文字サイズ
    中学受験サポートに協賛する会員校の特色や、会員校からのお知らせなどを掲載しています。

    自分の軸をつくる「創発学」…日本学園

     日本学園中学校・高等学校(東京都世田谷区)は、独自の教育プログラム「創発学」によって生徒の天性を見つけ、伸ばす教育に取り組んでいる。このプログラムは、昨年度校長に就任した水野重均先生らが教員時代に開発を始めたもので、130年余り前に同校を創立した思想家・杉浦重剛の精神をくむ内容となっている。水野校長に「創発学」の意義や活用の実際を聞いた。

    時代の変化に左右されない人間になる

    • 「創発学」の開発を手がけた水野校長
      「創発学」の開発を手がけた水野校長

     水野校長は日本学園の卒業生。1989年に母校の情報科教員に就任し、商工業系高校の科目だった情報処理を、普通高校の授業として確立した。「創発学」は、情報科教員として培った教育観をもとに、15年ほど前、国語科の谷口哲郎教諭(現・中学部長)と共に開発を始めたプログラムだ。

     「現代は、最先端の技術を習得してもすぐ時代遅れになるのです。ですから教育は今の社会ではなく、生徒たちが将来生きる時代を見すえて、その時に役立つ人財を育てなければなりません」と水野校長は語る。「創発学」の目的は、世の中がどんなに変化しても振り回されず、試行錯誤しながらも自分なりの答えを見つける力を育み、ぶれない自分をつくることだという。

     同校の校祖・杉浦重剛は「人は得意な道で成長すれば良い」という言葉を残している。では、得意な道を見いだすにはどうしたらよいのか。「社会の中で自分がどんな存在か、またどうありたいかという意識が、天性の見極めにつながります。自分を確立すれば、AIの時代が来ても、世の職業が変わっていっても対応できるはずです」と水野校長は答える。「創発学」はそのためのプログラムでもある。

    林業・漁業・農業を五感で学ぶ

    • 「甲斐の国 大和自然学校」での間伐作業
      「甲斐の国 大和自然学校」での間伐作業

     創発学の「創」は、研究、調査、取材などを通して「創造する力」を意味し、「発」は、そうして作りだした成果を他者に向けて「発信する力」を意味する。この二つの力を身に付けるための具体的プログラムは、(1)「体験」を中心とした「フィールドワーク」、(2)自らの将来を考える「キャリアエデュケーション」、(3)それらを他者に説得的に伝えるためのスキルを学ぶ「プレゼンテーション」の三つの柱からなっている。

     「フィールドワーク」は、第1次産業の実地体験を中心に行われる。「原始時代から人間は森林に食料などを求め、次いで川や海で漁を行い、田畑で作物を育て始めました。つまり林業、漁業、農業。この道筋をたどることで、社会のあり方を肌身で学ぶことができます」

     中学に入学してすぐ、甲州市の自然体験型宿泊施設「甲斐の国 大和自然学校」で1泊2日の合宿を行う。地元の林業従事者の案内で、森林を見学し、間伐作業などを体験する。中1の夏休みには、静岡県沼津市の内浦漁協の協力で漁業を体験する。アジの養殖場見学や伝統的な「カゴ漁」を体験するほか、魚市場で競りや出荷などを見学する。中2の夏は農業体験があり、栃木県大田原市の大規模農家へ4、5人のグループで宿泊し、草取りや収穫など農作業の手伝いをする。

    • 大規模農家で草取りや収穫の手伝いをする
      大規模農家で草取りや収穫の手伝いをする

     「森林では、生息する動物の足跡や食痕、伐採時の香りなど、生態系を五感で感じられます。カゴ漁では自作の餌で漁を体験しますが、取った魚の値付けの話から経済への意識が芽生え、日常の食卓にも関心が湧くでしょう。作物の収穫体験では『休憩がなければ続けられない』など労働への気付きがある。さらに、取材では良い質問をしないと良い答えは得られないし、記録写真も人に伝わるよう撮る必要がある。座学では得られないことを体で学び、自分と社会とのつながりを認識していきます」

