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    「総合探究科」で自ら問う力を身に付ける…明星学園

     明星学園中学校・高等学校(東京都三鷹市)は2018年度、「総合探究科」を新設した。中3生全員の卒業研究などで知られる同校が、探究学習そのものを中学3年間かけて完成させる正規の授業に発展させたものだ。狙いは自ら問いを立て、深く考え、人に伝えられる力を付けることにある。中1生の授業の柱となる「哲学対話」と「図書館と情報」の内容を紹介する。

    伝統の探究型学習が正規のカリキュラムに発展

    • 総合探究科を新設した理由について語る堀内雅人副校長
      総合探究科を新設した理由について語る堀内雅人副校長

     「数学や理科といった教科には明確な答えがありますが、世の中には正解が一つでないことが多い。そこで、生徒一人一人が問いを持ち、仮説を立て、考え、議論するという探究のプロセスを重視したカリキュラムを作りました」。副校長の堀内雅人教諭は、総合探究科を新設した理由をこう説明した。

     同校はこれまでも各教科の授業の中で、あるいは教科を越えた取り組みの中でも、探究型の学びに力を入れてきた歴史がある。とりわけ、中3生全員が一人一人、好きなテーマを決めて1年がかりで調べ、卒業論文にまとめて発表する「卒業研究」は、探究型学習を象徴する存在だ。「総合探究科」は、この成果を受け継いで、中学の3年間を通して行われる発展的な授業科目にしたものだ。

     中1では、相手の意見を聞く力や、対話しながら共通の価値を探り出していく力を養う「哲学対話」と、情報の探し方を学び、情報の発信者となるために必要なスキルを学ぶ「図書館と情報」の二つの授業が柱となる。中2では、中1での成果をさらに深めつつ、身近なテーマを共同で研究して互いに発表し合い、視野を広げていく「探究実践」を行う。そして中3では、すでに同校の伝統となっている「卒業研究」にチャレンジし、全生徒が卒業論文を書いてプレゼンテーションする。

     1年生の教室で始まったばかりの「哲学対話」と「図書館と情報」を見てみよう。

    ゲーム感覚で自由に議論できる雰囲気を促す

    • 相手の意見を聞く力や、対話しながら共通の価値を探り出していく力を養う「哲学対話」
      相手の意見を聞く力や、対話しながら共通の価値を探り出していく力を養う「哲学対話」

     まず、「哲学対話」の授業を見学しよう。生徒たちは椅子を丸く並べて輪になり、互いに顔を見合わせてすわっていた。今年度6回目の授業だが、教室内には新鮮な雰囲気が漂い、生徒たちのワクワク感が伝わってくる。

     最初に始まったのは「哲学フルーツバスケット」。「問い」を書き込んで折りたたんだ何枚かの紙が用意されている。みんなの輪の中に立った1人の生徒が紙を1枚選んで開き、その「問い」を読み上げる。

     「誰もいない道路の赤信号を無視してもいいか、ダメか」

     その生徒が自分の考えを述べる。「私はダメだと思います。神様も見ているし、もし猛スピードの車が突っ込んで来たら死んでしまうからです」

    • コミュニティボールを手に持つ「哲学対話」担当の(左から)田代先生と廣畑先生
      コミュニティボールを手に持つ「哲学対話」担当の(左から)田代先生と廣畑先生

     その発言を受けて、非常勤講師の田代伶奈先生が「それでは赤信号でも渡って良いと思う人、動いてください」と指示する。数人が立ち上がって急いでイスを交換し合う。その中に生徒だけでなく2人の先生も含まれていて、驚きの表情を見せる生徒もいる。真ん中に立っていた生徒がすわったので、1人がイスを取り損ねる。この生徒は、「渡って良い」と思った理由を発表しなければならない。「猛スピードの車が来ていても、ちゃんと周りを見て渡れば大丈夫だと思うから」

     その理由を聞くと、他の生徒たちが代わる代わる挙手して発言し始めた。「自転車は左側通行と道路交通法で決められているのに、実際は守っていない人もいる。だから赤信号で渡ってもいいと思う」「車でも歩きでも、信号無視はダメ」「捕まらないならいい」「捕まらなければいいの?」など率直な意見が飛び交った。

     授業の後半では、「なぜ20代は、いろんな手を使ってでも、きれいな写真を撮り、SNSに上げ、『いいね』を取りにくるのか」について議論が行われた。この「問い」は、事前に生徒が出してくれた100を超える「問い」の中から、生徒たちが自ら多数決で絞り込んだものだ。SNSへの関心の高さがうかがえる。

