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    医学部進学は「人づくりの教育」から…埼玉栄

     スポーツの強豪校として知られる埼玉栄中学・高等学校(さいたま市)が、中学に医学部進学に特化した「医学クラス」を設置して今年3年目を迎えた。その教育の中身は、医学部受験に特化したテクニックではなく、じっくり腰をすえた「人づくり」だという。中学校の教頭を務める原田道之先生に「医学クラス」の目標や指導の実際について聞いた。

    中高6年間で医学部進学の実力を養う

    • 「医師になれればよいというわけではない」と話す原田教頭
      「医師になれればよいというわけではない」と話す原田教頭

     埼玉栄といえば、競泳の瀬戸大也、体操の加藤凌平、山室光史、ウェートリフティングの三宅宏実など、数多くの五輪メダリストを輩出しているスポーツ強豪校のイメージが強いが、その同校が目指すもう一つのチャレンジがある。医療の世界への人材輩出だ。

     「埼玉栄では中高一貫して、生徒一人一人に内在する可能性を開花させ、経済や文化の発展に貢献できる人材を輩出することを教育の柱としています。それをさらに強く打ち出す一つの方向として、人の命を救い、苦しみを和らげ、健康の維持増進に直接的にかかわる医療分野にも人材を輩出していきたい。そういう思いを以前から持っていました」

     もちろん、医学部への進学を可能にする学力の養成は一朝一夕とはいかない。

     「2000年に中学校を開校したことで、中高6年間をかけてじっくりと学べる体制が整いました。さらに16年には新校舎が完成したこともあり、この強みを生かして医学部進学の実力を身に付けられるようにと、同じ年に『医学クラス』を中学校に開設しました」

     現在、3年生12人、2年生と1年生それぞれ23人が「医学クラス」で学んでいる。医学部進学に特化したこのクラスでは、どのような授業が行われているのか。

    体を鍛え、コミュニケーション力を磨く

    • 2016年に新校舎が完成し、生徒たちは恵まれた環境で学んでいる
      2016年に新校舎が完成し、生徒たちは恵まれた環境で学んでいる

     「ご承知のように中学は義務教育ですから、法律で定められたカリキュラムがあります。ですから、『医学クラス』だからといって、数学や理科の授業を他のクラスよりも多くすることなどはできません。したがって、この段階からとりたてて医学部進学に特化した授業を行っているというわけではないのです」

     カリキュラムでは差別化されていないという「医学クラス」の特色を、原田教頭は「人づくりの教育」と言い表した。

     「『医学クラス』が目指しているのは、ただ医学部に進学して医師になれればよいというような、受験対策を重視した予備校的な授業ではありません。なぜなら医師という職業の対象は人間です。人間を相手にする職業である以上、医師は科学者であるとともに、一般的な常識を持ち、人間に対する深い洞察力を併せ持っていなければならないと思います。『医学クラス』だからこそ、いっそう人としての常識的な感性が涵養(かんよう)されるように指導しています」

     同校では、「医学クラス」の生徒も一般クラスの中学生と同じようにクラブに入って体を鍛えたり、文化祭や体育祭など学校行事に積極的に参加して、仲間とコミュニケーションを図ったりすることを奨励している。

     「医師はハードワークです。医師になっても体力がなければ、仕事を続けることはできないでしょう。また、同僚の医師や患者と円滑なコミュニケーションが取れなければ、質の高い医療を提供することもできないでしょう。ただ医学部に進学して医師になれればよいというものではありません。『医学クラス』が目指しているのは、むしろ『人づくり』にあるというのは、そういう意味です」

    医師になる意識や心構えを中学時代から培う

    • 東大医学部呼吸器内科の渡邊広祐先生による特別講義
      東大医学部呼吸器内科の渡邊広祐先生による特別講義

     私立大学の医学部では、入学者のうち浪人がほぼ半分を占めると言われる。浪人の割合が多いことについて原田教頭は、「浪人経験者の多くは、中学時代に身に付けておくべき基礎学力が備わっておらず、医学部進学を目指し始めた時にもう一度中学時代の基礎をやり直すから」だと説明する。

     「つまり、中学の復習に時間を取られるので、本来の医学部受験対策が十分に行えず、やむなく浪人している高校生が多いのです。経済的に見ても浪人するより現役で合格するほうがよいに決まっています。ならば、中学時代にみっちり基礎学力をたたき込み、高校進学後はハードな受験勉強に集中して医学部現役合格を目指すべきです。その基礎学力養成を徹底しているのも、『医学クラス』の特色の一つと言ってよいでしょう」

     原田教頭は、徹底した基礎学力づくりのほかに、「医学クラス」に導入を計画しているもう一つの教育があるという。

    • 現役の医大生とも交流し、「将来の自分」のイメージを膨らませる
      現役の医大生とも交流し、「将来の自分」のイメージを膨らませる

     「医師になる心構えの教育というか、イメージトレーニングのようなものです」。すでに一度、東京大学の現役学生に来校してもらい、医学クラスの生徒と交流会を行った。医学部では何を学んでいるのか、受験にはどのような準備をしておくべきかなどを話してもらったという。

     「生徒にとっては将来の自分の姿を目の前にしているわけですから、医学部受験や医学部進学のイメージが膨らんだのではないかと思います。こうした機会を月に1度くらいのペースで、現在の中学2年生、3年生を対象に定例化していきたいと思います」

     医学部を志望する動機として、医療そのものへの関心よりも、単に医学部に合格できる偏差値だからとケースもある。

     「学業の成績がよいから医学部を受けて医者の道を歩むという生き方もあると思います。しかし、医師を目指す以上、それは新しい医療技術開発のためなのか、目の前の患者の苦しみを和らげるためなのか、こうした意識や心構えを中学時代から培っておくようにすることも、『医学クラス』の努めの一つと思います」

     現在の中学3年生が高校に進学し、医学部に現役合格したとする。さらに2年間のインターンを経験して医師として独り立ちするのは、短くても11年後となる。その頃、『医学クラス』はどうなっているだろう。医療の世界に人材を送り出すための、同校の息の長い取り組みは始まったばかりだ。

    (文:山田雅庸 一部写真提供:埼玉栄中学・高等学校)

     埼玉栄中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年10月31日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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