白河桃子「20年間続く女性の悩みにもゆるやかな変化」

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 掲示板「発言小町」開設20周年のインタビュー企画。第2回は、少子化ジャーナリストの白河桃子さんです。長年、発言小町を愛読しているという白河さんは、結婚や嫁姑(しゅうとめ)問題などずっと変わらない女性の悩みに、ゆるやかな変化が見られると指摘します。

 ――発言小町が20年を迎えました。

 発言小町が開設された1999年というと、まだインターネットが広く社会に普及しているという感じではなく、せいぜいパソコン通信をやっている人がいるという程度でした。PC、携帯電話、タブレット、スマホ……と目まぐるしくデバイスがかわってきた中で、いくつものインターネットサービスが生まれては消えていきました。それを考えると、発言小町が生き残っているというのはすごいことです。

 女性のことを調べたり、取材したりする者にとって、発言小町は欠かせません。恋愛相談を受けている知人は発言小町の検索機能を使って、「結婚」「愛のない」といった言葉を打ち込むそうです。「そんな結婚ありえません」といった批判ばかりかと思えば、「愛のない結婚OK」という書き込みもあります。結婚観のようなテーマは、いつの時代でも盛り上がりますが、これに対する意見や回答は微妙に変化が見られます。長年続く掲示板だからこそ、定点観測することで、その移り変わりを知ることができます。

「これはセクハラでしょうか?」

 ――働いている女性からの投稿が目立ちます。

 「これはセクハラでしょうか?」というトピがありました。「職場でこんなことがありましたが、これってセクハラでしょうか。それとも私が悪いのでしょうか」という問いかけに対し、過去には「あなたは非正規でしょ。相手は正社員なのだから社内で価値が全然違います」といった意見が大半を占めていたこともあります。

 けれど、ツイッターなどでセクハラ被害を告発する「MeToo運動」が広がったあたりからは、「いやいや、なに言ってるの。それセクハラだから、専門の窓口に通報したほうがいいですよ」といった意見や、専門家らしき人が「それは労働法規上こういう問題があります」といった指摘をするケースも目立つようになりました。様々な回答が寄せられることで、〈集合知〉としての役割が高まってきています。

 そして、社会でトレンドとしてにぎわっているニュースや話題と関係なく、仕事の悩み、夫婦間のトラブル、職場の人間関係などの議論が延々と続けられているのも、発言小町ならではの現象です。世の中をにぎわせている事件なんて全然響いてなくて、そんなことよりも、身の回りにある不安や悩みを解決するほうが大事なんでしょう。

 ――特に気になっているテーマはありますか。

 結婚は盛り上がるテーマの一つですね。2008年に出した著書『「婚活」時代』(山田昌弘氏と共著)が火付け役となった婚活ブームは、もう10年も前のことです。当初は「婚活」という言葉を知らないという人も多くいました。だから、「こんなふうに婚活をしたらうまくいった」とか、「どうしたら、結婚できますか」などの書き込みがあったと思います。今では、「婚活」という言葉がすっかり定着しました。

 喫茶店で隣に座った女性グループから聞こえてくる内容が、まさに社会のトレンドと考えられます。ほんの数年前までは、若い女性が集まると、「結婚相手に求める条件」「すてきな男性と出会う方法」といった婚活話で盛り上がっていました。これが、最近ではもっぱら「働き方改革」です。「うちの会社、働き方改革でさあ……」という声がよく聞こえてきますね。

「育休中に二人目を妊娠したい」

 ――「働き方」が女性にとって気になるテーマになっているということですね。

 働いている女性の出産を巡って、育休などの制度を利用する話題は意見が多く寄せられています。仕事をしながら子どもを産むというのは、当たり前のことなのに、それがしにくい状況が垣間見えます。「育休中に二人目を妊娠したい」や「子どもを生んだらずるいですか」といった内容のトピがあります。

 日本人はみんが「我慢比べ」をしているような状態にあります。だから、我慢をしない人、そこから逸脱する人に対して批判が集中します。制度を利用している側が「ずるい」と言われ、女性同士の対立を招きかねません。もし、こういった批判が生じるのであれば、それは制度を作った会社に問題があります。大切なのは、「構造憎んで人を憎まず」なんです。育休取得で減員する場合は代替要員をきちんと入れてもらうとか、業務内容を見直すとか、会社がきちんと取り組む必要があります。

 ただ、最近では冷静な意見も見られるようになりました。「まだ、そんなこと言ってるの。うちの会社ではこうですよ」といった書き込みもあれば、社会保険労務士などの専門家を名乗る人がアドバイスをする書き込みもあります。一方的な意見だけでなく、複数の見方が寄せられるようになって、自然とバランスのある〈集合知〉として成熟していっています。

