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    効率を求めないことが教育の生命線…甲陽学院

     関西の名門、甲陽学院中学校・高等学校(兵庫県西宮市)は今春も、東大、京大など難関大学や国公立大学医学部医学科への現役合格者を多数出した。それは特別な進路指導によるのではなく、生徒の希望を最大限かなえようと努めた結果だという。「気品高く教養豊かな有為の人材の育成」という教育方針に象徴される同校の教育哲学、指導の実際を今西昭校長に聞いた。

    進路のアドバイスはしても指導はしない

    • 「欲望を慎むことが身に付いている人になってほしい」と語る今西校長
      「欲望を慎むことが身に付いている人になってほしい」と語る今西校長

     同校は1学年200人程度の学校だが、2018年春には現役生97人が東大、京大を中心とした国公立大学に合格し、そのうち23人が医学部医学科に進んだ。既卒生を加えると181人が国公立大学に合格し、そのうち45人が医学部医学科となっている。


    ――東大と京大に進学した現役生は44人。およそ5人に1人にあたります。既卒生も加えると東大と京大に70人が進学しています。

     生徒たちはよく頑張ってくれていると思います。そう言いながらも、私はこの言葉に違和感を持っています。生徒が行きたい大学に行かせる。学校の役割は生徒の希望を最大限かなえることですから、数を誇る気持ちはありません。

     進学校と呼ばれることで誤解されているかもしれませんが、生徒に「この大学に行きなさい」とは一切言いません。ですから、本校には進路指導部がないのです。とはいえ放置しているわけではなく、高等学校には進学資料室を置いて色々な資料を備え、常に2人の教員が張り付いて生徒からの相談に応じています。「京大の何々学部を受験したいのですけれど」という生徒が来たら、「まぁ有望だね」「なかなか難しいね」などとアドバイスはしますが「だから京大受験はやめなさい」とか「だから東大も行けますよ」ということは一切言いません。

     大学進学は通過点です。また、取材の場でよく聞かれるのですが「自慢の卒業生を教えてください」という質問には困ります。みんな自慢の卒業生です。つい最近も「社会で活躍している卒業生を紹介してください」と言われたのですが、例えば家族のために毎日介護に尽くしている人は数に入らないのだろうか、いや、私の考えでは入るのです。大事なのは社会的な名声ではありません。生徒には充実した人生を送ってほしいと願い、教育を行っています。

    中学生は形から指導し、高校生は自主自律

    ――教育方針に掲げる「気品高く教養豊かな有為の人材」を説明してください。

     「気品高く」という意味は、上品であり、下品でないことです。下品とは、欲望のままに振る舞う態度だと思っています。欲望は、食欲、性欲、名誉欲、権力欲、金銭欲など実にさまざまです。おなかがすいたからと電車の中で座り込んでパンを食べる子をよく見ますけれど、欲望に負けているので下品です。おなかがすいてもそこは我慢する。それが気品ある態度だと思います。「教養豊かな」とは「気品高く」とほぼ同義です。教養があれば、あこぎなことはできないでしょう。より具体的には、権力にこびないこと、お金の奴隷にならないことです。一般化すると、生徒たちには、欲望を慎むことが身に付いている人になってほしいと思っています。

    ――「欲望を慎む」というのは具体的にはどのように指導するのですか。

    • 中学は制服を着用。しっかりしつけも行う
      中学は制服を着用。しっかりしつけも行う

     子供は場をわきまえないものです。ですから中学に入学したばかりの生徒には言葉にしてはっきり伝え、形から指導していきます。中学の3年間は生活面も学習面も丁寧に見守っていきます。

     街に出れば、暑い時期はアイスクリーム、寒くなれば肉まんが売られていて、簡単に買うことができます。私たちは欲望を刺激する社会に生きているのです。「登下校の間には買い食いをしてはいけませんよ」と言い、生徒指導の先生がときどき自転車で界隈(かいわい)をぐるぐる回ってみることもします。