     発言したい人は挙手をし、「コミュニティボール」と呼ばれる毛糸の玉を受け取ってから話す。このボールは、議論を円滑にするためのツールで、発言者をはっきりさせる役目がある。自分の話が終わった話し手は、次に話してもらう相手を選んで手渡す。うまく話せなかったりしたときも、次の人に手渡すことができるので議論をよどみなく進められる。

     生徒たちは次々と「コミュニティボール」を受け取りながら発言していく。「現実の世界で嫌なことがあったから、『いいね』をもらって解消したいのだと思う」「褒められたら、うれしいから」など、SNS利用者の気持ちを肯定する意見が出る一方、「自分のすごさをみんなに自慢したいんじゃないか?」「心のどこかで自信がないから、いろんな人とつながりを求めている」「パフェの写真を撮るだけで食べないとか、相手に迷惑になるならやめた方がいい」という批判的な意見も出る。生徒たちはお互いの意見を聞きながら、自分の考えを深めていく。

     生徒たちの議論に耳を傾けていた田代先生と、同じく非常勤講師の廣畑光希先生は、時折「自慢されたら、なぜイヤだと思うの?」「褒められることはよくないこと?」と合いの手を入れる。議論を深める手伝いはするが、決して議論を誘導したり、せかしたりするようなことはしない。いわば交通整理の役目だ。授業の狙いは、あくまでも生徒たちが主体になって議論を進めることにあるのだ。

     生徒たちに感想を聞くと、「他の授業より自由に意見を言えるし、自分と違う意見があることにも気付きました」「初めは恥ずかしかったけど、みんなを見ていて話したいという衝動に駆られた」などと語った。また、「どう話したらより伝わるか考えるようになった」「運動会の決め事をする時も生徒だけで話し合い、仕切れるようになった」など、自分たちなりに授業の成果を感じているようだ。

     「なかなか話せない子や、ちょっと変わった意見を言う子に対しても、周りの生徒が発言を促して、ちゃんと聞こうという雰囲気を作っているようです」と、田代先生は生徒同士の関係の変化を見守っていた。

    本の分類と情報の探し方を学習

    • 「図書館と情報」の授業で図書館の歴史を教える
      「図書館と情報」の授業で図書館の歴史を教える

     次に、図書館で行われた別のクラスの「図書館と情報」の授業も見学した。生徒たちは、図書館の歴史から本を分ける必要性について学び、本の大まかな分けられ方について確認した後、ペアになって、与えられたテーマや主題に沿って本を2冊探す課題に取り組んだ。

     あるペアに与えられた課題は、「エジプト」をテーマに、ヒエログリフの読み方と、古代エジプトの神話や宗教についての2冊を探し出すこと。2人はそれぞれ「歴史」「文字」といった大きな分類に入るだろうと予測し、該当する棚からほんの2~3分で目当ての本を探してきた。

     中には書架の前で片っ端から本を開くペアや、目的の本になかなかたどり着けず、時間切れになるペアもいた。次の授業では、一つのテーマや主題がさまざまな書架に分けられていること、図書館の分類の仕組みについて考えるそうだ。

    対話を通じて他人との違いを知り、寛容を学ぶ

     「哲学対話」を担当する田代先生は、大学院で哲学を研究していた。卒業後は、社会に生きる哲学を目指して小学校や高校、企業イベントなどでも「哲学対話」を実践している。田代先生によると、哲学とはプラトンやカントなど大哲学者の学説の内容を知ることではなく、「なぜ、と問いを立て、深く考え、聞き、伝えること」なのだという。「他人と対話することで、人との違いを実感するのはとても大切なことです。それが人を認め、他者に対して寛容になることにつながるからです」

     「自分はなぜ学ばなければならないか、何のために働かなければならないかを考え、理解することが、受験や就職活動にも活かされるのでは」と田代先生は話す。

     現在、大学院で教育を研究している廣畑先生も「普段、『なぜ』と感じている不満やモヤモヤを問いにして考えることは、前向きに生きることにつながります」と「哲学対話」の意義を話した。

     みずみずしい知性や感性を持った中学生の時期だからこそ、自ら問いを立て、深く考える姿勢を身に付けることができる。その姿勢は大学に進み、社会に出たときに人生を切り開く力になることだろう。

    (文・写真:石井りえ 一部写真提供:明星学園中学校・高等学校)

     明星学園中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年08月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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