「嫁は帰って来なくていい」

 ――働く女性も増えています。

 専業主婦というのはほとんど成立しなくなりました。いま、「主婦」というのは、家計責任が夫にあって、補助的に働いている「パート主婦」のことです。時間の制約があったり、扶養控除の範囲内で働いたりしている女性です。女性の労働人口が増えたと言われていますが、実態は非正規・パートです。

 一流企業でキャリアを積んでいる女性は多数派ではありません。妊娠前から無職という女性が4分の1、出産退職する女性が4分の1、つまり、およそ半数の女性が出産時点で無職です。一方で正社員の女性の場合、約7割が第1子出産時点で就労を継続しているというデータがあります。男性と比べると、女性の平均収入は約73%にとどまっているという数字もあります。

 女性たちの行動規範は、親やママ友など身近にいる人に左右されやすい傾向があります。「子どもが小学生になったら仕事に復帰する」「保育園に入れられるなら復職する」……。ところが、発言小町に「これって正しいでしょうか?」という疑問を投げかけてみると、「うちの地域はこうですよ」とか、「私はこうしましたよ」などの経験談を得ることができます。ずっと正しいと思い込んでいた「常識」とはっきりと違う空気感があることに気づくことができるのです。

 「嫁姑問題」について言えば、20年という時間が過ぎれば、かつてお嫁さんだった女性が今度は姑になるわけです。「夫の実家に帰るのが憂うつ」という書き込みが相変わらずあるかと思えば、「義実家には夫と子どもで行ってもらい、私は自分の実家へ帰りました」といった内容が散見されるようになりました。「こちらが気を使うから、嫁は来なくてもいい」といった姑の書き込みもあります。以前は「姑からいじめられた」といった嫁からの投稿が目立ちましたが、最近では「嫁が怖い」といった姑の声もあります。とてもゆるやかではありますが、変化はこういったところにもあります。

 男性からの投稿もおもしろいですね。大変味わいがあります。「妻に働きに出てほしくない」「妻が働きに出てから寂しい」。夫の複雑な心境が垣間見れます。男性が弱音を吐いてもいい。共働きの世帯もあれば、一家を養っている男性もいます。居酒屋で一緒にお酒を飲んで愚痴を言い合うにも、状況が一様ではありませんから、同僚であっても言えないことがあると思います。

「私が間違っていますか」

 ――今後の発言小町に期待することはありますか。

 掲示板の内容が、ツイッターやフェイスブックなどのSNSでシェアされることが増えているように思います。つまり、発言小町ユーザー以外でも、トピやレスを目にする機会があります。そして、掲示板の外でも意見が交わされ、新たな議論に発展していくことがあるでしょう。

 一方で、ツイッターなどのSNSは発信者が特定される可能性があります。発言小町は、匿名性を保ちながら、安全で安心できる掲示板であることが最大の魅力です。意見や回答を求めるほかのネット掲示板では、投稿者に対するハラスメントが書き込まれるリスクもあります。匿名でありながら、「安全・安心」を守り続けるには、それ相応の手間をかけているはずです。この仕組みを維持するには、会員制にして集めた個人データをビジネスに活用したり、課金制で利用者に負担を求めたりする方法に変わっていく可能性もあるかもしれません。ただ、女性はお金にうるさいので、そのへんの判断は難しいでしょう。

 女性は将来の遠いミッションも気にはなりますが、身近な暮らしを大切にします。だから、日々の小さな悩みが積み重なると気持ちが沈んでしまいます。一方で、日々の小さな喜びを見つけるだけで、とても幸せな気持ちになれます。偶然入った店ですてきな洋服に出会ったり、インスタグラムでかわいらしい猫の画像を見つけたりしただけで幸せになれます。だから、小さな幸せを拾うのに障害になっていることがあれば、それを解消したいと思っています。発言小町には、幸せを邪魔するもんもんとした不安や悩みが詰まっています。

 そして、多数決によるジャッジを求めているわけじゃなく、「これっておかしいですか」「私が間違っていますか」といった投げかけに対し、ゆるやかな意見交換をしながら解決へ導かれる可能性があると考えているはずです。

 (聞き手、編集局生活部・小野仁、メディア局編集部・鈴木幸大、撮影/編集局写真部・奥西義和)

プロフィル
白河 桃子( しらかわ・とうこ
 少子化ジャーナリスト、作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学総合教育センター客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣官房 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」有識者委員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事などを経て執筆活動に入る。2008年、中央大学教授の山田昌弘氏と『「婚活」時代』を出版、婚活ブームの火付け役に。少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマとする。著書に『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中公新書ラクレ)、『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(是枝俊吾氏と共著、毎日新聞出版)などがある。

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