     中学には制服もありますし、通学路を定め、そこを通らせるようにしています。「自由な校風だと聞いていたのに甲陽学院は厳しいのだな」と思われる方もいるかもしれませんが、ルールの押し付けではありません。入学したばかりの中1生、特に男の子は小学生の気分を多分に残しており、実に子供っぽいものです。ですから、中学のうちはしつけについてうるさく言います。

     規則を守ることに厳しいのは中学のうちだけで、高校になると制服もありませんし、規則もほとんどありません。自由には責任があると分かる年齢ですから。

    • 高校生は私服。規則は少なく、生徒の自律性に任される
      高校生は私服。規則は少なく、生徒の自律性に任される

     勉強の面では、学習習慣ができていない中学のうちは宿題がたくさん出されます。提出が悪かったりすればずいぶん叱られますし、保護者にも連絡が行きますが、学校の成績が悪くなったからといってクラブ活動をやめなさいということはありません。中高の6年間をかけて、最終的に自学自習ができるようになればいいと考えています。

     中学には10の運動部と10の文化部があって、兼部もOKなので実際、100%以上の入部があります。


    6年間で受験勉強を超えた学力を

    ――勉強や授業の進め方について詳しく話してください。

     学習面においては6年間の連続性を重んじています。中高一貫校ですから高校入試に備えた勉強は不要です。先取りができますし、大学受験に直接関係ないことまで深く広く学ぶ余裕もあります。

     また、英、数、国の先生は、中学から高校へと生徒と一緒に持ち上がりです。6年間の展望の中で、中1では何をしよう、中2では、と計画を立てます。受験を考えれば言わずもがななシラバスもありますが、単なる受験勉強にとどまらない勉強の奥深さをどう加えていくかが重要です。そこは先生一人一人の工夫であり、信じて任せています。知識を与えるだけでなく、その後に深い興味や関心を持つようになることを重んじて教育をしています。

     たとえば英語では、中学の早い時期から文法を厳しく指導していくと、中学3年の模擬試験でいい成績が出たりします。しかし、高校3年でもいい成績が出るかというと必ずしもそうではないのです。6年間持ち上がりの先生にとってはストレスですが、途中の模擬試験ですぐに結果を求めず、一喜一憂しないで6年間で見ていくことが大事です。

     中学では数学も英語も、公立学校の2倍の週6時間を取っています。数学では、プラスの3時間分を幾何にあてます。公理、定理から証明することに時間をかけますから、今はやりの「表現力・発想力・論理的思考力」の育成などは、改めて取り組む必要がありません。英語でプラスの3時間に、英語の小説を読むなどしてたくさんの英文に触れるなどします。本校での学習では、受験学力は必要条件ですが、十分条件ではないのです。 

     高3生は文理一緒に国語の授業をしています。理系だからといって国語の授業数を減らすことはしていません。せっかく最後の1年だから日本を代表する物語を何か一つ読ませたいと、どの先生も思うようです。昨年は源氏物語をやっていました。たとえば社会人になってイギリスに行ったとして、一緒にランチを取るときに日本の古典について聞かれることもあるでしょう。一人で古典を読むのは大変ですからね。高3生から何の文句も出ませんよ。

     教育とは、これこれをしたら、こんな成果が出ました、というような単純なものでも短期的なものでもないのです。すぐに結果を求めないことや、効率を求めないことは甲陽の生命線です。ラテン語でハビトゥス (habitus)という言葉があります。英語ではhabitです。日本語でいえば「気風」に近いかもしれません。それを学校で日々折々に感じ、体験することで6年後に卒業していくとき、「甲陽は自由だったな」と多くの卒業生が振り返ります。制服がないから自由、校則がないから自由ではないのです。

    • 水と緑の夙川オアシスロードが最寄り駅からの通学路
      水と緑の夙川オアシスロードが最寄り駅からの通学路

     最寄りの駅から中学へは、夙川オアシスロードという歩行者専用の大変気持ちの良い道が通っています。ぜひ、その遊歩道を通って、本校の見学にいらしてください。

     (文・写真:水崎真智子 一部写真提供:甲陽学院中学校・高等学校)

     甲陽学院中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

    2018年07月31日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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