辛酸なめ子「遠くの親戚より近くの相談サイト」

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 掲示板「発言小町」開設20周年のインタビュー企画。第3回は、コラムニストの辛酸なめ子さんです。長年、発言小町をチェックしているという辛酸さんに、自身の閲覧経験や発言小町の魅力について聞きました。

自分と同じ悩みのトピを検索

 ――発言小町を知ったきっかけを教えてください。

 初期のころに検索サイトで何かを探していた時に見つけたのだと思います。それ以来、たまに見ています。

 ――発言小町をご覧になっていて、感じたことはありますか。

 発言小町が登場してから、人間関係が変化した気がします。昔は悩みごとがあると、友人や親、きょうだいに聞いて、解決したり、共感を得たり、心が休まったりしていました。でも、発言小町ができてからは、まずは自分と同じ悩みを持つ人がいるかを検索して、そこに書き込まれたレスを読んで、納得したり解決策を見つけたり、心が安らいだりするようになりました。こうした相談ができるサイトができたことで、「遠くの親戚より、近くの相談サイト」といった流れになっているのかなと思いました。

 ――初期の頃で覚えているトピはありますか?

 印象に残っているのは、よく「箸の持ち方」について論争になっていたことです。「箸の持ち方が間違っている人は育ちが悪い」とか「箸くらいで友達を否定しないところが私の財産です」といったレスを読んで、「書き込んでいる人たちは怖いなあ」と思いながらも、目が離せなかったんです。お箸の話題は、定期的に出ていたと思いますね。

 ――たしかにサイト内にある「気になるワード」欄で検索すると、箸の持ち方にまつわるたくさんのトピが出てきます。投稿された年もばらばら。でも普段、箸の持ち方で盛り上がることはないですね。

 「実は思っていたけど、口にしなかったのかもな……」と、こうした投稿を見て思いました。「箸の持ち方」だけで1冊の本になるかもしれませんね。マナーを問うトピは、議論が活発になりやすいのかもしれないので、トピ主が下手に出て相談すると、みんなが気分よく答えられるのかもしれないですね。2014年に書籍化された『40歳、初めてのお見合い』(ポプラ社)とかも、みんな親切心が集まっていました。トピ主さんの書き方によって、トピ内の空気が変わりますね。

 ――空気があるのですか?

 ありますね。あと、レスがたまっているのに、トピ主さんがなかなか出てこないこともあって、そういう時は「この質問、本当なんですか?」とトピ主さんを疑う声が出始めることもあって……。もう見始めると止まらず、はまっちゃいますね。

 ――「自分と似ているトピを検索する」とおっしゃっていましたが、たとえばどんなことを検索しましたか?

 数年前に友人の一人がSNSやメッセージアプリのグループで、やたらに自慢を書いてきたことがありました。夫の学歴やら何やらと、1日に100個ぐらい書いてきて……。それで精神的に参ってしまいそうになって、「自慢してくる女友達ってどんな心理なんだろう?」と思って、発言小町で近そうなトピを検索して、人の答えを見ました。するとその中に、「自慢する人は、本当は幸せじゃないです」という書き込みがあって、とても留飲が下がりました。ほかにも「その人は本当に友達ですか?」といったレスを見て我に返って、「ああ、自分も疎遠になった方がいいかもな……」と思い直しました。

 ――自分の友達の悩みは、身近な友達には言えないですね。

 そう、その子のことを知っている人には言えないんです。なので、同じ悩みがないかを探して、共感したい、分かち合いたいなと思います。

人間関係をのぞき見

 ――ご自身でトピを立てたことはありますか?

 トピを立てるのは、まだハードルが高い気がして……自分の悩みを検索するという感じです。とにかく、悩みがいっぱいあるんですよ! だから、だいたい見つかりますね。あと、知人男性の行動が「おかしい」と思ったときに、脅しに使ったことがありました(笑)。「そんなことをすると、発言小町に書くから!」と言ったら、「それはやめて!」と言って、困ったことを止めてくれたことがありました。みんなに叱ってもらうよ、みたいな意味で言ったのですが。男性で、こういうサイトを怖がっている人には抑制効果があるかもしれませんね。

 ――そんな使い方が! ほかに、気になる話題はありますか?

 「怖い話」系とか、心霊体験とかは読みたくなりますね。現実で起こっている話を現在進行形で追えるので、「今、こういうことが起きました」とか書かれると、次々と読みたくなります。あと、「怖い話」というのは、心霊系もありつつ、人間関係で「怖い」とか「不可解」とかも、いろいろあります。

 ――人間関係をのぞき見しているような感覚でしょうか?

