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    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    ファンタジー小説で鍛える読解力…尾方康記

    冒険もの、友だちとの関わり、家庭、クラブ活動、初恋…多彩なテーマから出題

     ここ数年、中学入試に出題される物語や小説には、さまざまな作品が取りあげられるようになりました。

     岩波少年文庫や青い鳥文庫、フォア文庫といった名作シリーズに加え、ポプラ文庫ピュアフル、角川つばさ文庫など、みなさんの世代を対象とした出版物が増えたことも影響しているのでしょう。これらは、装丁がカラフルだったり、文庫本にして価格をおさえたりと、みなさんが手に取りやすい工夫もなされています。

     描かれるテーマも、冒険ものや伝記といった定番の他に、身近な話題、たとえば、友だちとの関わりや学校生活、家庭、スポーツ、クラブ活動、初恋など、みなさんの世代がぶつかる問題や近い将来に出合うことになる悩みなどになっています。

     中学入試の国語の問題で取り上げられる文章は、そういった本の中から選ばれることも多くなりました。もちろん、児童文学系の出版社から出された本や一般の書籍からの出題もあります。

     男性作家で多く見られるのは、やはり重松清さん。また、香坂直さん伊集院静さん吉橋通夫さん川端裕人さん、若手なら朝井リョウさんなども人気があります。さらに、伊坂幸太郎さん荻原浩さん堂場瞬一さん中田永一さん誉田哲也さん朱川湊人さんといった、ミステリーやサスペンスを書いている作家が書いた青春小説や家族小説が出題されることもあります。

     女性作家では、椰月美智子さん森絵都さんあさのあつこさん瀬尾まいこさん岩瀬成子さん佐藤多佳子さん草野たきさん小川洋子さん辻村深月さん市川朔久子さんまはら三桃さん長野まゆみさんなどなど、……枚挙にいとまがありません。

     最近では、誰か決まった作家の作品ばかりが取り上げられるというより、バラエティーに富んだ作品群から出題される傾向があるようです。

    「他者との関わり」…入試問題を作る先生たちの問題意識

     保護者の方々や受験生のみなさんから、「受験までにどのような本を読んでおけばよいでしょうか」という質問をよくいただきます。時には、「今年は何が出題されるのでしょうか?」というストレートな質問をなさる方もいます。

     入試直前の時期に「出題されそうなものを読みたい」という切実な思いは理解できます。ただ、今はまだ時間があるのですから、読書の本質的な楽しみを探ってみてはいかがでしょうか。

     本を読むことには、登場人物と自分を重ね合わせて「ああ、この気持ちはわかるなあ」と共感したり、「へえ、この人ってこんな感じ方をするんだ」と「他者」を理解したりと、本の内容を通した疑似体験でみなさんの内面世界を拡大していくという働きがあります。

     「他者」、つまり、友達や先輩、先生、家族などを理解することは、中学校という新しい環境でみなさんが自分の可能性を広げていくことへとつながっていきます。中学の先生たちはクラス運営を通じてそのことに心を砕いています。入試問題を作る際に「他者との関わり」をテーマとして選ぶことが多いのは、そんな先生たちの問題意識の表れかもしれません。

    解き進めることで、その文章内容の理解が深まる出題

     入試問題を解くために課題文を読んでいると、「受験生にしっかり考えさせる、こんな作品をよく見つけてくるなあ」と、問題を作った先生に頭が下がる思いがすることもたびたびあります。今春の入試問題を解いていても、そんな思いにさせてくれる学校が数多くありました。

     さらに、問題を解いていると、言葉の知識や文章の一部分の内容の解釈がやさしい問題で示されているので、それにきちんと答えると、手がかりになって全体内容をつかむことができたり、内容のわかりづらいところが理解できたりするということがあります。

     そのような、解き進めることによってその文章内容の理解が深まる問題作りがなされていると、「先生が受験生のつまずくところをよく知っている」=「先生が生徒のことをよく見て、理解している」ことがうかがえて、卒塾した生徒たちがその学校に通っていることに満足し、学校生活のことを楽しげに話しに来てくれることにも合点がいきます。

     何かを読んでみようと思う時、誰かに薦められて、その本を読んだ人の(おも)いを共有したくなることがありますね。入試問題で出題された作品を読むというのも、そんな気持ちに近い気がします。志望校の過去問題で取りあげられていた作品や塾のテキストに掲載されている作品を一冊まるごと読んでみる。もちろん、「面白いと思ったから読みたい」というのでよいのですよ。

    2016年03月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
    プロフィル
    尾方康記  (おがた・やすのり
     中学受験塾アクセスの国語科専任。1965年生まれ。大手進学塾専任講師として最難関校選抜クラスを担当後、香港に移住、小中高生の受験指導を行う。帰国後の2001年にアクセスに参画。偏差値ではなく、子ども一人一人の適性に合った学校選びや受験を保護者に提案している。学研『言葉力』シリーズ監修者の一人。
     
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