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    禅の精神で「賢く豊かでたくましい人」に…世田谷学園

    • 僧侶の資格も持つ山本慈訓校長
      僧侶の資格も持つ山本慈訓校長

     世田谷学園中学校・高等学校(東京都世田谷区)は、16世紀にさかのぼる古い伝統を持つ仏教系の男子校だ。曹洞宗の禅の精神を教育の根本に据えながらも、論理的思考力に優れた人材育成を目指して来年から「算数特選入試」を導入するなど、グローバル時代への対応も欠かさない。自身卒業生でもあり、曹洞宗僧侶の山本慈訓校長に、目指している教育について聞いた。

    思春期に 坐禅 ( ざぜん ) を通して自分を見つめる

     「仏教系の学校はたくさんありますが、坐禅ができる男子校は、関東でも珍しいと思います」

     同校は16世紀に作られた曹洞宗吉祥寺の学寮「旃檀林(せんだんりん)」を発祥とする古い伝統を持つ仏教系の男子校だ。一般生のほかに、寺院の子弟を対象とした仏教専修科もあり、今も全校で十数人程度が在籍している。山本慈訓校長自身も世田谷学園の卒業生で、得度して僧侶となり、住職の資格を持っている。

     坐禅は、週1コマの「生き方」の授業で行われる。この授業では、曹洞宗開祖である道元禅師をはじめ、実際の歴史上の人物の「生き方」を学び、環境、平和、命などの問題について話し合ったり、どういう価値観を持って生きていくべきかなどを考えたりしている。坐禅や写経もその一環として行われる。

    • 坐禅は「生き方」の授業の一環として行われる
      坐禅は「生き方」の授業の一環として行われる

     「もっと(すわ)りたい」と希望する生徒も多い。そのため週1回、早朝坐禅会を行ってきたが、最近は希望者が増えたので金曜と土曜2回、朝7時から実施しているという。このほか保護者、受験生向けの月例坐禅会もある。

     「最近は、寺院の子弟でない生徒や保護者も、坐禅への関心が高まっているのを感じます。校内の坐禅堂での私の席は決まっていて、ありがたいことに『校長先生の隣に坐ってみたい』と早くから来るような生徒もいます。思春期の多感な時期に自分を見つめる時間を持つということは、とても重要なことだと思います」

     坐禅会の感想を生徒に聞くと、子供からも大人からも、「スッキリする」という声が数多く寄せられるそうだ。

     「坐禅には二つの効果があります。論理的思考力が高まることと、怒りや妬み、不満などが解消されることです。姿勢を調え(調身)、呼吸を調え(調息)、心を調え(調心)て、ただひたすらに坐る。これによって余計なとらわれが自然に片付いていく。『スッキリする』という表現は、非常に的を射た表現だと思います」

     このほかにも仏教の精神は同校の教育の隅々まで生かされている。4月には釈尊降誕会、7月には精霊祭(しょうれいさい)など、全校生徒が参加する仏教行事がある。また、「本校の生徒は、仏教専修科でなくても、高校生になると、般若心経(はんにゃしんぎょう)をそらで唱えられるようになります。道元禅師の教えをまとめた修証義(しゅしょうぎ)と共に、生徒手帳に載っています」。

    グローバル時代にも通じる禅の精神

    • カナダ英語研修旅行には4年生が全員参加する
      カナダ英語研修旅行には4年生が全員参加する

     禅の精神は世界にも通じている。グーグルをはじめとする世界的大企業が、仏教から派生した瞑想(めいそう)法であるマインドフルネスを社員研修に取り入れている時代だ。同校としても時代のグローバル化に対応するため毎年7月、4年生(高校1年)を対象とした全員参加のカナダ英語研修旅行を行っている。

     カナダは多くの民族がそれぞれの文化を保持しつつ共生しており、モザイク型社会と言われることもある。異文化共生を体験するうえで理想的な海外研修先だ。生徒たちはブリティッシュ・コロンビア州にあるビクトリア大学での寮生活やホームステイを体験しながら、姉妹校のグレンライオン・ノーフォーク校で12日間、カナダの生活、文化などについて学ぶ。

     「英語力を付けてほしいという目的もありますが、それ以上に、五感で違う文化を知る経験をしてほしい。異文化に対する関心を持つことの重要性が、非常に高まっているからです」

     「外国などに行きたくないと事前に言う生徒もいますが、行ってみると変わります。研修旅行は希望しないと言っていた生徒が、帰国してから、『カナダに帰りたい』と言うこともあるのです」

