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    理科野外学習からミッションの自覚へ…清泉女学院

     清泉女学院中学高等学校(神奈川県鎌倉市)は6月1日、中学1年生を対象とした理科の校内野外学習を行った。この日、生徒たちは植物観察、野鳥観察、森林観察から教室での実験観察学習まで一日中、構内の自然と向き合った。理科野外学習は範囲を広げながら中高の5年間を通して行われ、生徒たちは、自然や生命の大切さを学びながら、自分の生き方も考えるようになる。

    校内の森林は自然の教科書

    • 森林に囲まれた校舎
      森林に囲まれた校舎

     玉縄城跡に建つ清泉女学院中学高校の構内には、美術室や音楽室、生徒会室などが入っているラファエラ館がある。廃城となってから400年近くがたった現在、同館の裏手はコナラやスダジイなど、さまざまな木々が生い茂った森林になっている。この森林は、野外学習に格好な自然の教科書だ。

     植物観察、野鳥観察に続いて森林観察が始まり、担当の佐藤美紀子教頭が、23人の生徒の先に立って、その森林へと踏み入っていく。

     佐藤教頭が足を止め、生徒たちに問いかけた。「この木とこの木、仲よく見えますか。それとも、仲が悪く見えますか」

     その場所に並んでいたのは、モッコクとコナラの木だ。コナラの幹はゴツゴツと筋張っていて、大人が一抱えするほど太く成長しているのに対し、モッコクの幹は木肌がすべすべとして、それほどの太さもない。これから枝葉を伸ばそうとする若木のようだ。佐藤教頭の視線を追って、対照的な2本の木を見上げていくと、10メートルほどの高さのところで、モッコクの細い枝とコナラの枝が絡まり合っていた。佐藤教頭は、「モッコクはけっこう我慢していて、コナラが枯れたらいいのに、と思っているようにすら見えますね」と説明した。

    • 森林に分け入っての観察
      森林に分け入っての観察

     次に、その木々の根を見やると、少ない光を少しでも多く浴びようとする植物があった。漠然と見ていれば、それぞれの植物が平和に枝を伸ばしているとしか見えない森林だが、実は、それぞれが生きるために必要な光をめぐって競合し合ったり、時には協調したりしていることを生徒たちは知る。

     生徒の1人は、「たくさんの木が生えていて迫力がありました。協力しながらも戦って、一本一本の木が育っていくのを知って人間社会に似ていると思いました。私だったら、たくさん光を浴びたいな」と話した。

     また、別の生徒は「野鳥観察の時には暑すぎて干物のようになりそうだったけど、次の森林観察では元の調子にもどりました。森林の中はこんなにも涼しくて湿気があることに驚きました。耳を澄ますと、たくさんの鳥の声が聞こえます」と話した。

    野外学習の成果を深める観察実験の授業

     「あれ、さっきの毛むくじゃらなやつ、どっかにいっちゃった」

     理科実験室で顕微鏡をのぞきこむ生徒が戸惑いの声を上げながら、レンズの下にあるシャーレを動かしている。シャーレの中には前日に、フィールドワークをした森林からボランティアの生徒が採取してきた土壌動物がいる。普通の昆虫と違って見慣れない形の土壌動物を分類できるよう、生徒たちには検索図が配布されている。この生徒はせっかく検索図にあてはまらないような珍しい動物を見つけたのに、見失ってしまったようだ。

     同校の理科体験学習は野外でのフィールドワークだけには終わらない。観察実習をすることにより戸外で得た知識をいっそう深めていく。森林の土壌動物を観察し、どのような形態をしているのかスケッチする班もあれば、受粉のために花粉管を伸ばす様子を観察する班もある。

    • 理科室での土壌動物の観察実習
      理科室での土壌動物の観察実習

     土壌動物の観察ではまず、ミミズやオケラなどの大型の土壌動物をふるいにかけて見つけた後、牛乳パックを利用してつくった「ツルグレン装置」と呼ばれる採取装置で小型の土壌動物を採取する。小型の土壌動物の中には大きさ1ミリに満たないものもいる。一度顕微鏡のレンズを通して発見しても、シャーレを動かすちょっとした手の動きで見失ってしまいがちだ。

     先ほどの生徒は、そうした微妙な操作を繰り返しながら土壌動物を探し続けていた。授業も最後の方になって透明なクモのような動物を見つけて、そのスケッチを発表したが、「毛むくじゃらなやつ」はついに探し出せなかった。

     この観察授業の後、ある生徒は、「フィールドワークで歩いた森林の土壌だけでなく、普段、何げなく踏みしめている土の中にも小さな虫や動物が無数にすんでいると気付いて、もっと土壌動物のことを知りたいと思いました」と話した。知的好奇心を揺さぶられた様子だ。

    身近な環境から自然と生命を学ぶ

    • 5年間を通じて行われる野外学習の教材
      5年間を通じて行われる野外学習の教材

     同校の実験観察学習は、戦後間もない時期までさかのぼる。理科教育の第一人者で、清泉女子大で教鞭(きょうべん)を執っていた津田栄が、高校生にも実験を重んじた理科教育を行っていた。津田の専門が化学だったので、当初は化学が中心だったが、1963年に現在の鎌倉市城廻に移転してから地学中心の野外学習が盛んになっていった。佐藤教頭が生徒だった1970年代は、神奈川県内の箱根や真鶴で泊りがけの実習が単発的に行われていたという。

    • 自らも清泉女学院で野外学習を体験してきた佐藤教頭
      自らも清泉女学院で野外学習を体験してきた佐藤教頭

     こうした理科教育が5年間を貫く実習となったのは、1984年からだという。さらに「身近な自然を美しいと思わなければ、自然保護の心は育たない」という考えから、学校を取り囲む環境を生かした体験学習が加わり、学習分野も地学だけでなく生物も組み込んで、教室の授業とも連関させていった。

     学年が進むのに合わせて、フィールドワークの範囲は、同県内の三浦半島、箱根、真鶴と広がっていく。生徒は実習を通じて、自然界には、さまざま生物が互いに関わり合いながら生きていること、いずれも欠けてはならない存在であることを学ぶ。

     卒業生の1人が、「地球上に()き散らされた、分解できない化学物質を浄化する研究をしたい」と佐藤教頭に強い決意を語ったという。5年間の実習を通して、自分が「世界平和のために、地球環境のために一体何ができるのか」を考えた結果だ。それはキリスト教精神に基づくミッションの自覚ともいえる。

     その思いに至る第一歩は、中学1年の理科野外学習から始まる。

    (文・写真:鶴見知也)

     清泉女学院中学高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年09月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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