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    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    マリア様に囲まれた聖域、横浜雙葉…辛酸なめ子<11>

    校内にみなぎる波動の高さ

     横浜の高台にたたずむ白い建物は西洋のお城のような塔が立っていて、世俗とは隔絶された荘厳な雰囲気が漂っています。このたび横浜雙葉中学校・高等学校の「土曜日学校案内」に伺わせていただきました。

     年に5回ほど行われる少人数の回。学校案内ビデオや校内見学などで、学校の空気を体感することができます。

     正門から入ると、道に桜の木が並んでいましたが、そのいわれを伺って感動しました。十月桜、ソメイヨシノ、カンヒザクラなど全種類違う桜で、咲く時期もそれぞれずれています。これは、生徒さんに向けて、みんな開花の時期は違っていい、というメッセージがあるそうです。そんな肯定的なメッセージを多感な時期に受け取りたかったです……。

    • ルルドの泉を模した洞窟風のスポット。悩んだとき、校内のいたるところにいらっしゃるマリア様がサポートしてくださいます
      ルルドの泉を模した洞窟風のスポット。悩んだとき、校内のいたるところにいらっしゃるマリア様がサポートしてくださいます

     まず正門前にマリア様と幼きイエス様の像があり、エントランスにもマリア像、廊下の踊り場にもマリア像、お御堂(みどう)にもマリア像、校庭にもマリア像、といたるところにマリア様が! 校内の波動の高さというか清らかな空気はマリア様のエネルギーかもしれません。こう申してはなんですが空気清浄機以上の霊験が……。生徒さんの精神衛生上にも良さそうです。個人的には、校庭のルルドの泉を模したコーナーがパワースポットのように感じました。

     神様が見守ってくださっている横浜雙葉はカトリックの学校で、創立者であるマザー・マチルドも生徒の崇敬を集めています。校訓は、世界の姉妹校共通の「徳においては純真に 義務においては堅実に」。世間ずれしてしまった私は、キリスト教精神に基づいた校訓の意味を理解するのにしばらくかかってしまいました。広報の先生に伺うと、「カトリックの価値観は他者を思いやるということ。自分が与えられた才能を他者のために使うという価値観を身に付けてほしいです。思いやりのある子供たちが多いです」とのこと。すばらしいです。本校出身のOG、森下典子さんや渡辺真理さんと仕事などで面識がありましたが、お二方とも親切で思いやりにあふれた方でした。

     あとで宗教室での説明のとき副校長もおっしゃっていました。

    「人を幸せにすることで自分も幸せになる、そういう人を育てたいです」と……。

     単に自立した女性を育てる、というのでもなく、もちろんお金や名誉を目的にする生き方でもない、他者のために生きるという崇高な使命感。進学実績が良いのは、勉強だけで来た人よりも、目的意識や人徳が高いレベルにあるからでしょうか。

     特色の一つである総合学習は、「新しい関係性の創造」がテーマなのですが、中1で「コミュニケーションスキル」などを学び、中2「自然とのかかわり」中3「人とのかかわり」高1「世界とのかかわり・いのち」高2「NGO活動」と、意識の高まりがとどまるところを知りません。

    聖域ぶりの数々に畏れ入る

    • 音楽部の有志によるウェルカムコンサート。歌やダンス、演技、ハンドベルなどいろいろできる楽しそうな部活です
      音楽部の有志によるウェルカムコンサート。歌やダンス、演技、ハンドベルなどいろいろできる楽しそうな部活です

     ウェルカムコンサートでの音楽部の合唱にも癒やされました。生徒さんが「本日はお忙しい中本校に足をお運び下さりありがとうございました」と礼儀正しく挨拶。校歌に始まり、ウエストサイドストーリーの曲に続き、最後は歌謡曲「夢の途中」。「さよなら」という歌詞が出てきて、ウェルカムから別れまで展開が早いです。校歌の歌詞に「イザヤ~」と頻出していたので、聖書の「イザヤ書」に出てくるイザヤ推しなのかと思ったら、日本語の「いざや」でした。前向きな曲に鼓舞されます。

     貴重な校内風景の映像も拝見。ホームルームでお祈りするシーン、ネイティブの先生に英語を習うシーン、理科で有機物から炭を生成するシーン、お弁当前に「アーメン」と神に感謝を捧げるシーンなど。驚いたのは、廊下を移動する生徒さんの会話が聞こえてきたのですが「神様が~」と神のことを話題にしているように聞き取れました。女子校の雑談といったら先生への意見とか、アイドルの話題とか、噂話が多い印象ですが、この学校では神を話題に……畏れ入りました。

    • 校庭でテニス部の活動が行われていました。生徒さんはまじめな時と活発な時、めりはりがついているそうです
      校庭でテニス部の活動が行われていました。生徒さんはまじめな時と活発な時、めりはりがついているそうです

     中高の生徒のコメントも収録されていて3人の生徒さんは澄んだ瞳で「感謝の気持ちが持てるようになりました」「自分の視野を広げることができました」「家の次に安心できる場所です」などと語っていました。

     校舎は古い校舎と新しい校舎が融合され、木を多用した内装が落ち着きます。校内見学で、自習スペースや教室など拝見。校舎からの眺めも良いです。中学の教室に入ると、教室内には校訓やお祈りの言葉の張り紙が。こちらも聖域の結界を作る効力がありそうです。ミッション系の女子校ほど世の中で祝福されている場所はないと思えてきます。

    部外者ながら居場所があるような気に

     生徒たちが自主的に考えたお弁当についてのルールの紙も張られていました。

    「班に入れないなど、いじわるをしない」「周りに一人の人がいないことを確認してから食べる」

     お弁当の仲良しグループといえば学校生活の懸案事項の一つです。誰も“ぼっち”にならないようなルールがあるとは安心です。クラス替えで誰も仲良い子と一緒になれず、ひとりで食べた時の寂しさ、周りの視線など、ほとんどの人が体験したことがあるはず。ぼっち姿を見られないように、図書室や校庭の片隅でやりすごしたり……。大人になればひとり食事なんて全然余裕ですが、十代にはキツいものがあります。そんな事態をまぬがれるということだけでも心が軽くなります。とくに仲良くない人と一緒に食べたら気まずいというのもあるかもしれませんが、完全なぼっちに比べれば……。その流れで、教室移動も誰もひとりにしない、というルールを作ってほしいです。

     「生徒はお互い尊敬しあっていて誰もが居場所があるんですよ」と広報の先生はおっしゃっていました。実際、中高生でも関係者でもない部外者ですが、数時間滞在しただけでも、居場所があるように錯覚してきました。そして世のため人のために役に立ちたいと、しばらく感化されました。

    プロフィル
    辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
     漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

    2018年11月02日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
     
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