     同校の禅の精神は研修先でも真価を発揮している。「先方の校長に、『世田谷学園の生徒の振る舞いがよいのはどうしてか』と聞かれたことがあります。私が、『仏教・禅に基づく教育をしているからでしょう。仏教では当たり前のことを当たり前に行うことを大切にしています。挨拶(あいさつ)の励行、正しい服装、10分前登校、清掃整頓の四つを生徒が実践する目標としています』と説明すると、納得していました」

    体育祭、文化祭で主体性と協働性を養う

    • 主体性、協働性を培う「獅子児祭」
      主体性、協働性を培う「獅子児祭」

     同校は昨年から中1~高3の全学年縦割りの5チームで競う夏の「体育祭」を始めた。以前は、サッカー、バスケットボール、水泳などの競技が別会場で同時進行する学年別クラス対抗の「体育競技会」だったが、「一体感の感じられる行事にしたい」という生徒からの要望に応えた。

     広い競技施設を確保するために昨年は、国立代々木競技場の代々木第一体育館を借りたという。生徒一丸となっての体育祭となった結果、応援合戦は盛んになり、場内実況中継も大いに盛り上がったそうだ。

     「実行委員が中心となって、企画から運営まで行いました。教員はなるべく口を挟まないようにしていましたが、生徒が他の生徒に指示を出し、動かすというのは実はとても難しいことなのです。初めてのものを作り上げる産みの苦しみは、相当なものでしたが、涙あり、笑いありの新たな伝統行事になりました」

     秋の学園祭「獅子児(ししじ)祭」も、生徒が主体となって運営している。中学生の出し物は、1年生が「アートギャラリー」、2年生が「合唱コンクール」、3年生は演劇などの「身体表現」となっている。

     「獅子児祭」は、生徒が主体性、協働性を培う良い機会だ。「アートギャラリー」では、有名絵画をクラスの人数分のパーツに分割した切り絵を制作する。同じ青のパーツを受け持っても、隣同士で違った色合いになったりして簡単にはいかない。それを調整しながら仕上げていくことで、責任感や協調性が生まれる。合唱コンクールでも、練習の中で、みんなが自発的に意見を出し、よりよいハーモニーに仕上げていく過程を経験できるという。

     一人一人が主体性を発揮し、協力し合うことを中学3年間で学び、高校生になるとクラスの枠を離れて、有志で出展するようになる。

     「男子校の利点は、生徒が主体性を発揮する場が多いところだと考えています。共学だと、男子は成長の早い女子に押されてしまいがちなのです。主体性は、発揮するから育つものです」

    時代の求める人材目指して「算数特選入試」

     世田谷学園は、「Think & Share」を教育理念に掲げている。釈迦(しゃか)が生まれた直後に語ったとされる「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」の心を、端的に英語で表現したものだ。

     「この言葉は誤解されがちなのですが、自分だけが尊い存在だと言っているわけではありません。本当の意味は、生きとし生けるもの全てに、かけがえのない価値がある。あなたも私も、一人一人が尊い存在なのだということなのです。『Think』は、自らのかけがえのない価値を信じ、それを追求し、光り輝かせようという意味です。『Share』には、地球的規模で人々が交流する時代に、一人一人がお互いを認め合い、共生できる社会を求めようという思いが込められています」

     この意味で「Think & Share」の理念は、「明日を見つめて、今をひたすらに」「違いを認め合って、思いやりの心を」という二つの分かりやすいモットーに言い換えられ、生徒たちにも親しまれている。

     これらの理念に基づいて、同校が目指す人間像は三つある。「自立心にあふれ、知性を高めていく人」「喜びを、多くの人と分かちあえる人」「地球的視野に立って、積極的に行動する人」だ。一言でまとめるならば「賢く豊かでたくましい人」、つまり「智慧(ちえ)の人」となる。「悪知恵」など否定的な意味を含まない「智慧の人」を育てていきたいそうだ。

     もちろん社会が求める人物の変化に合わせ、教育も変わる。時代の変化に対応する取り組みとして同校は、2019年度に算数1科目の試験で選抜する「算数特選入試」を実施する。定員は30人で合格者のうち上位20人を特待生とする。

     「人間の仕事がAIに取られていくという論調がありますが、AIは計算機にすぎません。人間にはそれを使いこなす力が求められます。AIを使いこなす力、プログラムを読む力が文系、理系とも必要となります。そのためには数学、論理的思考力が必要になります。新しい大学入試でも論理的思考を求めています。本校はその基礎となるような論理的思考を伸ばす教育をしていきたい。算数特選入試の導入は、受験生や保護者に対するメッセージなのです」

    (文・写真:織江理央 一部写真提供:世田谷学園中学校・高等学校)

     世田谷学園中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年11月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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