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    海の「深層循環」の謎、僕たちが解くぞ…逗子開成

     男子中高一貫校の逗子開成中学校・高等学校(神奈川県逗子市)の高2生有志が、地球環境に関する最先端の国際会議に参加し、ポスター発表を行った。テーマは、地球規模の深層循環の謎を解くカギとなる「乱流」だ。彼らの発表と、同校が力を入れる海洋教育の展望についてリポートする。

    先端的な国際会議で高2生が発表

    • 研究発表を行った生徒たちと井川教諭(左)
      研究発表を行った生徒たちと井川教諭(左)

     逗子開成は、逗子海岸に臨む立地を生かして、理科の授業や環境学習、ヨット製作、遠泳など、広範に海をテーマとした教育を行っている。そんな同校で海洋の深層循環などを研究している高2生のチーム13人が2017年5月21日、幕張メッセ国際会議場・展示場で開催された、地球環境に関する国際会議「JpGU-AGU Joint Meeting 2017」に参加し、「高校生によるポスター発表」を行った。

     この会議は、地球科学に関する学術組織「日本地球惑星科学連合(JpGU)」と「アメリカ地球物理連合(AGU)」の共催で、宇宙惑星科学、大気水圏科学、地球生命科学などの分野の最先端研究を集めたハイレベルの会議だ。

     生徒たちの発表テーマは、海中で起こる「乱流」と呼ばれる現象。乱流とは、潮の満ち引きによって移動する海水が、海底で隆起した「海山」に当たって起きる水流の乱れのことだ。深海と表層の海水が入れ替わりながら、約2000年かけて地球全体を循環する「深層循環」という現象を促す要因の一つとされる。

     生徒たちは、その状態を目に見える形で再現する「可視化班」と、データ計測によって現象を探る「解析班」に分かれ、それぞれA0判(841×1189ミリ)などの大きなポスターにまとめ、会場に掲示してプレゼンテーションを行った。

    • 水槽の中で再現した実験結果を解説したパネル
      水槽の中で再現した実験結果を解説したパネル

     「可視化班」の二宮英士君、佐藤壮竜君らの発表は、潮汐(ちょうせき)流が海山にぶつかって乱流が発生する現象を、長さ60cmの水槽中で再現する実験に関するものだ。いくつか方法を試して問題点を検討した後、石こう製の海山模型を水槽の底に敷いたレール上で移動させ、海水の動きを相対的に再現する方法を考案した。

     海山模型をスライドさせると着色した水がぶつかって、実際の乱流に近い形で動く様子がはっきり見える。2人は「今後、海山の形状や大きさ・移動速度などを最適化し、もっとリアルな深層循環の再現に進みたい」と目標を語った。

     「解析班」の一色竜一郎君、真貝碧君らの発表は、太陽で温められた海面近くの海水と深海の冷たい海水との温度差は、乱流によってどう変化するかに関するものだ。この変化を推測するモデルとして、「可視化班」同様に海山模型を移動させる実験を行い、水温の変化を調べた。この準備として実験機器メーカーに相談したところ、「高速応答温度プローブ」という新製品を借り受けた。水温を1/100秒ごとに最小0.0025℃の温度スケールで計測できる高精度温度測定装置だ。

     ヒーターと氷で水温に差をつけた深さ20cmの水槽に、この高精度温度計を10台設置し、模型の移動に伴う水温の変化を記録。表層・深層間の温度差が縮まったことを確認し、乱流による熱伝達の現象をモデル的に検証した。「海山の大きさや水の粘りなど、実際と異なる条件も考えて、さらに研究したい」と意欲を見せている。

     今回の発表では、研究者から、「海山の縮尺や形をもっと実際と近似させれば、さらに正確な乱流が再現できたのでは」などの指摘もあった。「くやしかったけれど、模型の形を工夫してまた挑戦したい」と、生徒たちはむしろ、アカデミックな刺激を受けた様子だ。他の研究発表なども参考にし、今後の研究に向けて多くの反省材料やヒントをつかんだことだろう。

    東京大学の研究機関と提携

     研究チームを指導する井川一美教諭によると、今回の発表にあたっては、世界的な海洋物理学者である東京大学の日比谷紀之教授に参加の勧めを受けたという。

     同校は、2014年に東京大学の研究機関「海洋アライアンス」と提携を結び、特別講座を開いた。その最初の講座で日比谷教授が講義を行い、興味を持った高2生徒が有志で研究チームを結成し、講義のテーマであった海洋の深層循環についての研究が始まった。

     これまでの研究成果は、アライアンスの下部組織「海洋教育促進研究センター」が開催する「全国海洋教育サミット」で何度か発表されており、その活動ぶりを日比谷教授も評価していた。

    海洋教育の専用施設を活用

     生徒はそれぞれ部活にも所属しているため、原則的に土曜の午後の時間を互いにやりくりして研究を進め、2泊3日の合宿も行って発表資料作りに精力的に取り組んだ。

     研究を進めるに当たっては、校舎に隣接する「逗子開成学園海洋教育センター」が役立った。逗子海岸を一望できる講義室は、通常は独自科目の「海洋講義」などに使われる。階下にはヨット製作工房があり、宿泊設備や談話室も備わっている。この施設を、合宿やミーティング、発表用ポスター作成などの場として活用した。

    • 生徒たちへの指導について語る井川教諭
      生徒たちへの指導について語る井川教諭

     生徒たちの研究を指導する井川教諭は、「危険防止の指導は大前提ですが、その他は、明らかに方向性が違う時を除けば、求められたら応えるというスタンスで、ほとんど口は挟みません」という。「私自身、大学時代には指導教官である教授に、自分の研究テーマに関して自由に研究させていただいたことで、強い自信とこだわりを持つことができました。彼らも、実験手法の考案からまとめ方まで自分たちで何とかしようという意識が高い。ただ、見守っていることが多いです」

     また、こうした高度な研究への取り組みについて、井川教諭は「壁や失敗も重要」と話す。「うまくいかないことが、乗り越えるテーマをくれます。また、外部に向けて発表し、批評をもらうのも得難い学びです。自分たちのやっていることが客観的にどう見えるのか、しっかり学んでほしい」

    国も注目している海洋教育

     「自然と向き合い、生徒の可能性と世界を広げる」という理念で海洋教育を進めてきた逗子開成に今、追い風となる状況が生まれている。2020年度以降の小中学校の教育内容を定めた次期学習指導要領に、海洋立国の将来を担う人材を育てる海洋教育の充実が盛り込まれたからだ。

     「我が校にとっては大きなアドバンテージ。これを契機に、さらに海洋教育への取り組みを深めたい」と井川教諭は話す。「海の研究は大気や地上の生態系など、地球全体の研究にも関わっていきます。このグループの研究も、大きな発見につながるかもしれない。ゆくゆくは、地学の教科書に本校生徒の実験例が載ることを夢見ています」

     (文・写真:上田大朗 一部写真提供:逗子開成中学校・高等学校)

     逗子開成中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年09月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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