施している。「仕掛け=きっかけ」が多ければ多いほど、より多くの生徒それぞれの心に響く課題と出会える可能性が高まるという考えからだ。

    • 中国、コロンビア、ラオスから来日した生徒らと英語でコミュニケーションを取りながら実験に取り組んでいた
      中国、コロンビア、ラオスから来日した生徒らと英語でコミュニケーションを取りながら実験に取り組んでいた

     「さくらサイエンス・ハイスクールプログラム」は、SSHに指定された学校を支援するJSTが海外の高校生を招き、日本の高校生や大学生と交流する機会を提供している。将来の学術界や産業界の交流につながる若者同士の国際的なネットワーク作りという狙いがある。

     取材当日、このプログラムで来日した中国、コロンビア、ラオスの計32人の高校生が来校し、生徒と一緒に英語で科学の実験に取り組んだ。中3~高1の生徒は、SSHプログラムの一つ、「科学英語」を学んでいる。この日も、コンクリートやイソギンチャクなどについて研究している生徒や、国際規模の私立学校連盟「ラウンドスクエア」の国際会議に参加した生徒、「模擬国連」で活躍する生徒らが参加し、英語力を生かして海外の生徒と交流を深めていた。

     チームに分かれて行った実験では、ストローで多面体を作り、その上にケースを載せて水の入ったペットボトルで重量をかけて、構造的な強さを競った。各チームの生徒たちは国籍を超えて一致団結し、多面体の構造を決めるために議論を重ね、協力し合って製作した。最後まで勝ち残ったチームの多面体の上に、水の入ったペットボトルが積み上がっていくたびに、自然と大きな拍手がわき起こった。参加していた生徒は「たくさん刺激を受けました。コロンビアの生徒は社交的で、いろいろな国の国民性も感じられました」と話していた。

    根源的な力を培う手法を追究

     多彩なSSHプログラムを現在、展開しているが、今井教諭は生徒の「主体性」をどう育むかは、まだ手探りの状態という。課題の一つは、生徒の「主体性」をどのように計測するかということだ。現在、旭川医科大学が行っている、アンケートで主体性を測る方法を参考に、新たな計測方法を開発しようとしている。

     今井教諭の教え子の一人に、国際的に高名なフランスのパスツール研究所に在籍している卒業生の小林朝紀さんがいる。担任した当時は「教えたことを実行することはできても、そこから自ら考えて発展させる力を見ることはできなかった」という。それが、SSHのプログラムで脳科学の研究に出会ってから、大きく変わったそうだ。今井教諭は、小林さんや、東工大に進んだ前田君のような生徒たちの姿を数多く見てきた。

     「主体性を持って学び始めるきっかけはどこにあったのか、気付きがどこにあったのか。どう考えが変わっていったのか」。第3期は、そういった事例を集めて分析し、「主体性」という根源的な力をどうやって身に付けさせるのか、その手法を探っていくという。成果が注目される。

    (文・写真:小山美香)

     玉川学園中学部・高等部について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年09月26日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP