文字サイズ
    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    偏差値に振り回されない志望校選びを目指す…後藤卓也

    志望校を決め、対策を立てる時期が到来

    • 生徒の成績や学習態度も変わっていく(写真はイメージ)
      生徒の成績や学習態度も変わっていく(写真はイメージ)

     長い夏も終わり、いよいよ本格的に志望校を決め、合格のための対策を立てる時期がやってきました。

     ちなみに私たちの塾では、9~12月まで2週間ごとに塾内テスト(隔週日曜テスト)を実施し、それと並行して月に1度「大手模試」を受験させています。そして塾内テストが3回、大手模試が2回終わる10月上旬に、受験校決定のための個人面談を行います。

     そこから1か月半近く、保護者にはできるだけ幅広く学校見学会に出席していただき、生徒たちには志望校の過去問指導を始めます。そして11月末に2回目の個人面談を行い、保護者および本人の希望と、3か月間のテストの結果、そして過去問との相性などを総合的に判断して、受験チャートを決めます。

     塾ごとに進路指導の仕方や面談の時期などは異なるかも知れませんが、たぶん志望校決定までのスケジュールの大枠はそれほど変わらないでしょう。

    同じ偏差値50でも「質」は千差万別

     ただ私たちは、大手模試の「偏差値」や「合格可能性○○%」という数値は、あくまでも「参考資料のひとつ」としてしか利用しません。特に、「模試の『平均偏差値』が50だから、第1志望はA校、すべり止めはB校」といった進路指導は、無意味極まりないと思っているからです。

     中学入試は、学校ごとに出題傾向も採点方針も合格最低点もさまざま。大半の学校は3回以上入試を行い、入試日程ごとの難易度は違うし、その難易度も毎年かなり変動します。また同じ「平均偏差値50」でも、「4教科とも50前後」なのか「得意科目と苦手科目の差が大きいのか」、「ずっと50前後」なのか「上昇傾向にあるのか」など、一人ひとりの学力の「質」は千差万別です。

     さすがに、模試の平均偏差値40の生徒が「偏差値65」の超難関校に合格する、みたいな「ジャイアントキリング」は、私の記憶にある限り30年間でほんの数人ですが、「プラスマイナス10」程度はレアケースではありません。だから、受験校決定における私たちの基本方針はただひとつ。それは「臨機応変」(笑)。

     基本的には10月の面談で「第1・第2志望」を決め、2回目の面談で併願校を含めた受験パターンの基本方針を決めますが、一番大切なのは「最後の2か月」なので、1月中にも状況に応じて「再面談」を行います。1月入試を経験したあとで「大化け」する生徒は珍しくないし、2月3日まで不合格を続け、3日の夕方に本当の「最終面談」を行い、最後の最後に実質倍率10倍を超える第1志望校の最終試験で合格を勝ち取るケースだってあるのですから。

    カリテと大手模試の役割の違い

     塾内で実施する「隔週日曜テスト」は出題分野を指定したカリキュラムテスト。2学期以降は「総合実戦演習」を中心に指導する塾も多いと思いますが、私たちは()えて最後までカリキュラムテストにこだわります。

     それは、「これがこの単元について学習する最後のチャンスだ」という自覚をもって、真剣に授業を聞く、諦めずにしつこく質問する、きちんと復習する、そして、テスト前日には自分なりの作戦を立てて、優先順位や時間配分を考えて勉強する。そうした学習姿勢と生活リズムを身につけさせるためです。

     出題範囲の決まっていない「実力テスト」では、結果が良くても悪くても「努力した証し」も「前日にサボったツケ」も実感することはできないし、「フィードバック」をすることもできません。つまり「隔週日曜テスト」は「志望校判定のためのテスト」ではなく、「指導の一環としてのテスト」なのです。

     他方、大手模試を受験させる目的は「アウェイ」での戦いの緊張感と失敗の経験をさせること。塾内テストは受験者数も少なく、大きな「番狂わせ」は起こりにくい。だから上位クラスの「井の中の(かわず)」には大海の広さを思い知らせる必要がある。それでも大半の(男子)受験生の辞書に「危機感」という文字がないことは、昨年12月のコラムにも書いた通りですが……。

    https://www.yomiuri.co.jp/kodomo/jyuken/ranger/20171213-OYT8T50029.html

     逆に、塾内ではいつも「定(低)位置)」にいる子が、大手模試の志望校別成績分布グラフでは上位にランクされることもあります。仮にその学校が、保護者にとっては第7志望程度の「おさえ校」だとしても、「こんな成績じゃ、どこにも受からないわよ!」と「ダメ出し」ばかりされている子どもたちからすれば、やっぱりうれしいものです。

     つまり、塾内テストは「学習姿勢を矯正するためのテスト」、大手模試は「メンタル・コントロールのためのテスト」。だから何より大切なのは、テストの結果で一喜一憂することなく、「その結果をどうやってプラスの方向にフィードバックしていくか」なのです。

    母親の成長こそが最大のカギ(?)

     生徒の成績や学習態度も変わっていきますが、保護者の意識や覚悟も変わっていくことがあります。

     今年の10、11月は塾主催の学校見学会だけで15校開催します。ずっと「偏差値60未満の学校なんて受験する意味がない」と言っていたママが、我が子の成績に愕然(がくぜん)とし、とりあえずA校の見学会に参加。見学会後の感想会(保護者と私たちとのランチ会)で他のママたちと愚痴をこぼしあい、意気投合した結果、翌日「目からウロコが落ちました。A校を第1志望にします」なんてメールが届くことも珍しくありません。

    「お受験雑誌による格付け意識」に(とら)われていた母親が、「我が子の現実」を直視することをきっかけとして、これまで眼中にもなかった「A校の実態」を知り、同じ思いを抱えたママ友(戦友)たちと語り合うことで視野が拡がり、母親として成長する……などと書くと、「上から目線で、塾教師が自分の都合のいいように作り上げた話」みたいに受け止められるかも知れませんが、最後の数か月で「望外の結果」を残すことができる一番のきっかけは「ママが吹っ切れた」場合だと、経験的には思います。

    「吹っ切れる」というのは、決して「志望校のレベルを下げる」ことではありません。「震災のときに自宅から迎えに行ける学校以外は無理」と言っていたママが、1月受験の埼玉のD校に()れ込んで「第2志望にしてもいい」ということになれば、D校の結果次第でフレキシブルな受験作戦を組むことができる。その精神的な余裕が結果的に第1志望合格につながる、ということもあるのです。

    大切なのは「これまで」ではなく「これから」

    • 最後の1~2か月で「大化け」することもある(写真はイメージ)
      最後の1~2か月で「大化け」することもある(写真はイメージ)

     9月の模試でどんな結果をとったにしても、まだ残り4か月以上。これから子どもたちの成績や学習態度が本格的に「進化」していく可能性もある。いよいよ本格的に学校見学を始めることで、思いもよらぬ出会いや発見を経験することもある。そして最後の1~2か月で「大化け」することもある。

     大手模試の結果は「これまで」の学習結果を判定する「重要な参考資料」かも知れないけれど、少なくとも我が子の人生を予言する「神のご託宣」ではありません。これから学習面で何をするべきなのか、メンタル面でどんな対応を心がけるべきなのか、どの学校を見に行くべきなのか。大切なのは「これから」です。

     進学塾の教師は「平均偏差値に基づき、妥当な志望校を選定する存在」ではなく、「これからの変化や成長」に対して「臨機応変」に対応するバートナー兼アドバイザーでなければならないと私は思います。そして何よりも、保護者の皆さんが「我が子の平均偏差値」や「学校の偏差値」に振り回されるのではなく、子どもたちとともに成長し、彼らの「これから」を共に歩んでいく覚悟をすることが一番大切だと思うのです。

    2018年09月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
    プロフィル
    後藤卓也  (ごとう・たくや
    啓明舎塾長。1959年愛知県生まれ。東京大学教育学部博士課程修了。84年の啓明舎設立当初から時間講師として勤務。2年間の西ベルリン(当時)留学経験の後、再び啓明舎へ。94年から塾長。主な著書に『大人のための「超」計算トレーニング』『大人のための「超」計算 正しく速くカッコよく解く!』 (すばる舎)、『小学生が解けて大人が解けない算数』 (dZero社)、『大人もハマる算数 』(すばる舎)、『秘伝の算数』(全3冊、東京出版)、『新しい教養のための理科』(全4冊、誠文堂新光社)など。
     
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    スクールヨミダス