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    10か国の高校生が全地球的課題を論じる…灘校

     灘中学校高等学校(神戸市)は3月26日からの6日間、世界10か国10高校の代表生徒による国際会議「灘ウィンチェスター国際シンポジウム2018」を主催した。9回目の開催となる今回のテーマは「社会と自然」。全地球的課題について、英語で知見を交換し合う高校生たちの討議を見学した。

    高校生による6日間の国際会議

    • 桜の咲く校門で世界10か国の高校生らを迎える
      桜の咲く校門で世界10か国の高校生らを迎える

     「ウィンチェスター国際シンポジウム」は、世界の学校同士が教育の実践や理念を分かち合い、互いに異なる文化を学び合えるようにと、イギリスの名門パブリックスクール「ウィンチェスター・カレッジ」が呼びかけて2010年に始まった。イギリス、南アフリカ、コロンビア、インド、チェコ、パキスタン、アメリカ、シンガポール、中国、そして日本の10か国から進学校が参加している。会議は毎年、参加校が持ち回りで主催し、9回目の開催となる今回は、初回から参加している灘校がホスト校を引き受けた。

     シンポジウムのテーマは全地球的な課題の中から主催校が選定し、各校2人ずつの高校生が、このテーマを前もって研究したうえ、討議する。今回、灘校が提起したテーマは「Society and the Natural World(社会と自然)」だ。

     会場は校門を入ってすぐの大講義室。演壇を囲むようにコの字型に配置された机には各国の小さな国旗が立てられ、計20人の高校生が居並ぶ。いかにも国際会議の趣だ。引率の先生はその後ろの席で生徒たちを見守り、さらに、その後ろの席で灘校の中学生が見学していた。

    • パンフレットとオリジナルの手帳やペン、バッグ
      パンフレットとオリジナルの手帳やペン、バッグ

     取材に訪れた3月30日はシンポジウムの5日目で、午前9時から、灘校の卒業生で東大・慶応大教授の鈴木寛氏による基調講演で始まった。タイトルは「21st Century Leadership after the Material Civilization(物質文明の先にある21世紀のリーダーシップ)」。国内で進行中の教育改革や2016年のG7倉敷教育大臣会合で採択された倉敷宣言などを例に取りながら、たっぷり3時間、英語で新しい教育とリーダーシップの必要性を説いた。

     開催期間中には計3回の講演があり、初日は同校卒業生で国連大学上級副学長、国連事務次長補で水文学(すいもんがく)を専門とする沖大幹先生、4日目は灘校在学中に阪神淡路大震災に遭い、その経験から現在は灘校を辞し、東日本大震災の被災地で「ふくしま学びのネットワーク」の理事・事務局長を務める前川直哉先生が講演を行っている。各基調講演の後は、各校代表によるディスカッションやグループワーク、プレゼンテーションが英語で行われた。

    • 演壇を囲むコの字型の机には各国代表の高校生20人が着席した
      演壇を囲むコの字型の机には各国代表の高校生20人が着席した

     この日の議論の中身について灘校の代表生徒の1人に説明してもらった。

     基調講演で鈴木氏は「AI(人工知能)を始めとしたさまざまな技術進化に人間はどう向き合っていくか」という問いを投げかけたという。インドの生徒がこの問いに対し、「インドの上層社会の一部は、新しい技術に関するリテラシーは、一定の人間が身に付けていれば良いのであって、全国民に対する一定レベルの教育はそもそも必要でないと考えている」と発言した。

     灘校の生徒は、「リテラシーを備えた人間を養成するシステムの構築が重要であり、どの国でもその重要性は理解されているはず」と考えていたが、インドの生徒の発言を聞いて「搾取構造があらわになる危険を冒してまで、国民のリテラシーを上げようとはしない国もあるのだ」と、胸を突かれたという。

     また、生徒自身は、「科学技術の発展と社会変化は、多様な価値観を持つ人たちにさらなる対立軸を与えるので、異なる価値観を持った者同士の対話がますます重要となる」と発言し、これに対してイギリスの生徒から、「対話不足こそ、私たちがEU離脱を行った原因だ」という分析が返ってきたという。

