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    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    女子学院同窓会で年齢退行…辛酸なめ子<8>

    1人ずつマイクで、皆の前で

     同窓会に行く前はいつも緊張しています。過去の中高の同窓会を振り返ると、だいたい敗北感に包まれフェイドアウトした記憶です。昔()た同窓会がテーマの映画で印象的だったのが「ロミーとミッシェルの場合」。高校時代、スクールカーストの下位だった2人の女性が、同窓会で成功者のフリをしようとするのですが、「ポストイットを発明したのは私よ!」なんてすぐバレる(うそ)をついて玉砕する、というストーリーが身につまされつつも面白かったです。

     私はそこまでホラッチョはかませませんが、同窓会のために服や靴など新調したものの、靴ずれでろくに歩けなくなったり、レンタルバッグ屋でブランドバッグを借りたら汚して顔面蒼白(そうはく)になったり、同窓会どころではなくなったことが何度かありました。また、母校・女子学院の、学年単位の同窓会では、以前「近況報告タイム」という恐ろしいプログラムがありました。1人ずつマイクで皆の前で、仕事の活躍や結婚などについて報告するというもの。私はその間トイレにこもってやりすごしたこともあります。20代の同窓会は、とにかく皆まぶしくてキラキラしていました。30代前半は、それぞれライフスタイルが変化。でも皆さん充実して輝いていました。30代後半は、キャラが煮詰まってディープになってきた感があります。40代は、もっとディープに、アクが強すぎる集団になっていたりしないかな(もちろん自分も含めて)、と半ばおそるおそる会場に向かったのです。

     会場のイタリアンレストランの入っているビルは、休日のためオフィス部分は人気がなく、でもビルに入った瞬間からざわめきが聞こえてきました。お店に近づくにつれて、ガヤガヤという音が大きくなってゆきます。この音圧、そしてトーンは、あきらかに同級生のヴァイブス。年齢的にもっと声が低く割れていてもおかしくないですが、不思議とその声の塊は、中高の校舎にタイムスリップしたかのようなざわめき感でした。

     お店に入ると、そこにはなつかしい同級生の面々が。あれっ、そんなに老けて……ない? 不思議なことに、同級生のひいき目かもしれませんが、10年、20年の時間の経過がなくなったかのような錯覚を覚えました。30代の厄年をくぐり抜けて、軽やかになったのでしょうか。もしくはこの同窓会会場だけ特別な、時間の存在しない空間になっているのかもしれません。よく年配の方が、女学校時代の友達と会うと時間が戻る、なんておっしゃいますが、そのタイムスリップ効果を改めて実感しました。皆さん自然体で、虚勢を張ることもうわべを飾ることもなく、当時の(たたず)まいのまま存在していました。

     学校によっては同窓会では夫の自慢とかセレブアピールがあったりするのかもしれません。でも、女子学院の同窓会ではそのような風習を今まで体感したことがありません。既婚、未婚、子どもの有無、仕事を続けているかどうかなども取り立てて話題にはならず、級友との再会をただ懐かしむモードに。私など先生を物陰からこっそり見て挙動不審になったり、言動も中高時代に戻ったかのようです。

    懐かしい思い出、そして黒歴史がよみがえる空間

     出し物としては、まず、歌と演奏がありました。適度にざわめいている中、有志が前で歌ったりヴァイオリン演奏をしたり。そういえば音楽の先生のキャラ、強烈だったっけ、などと思い出がよぎります。芸大の音楽科に進んでマリンバ奏者になった同級生の素敵(すてき)な演奏もありました。レストランにわざわざマリンバを搬入して……幹事さんお疲れさまです。

    • 同窓会もたけなわです。お店の人は何回も写真撮影を頼まれていて申し訳なかったです。
      同窓会もたけなわです。お店の人は何回も写真撮影を頼まれていて申し訳なかったです。

     音楽といえば、同級生のアナウンサー、馬場典子さんが、「あいつ今何してる?」という番組に最近出演し、芸大で尺八を専攻し、その後、音信が途絶えていた同級生の足跡をたずねたそうです。番組の一部が店内のモニターで放映されました。その、Iさんは尺八演奏家の道には進まず、今はアメリカのコーネル大学の日本語講師をされているとか。馬場さんとは中高時代、体育の成績でライバル意識を抱いていたそうです。Iさん、濃い人生を送っています。同窓会の後半に、用事があって一瞬だけIさんが立ち寄ってくれて、めったに会えないレアな人なので盛り上がりました。

     他に印象的だった会話などは……。

     富山県の自然豊かな牧場に転居した同級生Fさんの話。わりと最近、同級生30人がその牧場に遊びに来て、40代女子が次々と木登りしはじめたそうです。よく、女子校のたとえ話で、空き缶が落ちていて、拾ってゴミ箱に入れるのは雙葉(ふたば)生、本を読むのに夢中で気付かない桜蔭(おういん)生、女子学院生は缶蹴りをはじめる、というものがありますが、あながちまちがっていないかもしれません。何歳になっても、木があったら登るのがJGマインドのようです。

     富山に暮らす同級生は、かつて合掌造りの家屋では加賀藩の弾薬を作っていた、というマニアックな知識を教えてくれました。

     歓談中、当時の院長の斎藤先生へのメッセージを色紙に書いて回すことになりました。色紙を見ると感謝の言葉など書かれていて、優等生モードです。そんな中、同級生のAさんが、「私、院長先生に理不尽なことで怒られたから……」と書くのをしぶっています。「どうして?」と聞いたら「ガラスの屋根を割っただけなのに怒られて……」と、Aさん。それは普通怒るのでは? 学校の器物を損害したわけですし。「でも、保険下りたんだよ」と、釈然としない様子。女子学院出身の手強いキャラを物語るエピソードです。しかし在学中、私はよくAさんと一緒にいろいろないたずらや悪事をしていた記憶が、封印していた海馬の奥からよみがえってきました……。その中で、わりとライトなものは「泥棒ごっこ」です。学校の体育祭のための集金袋をクラス全員分入れた布袋を、私がわざと持って走り出し、Aさんが「池松さん(本名)がお金を盗んでる!」と叫ぶ、といういたずらでしたが、皆にスルーされて寂しかった思い出が。

    • データで送られてきた「ハレルヤ」の楽譜。今見るとどこをどう見れば良いのかわかりません……
      データで送られてきた「ハレルヤ」の楽譜。今見るとどこをどう見れば良いのかわかりません……

     様々な黒歴史が交錯する中、校歌や讃美(さんび)歌に続き、場を浄化するような「ハレルヤ」の合唱がありました。中高のクリスマス礼拝で歌った曲なので、いまも部分的に歌詞やメロディーを覚えています。ソプラノ、メゾ、アルトにわかれて大合唱し、最後は感動に包まれました。女子校の同級生は、年を重ねるに従い、運命共同体というかソウルメイト感が生まれてくるようです。

     今回の同窓会は、思い出の歌が多かったおかげで当時の気持ちを追体験することができました。ハレルヤを合唱しながら一体感に浸り、皆、歌声も全然変わってない、と思っていたのですが、帰ってデジカメの録画を再生してみたら、ソプラノの歌声にビブラートがききまくって、若干、熟女のメランコリーが……。やはり同窓会の間だけ、時間の魔法にかかっていたのかもしれません。

    プロフィル
    辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
     漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

    2018年08月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
     
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