    周囲に取材して就きたい職業を見つける

     「キャリアエデュケーション」では、職業の取材を通して社会を見つめ、将来について考える。生徒たちはその過程で自分の天性を見極めていく。

     中2の秋に開かれる「あつき恵み教室」が「キャリアエデュケーション」の手始めだ。「教室」では、さまざまな職業の人を講師に招き、生徒はその中から2人を選んで話を聞く。昨年度は大使館員、CGクリエーター、文具デザイナー、航空宇宙科学エンジニアの4人を講師に招いた。

     「本校は1学年20~30人なので、講師1人に生徒が5~7人の割合となり、たっぷりと対話や質問ができます。少人数教育の強みです」

     この「教室」に先立って生徒たちは、保護者や身近な人に仕事についてのインタビュー取材を行っている。取材内容はクラスで発表され、生徒たちはさまざまな職業について知識を交換し合う。これが事前準備となり、「教室」での講師の話を十分、消化できるようになるのだ。

     「教室」の後は、自分の就きたい職業について、インタビューや経済や法律の学習、ライフプラン作りなどの学習を重ね、中3で「15年後(30歳)の自分」をテーマにした研究論文を執筆する。

     論文作成の際には、「必ずその職業の人を訪ねて話を聞く」という鉄則がある。保護者や親戚などの範囲で取材対象が見つからなければ、保護者の知り合い、教員、学校関係者、卒業生関係にもつてを広げて探し、自分でアポイントメントを取る。それもまた学習の重要な要素なのだ。

     「その仕事の面白さやつらさなど、当事者しか知らないことがたくさんありますから。トップクラスのスポーツ選手に会った生徒もいるし、『古生物の研究をやりたい』と新潟大学の教授に会いに行って、その後入学した卒業生もいます」

     「中には『そんな意識じゃこの仕事はできないよ』と説教されてきたり、他の仕事に魅力を感じてテーマを変更したりする生徒もいます。いずれにせよ、やりたいことを通して自分を見つめ直すこと、たくさんの人と関係して自分の世界を広げていくことが自立につながります」

    • 「15年後の自分」論文の発表会
      「15年後の自分」論文の発表会

     最後は「プレゼンテーション」だ。「フィールドワーク」と「キャリアエデュケーション」を通して、職業への意識を高め、調査や取材で得た知識や経験を資料にまとめてクラスや校内で発表する。

     その集大成が、中3の1月に実施する「15年後の自分」の研究論文発表会だ。中学生全校生徒の前で、一人一人が壇上でスライド資料なども交えて発表や質疑応答を行う。聞き手である中2、中1も、自分が発表するときのことを思って活発に質問するという。

    受験勉強にも広く好影響を及ぼす

     創発学は、受験勉強にもよい影響を与えているという。たとえば、同校は国語教育にも力を入れており、中高生全員に大学入学共通テストの現代文の問題に挑戦させている。

     「『創発学』の中で取材やまとめ、発表を通し、言葉の運用能力やコミュニケーション力が磨かれますから、中学生でも好成績を上げる子が結構います。国語の基礎力が上がれば、英語学習にも有利になります」

     各教科の授業も創発学と同じく自分で考え、まとめ、発表する手順を取り入れていて、科目を超えた合科型の授業も多数行っているという。

     水野校長はさらに、創発学による意識づけと学力向上の関連性を指摘する。「将来を見据えて『何のために学ぶか』を意識するため、最後まであきらめない強さも育まれます。こうした中学での蓄積が、高校時に爆発的な伸びになって表れる生徒は多いですね」

     今年度は、高校にも創発学の授業を導入した。中学の創発学により蓄積された教育上の知見をもとに、自発的な思考、討論、発表を通して自らの答えにたどり着く能力の研鑽(けんさん)を目指すという。沖縄の基地問題や、人工知能が人間の能力を超えることが予測される2045年問題といった、今日的なテーマを設定し、さまざまな視点でグループワークやディベートを行う予定だ。

    「時代がどう変わっても、生徒の天性を伸ばすという教育の本質は変わらないはず」と水野校長は語る。創発学のさまざまな展開も、同校の揺るぎない伝統を形作っていくのだろう。

     (文・写真:上田大朗、一部写真提供:日本学園中学校・高等学校)

     日本学園中学校・高等学校について、詳しく知りたい方はこちら

    2018年07月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    スクールヨミダス