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    校外学習で「本物から学ぶ」精神を身に付ける…駒場東邦

     駒場東邦中学校・高等学校(東京都世田谷区)は、中1から高2までの校外学習を通じて、テーマを見つけ探究し、論文化する学習を続けている。特に中3の奈良・京都研究旅行は圧巻で、厳しい審査をパスしながら全員が1年間かけて本格的な論文を書き上げる。担当教諭と優秀論文を書いた生徒たちの話を聞き、「本物から学ぶ」という同校の精神を紹介する。 

    厳しい論文指導「逃げることはできません」

     同校は、中1の霧ヶ峰林間学校、中2の鎌倉見学、中3の奈良・京都研究旅行、高2の修学旅行と、校外学習の機会の度に生徒が自分でテーマを見つけ、調べ、論文化する学習を行っている。

    • 「本物から学ぶという駒東の精神を大切にしている」と話す堤教頭
      「本物から学ぶという駒東の精神を大切にしている」と話す堤教頭

     この学習について堤裕史教頭が説明する。「本校では創立以来、発見や気付きを大切にし、それを言葉にして表現できる生徒を育てようと、トータルに校外学習を設定しています。フィールドで見たものに気付き、調べるというのは訓練しないとできませんが、それをまとめるのがリポートの基本です。『本物から学ぶ』という駒東の精神を大事にしています」

     校外学習の最初は、中1の7月に出かける霧ヶ峰林間学校だ。事前に「観察手帳」が配られるが、これは1978年に初版、2018年に13版となっていて、40年間も続いていることが分かる。

     堤教頭によると、この手帳には霧ヶ峰・諏訪の地形や歴史、生息する植物や鳥類などが詳しく記載され、後半は植物検索表になっている。「この観察手帳で事前に地域の地理を学ぶほか、植物を見分けるのに花や葉のどこを見るのかを学びます。すると現地で観察した植物の名称が分かるようになります」。

     例えば、黄色い花を見つけたとする。まず、花びらが一枚一枚離れている「離弁」なのか、一部あるいは全体がくっついている「合弁」なのかを見分ける。離弁だとして、さらに、小さな葉が細い軸の左右に並ぶ形の「羽状複葉」ならキンミズヒキ、と判明する。

    • 中1の霧ヶ峰林間学校で配られる「観察手帳」
      中1の霧ヶ峰林間学校で配られる「観察手帳」

     観察手帳に植物のスケッチをし、各自が自然科学の領域であらかじめ設定されたテーマの中から一つを選び、リポートを作成する。現場で見たものを大事にし、歩いて調べたことをまとめるのだ。どのようにして調べるかについては指示があるが、まとめ方や考察は各自次第となっている。「リポートは生徒同士で見せ合うことになると言っておきます。すると、恥ずかしいものは書けないと感じるのでしょう、生徒たちはがぜん工夫してくるのです」

     観察手帳とリポートは夏休み明けに提出する。「場合によっては生徒を呼び出して、なぜこの結論なのかと問いかけ、何度でもやり直しさせます。翌年のステップとなるものです。先輩もずっとやってきた本校の伝統です。逃げることはできません」

     中2は鎌倉見学だ。校外学習を担当する向井恒爾教諭は「フィールドは鎌倉に設定していますが、テーマは自分で決めます。内容は自然科学だけでなく人文社会にも広がります。テーマの自由度が増すので、調べ学習が好きな生徒はどんどん進めていきます。一方、テーマを見つけられず苦しむ生徒もいますが、これから生きていくうえで与えられたテーマだけをやるわけにはいきません。自分でテーマを設定できるよう、教員が粘り強くサポートしていきます」と話す。

     テーマの範囲が広がる分、現地調査の手法も多様になる。アンケートやインタビュー調査の方法、実測時の留意点、得られたデータの統計処理の仕方についても学ぶ。そうしてできあがったレポートは中1に比べ、いっそうさまざまな視点や関心を表現したものとなる。例えば「外国人観光客のフリーWi-Fi(ワイファイ)の使用状況」といった社会的なテーマの論文も出てくる。優秀作品は1月に生徒全員の前でプレゼンテーションすることになっている。

    中3の論文は合格まで四つの高いハードル

     中学の校外学習の集大成である中3奈良・京都研究旅行は、いっそう力が入ったものだ。その準備は、中2の2月から始まる。「奈良・京都研究旅行 論文課題冊子」という文書が生徒に配られる。この冊子は、疑問を見つけ、課題を設定する「水仙の(じょう)」、文献資料調査を行い、現地調査計画を立案する「さくらの帖」、いっそう具体的な現地調査を立案する「ひまわりの帖」、研究旅行後に論文を作成する「稲穂の帖」、の四つから構成されており、「帖」ごとに担当教員から期日までに合格をもらわなければならない。