     灘校のもう1人の代表生徒にも、シンポジウム全体が終了してから話を聞いた。

     最終日のまとめのグループワークで、南アフリカの生徒が述べた意見が印象的だったという。「何かの問題について国連や首脳会談の場で見解を共有できたとしても、具体的な解決に短時間でたどり着くのは難しい。だから、このシンポジウムのように自由に発言でき、政治的圧力に左右されない有識者会議をもっと開くべきだ」という内容だった。この生徒は、「確かに、どのような対策も実践するのは一般市民なので、市民自ら対策を考えることで、無理なく現実的かつ短期間に解決策を出すことができる」と納得させられたそうだ。

     コロンビアの生徒からも「汚職などの問題が横行しているため、政府が国民の理解を得られない」とする発言があり、「問題に対処する際、政府や国連などの機関より、個人や自治体レベルでの活動の方が優先順位の高いこともあるのでは」と考えたという。

     大講義室の後部席で聴講していた中学生たちは、「参加しているのが同じ中高生なので刺激になります。質問内容の鋭さに感心しました」(中3)、「高校生のシンポジウムですが議論の中身が濃く、驚きました」(中2)と、大きな刺激を受けた様子だった。

     シンポジウム期間中は、討論だけでなく、さまざまな体験プログラムも組まれた。日程2日目、各校の参加者たちは灘校のすぐ脇を流れる住吉川沿いを散策した。生物研究部の手伝いで川の生態系について学んだり、酒造記念館を見学したりした。また、3日目は京都まで足を伸ばし、京町家(きょうまちや)を見学。案内に立った卒業生が自然と融合した京町家のたたずまいについて説明するなど、単なる観光に終わらない学びの場となった。

     シンポジウムの責任者でもある和田孫博校長は「卒業生の協力があって充実したプログラムになり、生徒たちも密度の高い議論を展開していた」と満足そうに語った。また、「このシンポジウムは世界の17歳、18歳が集まり、友達関係を深めていくのにとても良い場です」と語り、今後も長く開催されていくことを期待した。

    英語論文を読み、英語エッセーを返す半年の準備

     今回、代表の2人を選抜するにあたって灘校では、6月に高2生を対象に説明会を開催し、希望者に無記名で英文エッセーを書かせた。英語教諭のジェイソン・トムズ先生によると、無記名とするのは、生徒に対する先入観をなくし、英語の能力とエッセーの内容を評価して選抜するためだ。

    • ジェイソン・トムズ先生(左)と基調講演を行った鈴木寛氏
      ジェイソン・トムズ先生(左)と基調講演を行った鈴木寛氏

     各校の生徒たちはそれぞれに優秀な生徒たちだが、何の準備もなく討論の場に臨むわけではない。ホスト校が決定したテーマについて約半年前からWeb上で議論を重ねていく。10月から2500語ほどの課題論文を読み、750語以内でまとめたエッセーを投稿する作業を続ける。通常の学校生活のほかに、この準備をこなすことは大抵の生徒にとって簡単なことではないそうだ。

     代表の2人もウィンチェスター・カレッジのティム・パーキンソン先生がWeb上に発表した課題論文を初めて見た時、「これは大変だ」と身が引き締まるのを覚えたというが、トムズ先生によると「翌月には、もう当たり前のことと受け止めていました」とのことだ。

    シンポジウム参加者の約3分の1が海外大へ

     灘校は今年の卒業生219人のうち70人が東京大学に現役合格した。合格者数は既卒生を加えると92人にのぼる。また毎年、数人の生徒が海外大学に進学する。これまでにウィンチェスター国際シンポジウムに参加した卒業生16人のうち5人がアメリカの大学に進んだ。ハーバード大学(3人)、エール大学とウェズリアン大学(各1人)といずれも名門だ。

     トムズ先生によると、灘校では、生徒同士が英語でプレゼンテーションして質問し合ったり、音楽や哲学、美術などについて英語のレクチャーを聞き、これについて10分間で英文のエッセーをまとめたりするような英語の授業が行われている。単なる英語の運用能力ではなく、英語を通じて文化的リテラシーを育むことが目標なのだという。

     今回のシンポジウムを見学する中で、同校の英語学習が目指す目標とその高みがはっきり分かったように思えた。

    (文・写真:水崎真智子)

     灘中学校高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年10月02日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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