     「1人の研究旅行担当教諭につき約20人の生徒を見ていますが、それぞれの帖で、1回で合格できる生徒は3、4人です。あとの生徒は随時やり直しをさせます」と向井教諭は話す。

     全員が取り組む奈良・京都研究旅行の論文から同校は優秀作品を選んで、毎年「優秀論文集」を発行している。「京都駅によって生じた南北分断―どこまで分断は進んでいるのか―」「地域による新聞の差異―全国紙と地方紙の存在―」「寺の床と使われなかった椅子」など、興味深いタイトルが並んでいる。

     優秀作に選ばれた「京都市における景観の詳しい実態~今後の京都市における景観のあるべき姿とは」を執筆した安藤裕基君に話を聞いた。

    • 安藤くんが調べた資料や原稿をまとめた分厚いファイル
      安藤くんが調べた資料や原稿をまとめた分厚いファイル

     この論文はA4で30ページあまりに及ぶ大作だ。原稿や使った資料などをファイルした冊子を見せてもらうとかなり分厚く、資料にはたくさんの付箋(ふせん)が貼ってあった。「2月から準備を始め、テーマを立てます。4月の時点では『京都と奈良では景観保全という点において、どのような違いがあるのか?』というテーマでしたが、課題が多く、先生と何度も話し合った末、京都に絞って多面的に調べることにしました」

     研究旅行では現地の景観調査のほか、京都市役所の担当者に話を聞き、住民や観光客へのアンケートを友達にも協力してもらって多面的に調べ上げた。

     「初校の提出の直前に2学期の中間テストがあったので大変でした。その後も何度も書き直しして、優秀賞をもらうことができました。景観を守るための費用を捻出するために、逆に景観を壊すマンション建築が行われた例などを知って、この問題の難しさを感じました」

    高度な知識も動員して自ら公式を導く

     「鐘楼が梵鐘(ぼんしょう)を吊るせた要因」という論文で優秀賞を取った佐々木貴史君は、「テーマを見つけるのが大変でした。宝物や仏像についてやろうと思っていたのですが、先生に厳しいコメントをもらい、『水仙の帖』では、再々々提出になってしまいました。いろいろと探しているうちに、鐘楼は10トンもの重さなのにどうやって()るせるのか、という疑問に行きついたのです」と振り返る。

     しかし、取り組んでみると、高校で習う数学の微分積分の知識が必要になり、「まだ習っていないし、分からないことだらけで、なんでこんなテーマにしたのだろうと後悔したときもありました。先生に何度もダメ出しされて、心が折れそうになったときもありました。でも、先生の思いが伝わり、適当にやって後悔して終わらせたくない、と思うようになったのです」

     試行錯誤の末、吊るせる重さには規則性があることが見つかり、自分で物理的な公式を導きだすことにも成功した。「優秀賞に決まってからも、発表する前に、さらに論文を書き直しました。みんなの前で発表するのに、恥ずかしいものでは納得できないと思ったのです。今はやってよかったと思っています」

    ペーパーテストでは測れない力を伸ばす

    • 「ペーパーテストでは測れない力を伸ばす」と語る向井教諭
      「ペーパーテストでは測れない力を伸ばす」と語る向井教諭

     中3で厳しい論文作成を経験して地力を付けた後、高2の修学旅行では、フィールドもテーマも自由となり、全て自分たちで決めることができる。

     「修学旅行委員がどこに行きたいかプレゼンテーションをして、行先を二つに絞ります。生徒たちのやりとりを聞いていると、『遊びに行くんじゃないんだから』と言ったりしています。ただ遊びに行くことには慣れてないんですね」と堤教頭は笑う。

     今年は北海道とシンガポール、来年は北九州とベトナム、というように毎年自分たちでフィールドを設定している。リポートのまとめ方もその年ごとにさまざまに工夫されて1冊の分厚いレポート集になっている。

     向井教諭が話す。「普段の勉強では受け身な生徒が、校外学習になるとがぜん燃えたりする。生徒の違った一面を発見できるのです。逆に普段の授業では積極的な生徒が苦しんでいるケースも見られます。ペーパーテストでは測れない力が伸びる学習活動だと思っています」

     同校は、研究者や学者、医師や国家公務員などを多く輩出し、企業でも多くの卒業生が活躍している。中高生でこうした学び方を習得し、論文を作成できる力が、その後の人生において大きく花を咲かせるための基盤となっているのだろう。

    (文・写真:小山美香)

     駒場東邦中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年10月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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