 のぞき見かもしれませんね。書き込みはせずに、見ている感じ。なかなか皆さんのレスがうますぎて、入りづらいというか……。本当に一つの問題に対して多角的な意見が見られるので、こんなにたくさん良識者が日本にいるのか?って驚きました。

 ――家庭関係の相談も多くあります。

 確かに! 私も親が病気になった時に発言小町を見ていた覚えがあります。似たような症例だったり状況だったりを見ていました。

 ――会ったことない人にここまで親切にできるんだなあ、と思う時があります。

 そうですよね。ほかの質問サイトだと「回答するとポイントがもらえる」といった特典がありますが、発言小町では特に何ももらえない。本当に善意からだったり、感謝されることでの承認欲求が得られたりするのではないかな、と思います。ですから、トピ主さんも責任重大というか、ちゃんとそれぞれのレスに対して御礼を言った方がいい、と思っちゃいますね。

 ――掲示板なので結論は出すものではないというスタンスですが、辛酸さんも発言小町を見て、結論を出すだけじゃないのですね。

 そうですね。ざっと見て、心に引っかかる答えがあれば、自分の救いにしたり癒やしにしたりします。

 ――どんなものが心に引っかかりますか?

 自分では思っていなかった、違う見方からの意見も気になりますし、自分が薄々思っていたことをさらに後押ししてくれるような投稿も心に残ります。レスが100件、200件ついているトピだと、必ずこうした両方の投稿がありますね。

想像膨らむ「文字だけの世界」

 ――今も、次々と新しいトピが立っています。

 タイトルのつけ方が、うまいなと思うものもあります。『大人になっていじめられると思わなかった…』とか、ついクリックしちゃいそう。もしタイトルが『お願いです』だけだったら、中身が何だか分からないですものね。

 ――ほかに、つい見てしまうジャンルはありますか?

 猫が好きなので、猫の話題は見ます。以前、猫を拾った男性が「どうしたらよいか?」「懐かれて困る」と書いていたのを見て、“()え”を感じました。みんなが親切に教えてあげるのもいいですね。

 あと以前、「子供が独身時代のペットの生まれ変わりだって言う」というトピがあって(『2歳の子供が昔飼っていたペットだったと話しだした』)……本当なのかって。こんなに何年たっても気になるんです。小動物に記憶があって、人間に生まれ変わるとは知らなかったので、驚きました。

 たとえ不思議な話でも、書き方がうまいから信じちゃいますね。みんなもそれに対して、感想を述べているという世界。つい見ちゃうんですよね。こうした話は個人のブログで書くよりも、発言小町で書いた方が注目されるかもしれないですよね。みんなが見てくれていて、レスがいっぱいつけば盛り上がるので。

 ――なぜか信じちゃいますね。

 たとえばブログのように写真が付いた形での投稿だと、想像の余地がなくなります。でも、発言小町は文字だけなので、想像を膨らませられる。情報量が限られている中だから、かえって想像したり、信じたりする感じになるのかもしれませんね。ほら、「口裂け女」のような民間伝承みたいに。もし、これが2歳の子が話す様子が動画でついていたら、ネットで叩かれちゃったりしそう。「言わされているんじゃないか?」と推測する人もいそうですし。

 画像が多いとか、データ量が多いと疲れます。パソコンがフリーズしたのか?って思うくらい、表示が出てこない時もある。発言小町は文字だけなので、データが軽くてサクサク見られますね。

 ――ほかに、どんなときに発言小町を見ましたか?

 「化粧品の消費期限」を検索したことがあります。パッケージにも書かれていなかったので……。困ったことがあったら、今後も使おうと思います。

 投稿する時に自分の情報をそれほど入れる必要がないんですね。思ったよりハードルが低いようなので、私で役に立てることがあれば、書いてみようかなと思いました。ただ、否定的な意見があったらどうしよう……とも思うので、空気を読んで慎重にやりたいです。

 発言小町って、個人の経験を超えた先天的な構造領域である「集合的無意識」みたいな……人間に生まれた「カルマ((ごう))」を感じます。

ネット越しに感じる人情、ひと肌

 ――日常生活で人に相談をすることが減っています。

 私も、友人にもう何年も相談していないなーと思いました。昔の人は、近所の人とかに相談していたのかしら? 路上で井戸端会議とか……。年配の世代では今でもありますけど。そういうのが減ってきている分、今は発言小町や検索サイトでしか聞かない。

 20年以上前だと、たとえば「パソコンの設定ができないとき」といった時には友人に聞いていましたが、今はちょっと検索すれば、親切な人がいろんなサイトで説明してくれるので足りてしまう。ネットでの相談なら借りを作らなくていいし、心の軽さがある。相談に乗ってもらう代わりに友人に食事をおごったり、御礼を渡したりとかも要らないですしね。

 ――いろんなコミュニケーションツールがあるなかで、発言小町は20年続きました。

 最近のインターネットでは、どのサイトもトップページに動画があったりして、データ量が増えて、どんどんページが重くなっている気がします。そんな中で、発言小町のような文字だけのサイトは貴重。パケット代がどんどんかかる世の中で、「読み応えがあって軽いページって、どこだろう?」と思うと、やっぱり発言小町かなと思います。

 今、思ったのですが、いつか人工知能がトピに回答する時代が来るのでしょうか? 確かに「モノ珍しいかもなあ」と思う反面、「まだ人間の方が心がわかっているんだな」と思うかもしれませんね。たとえば「子供がペットの生まれ変わり」などの投稿は、人工知能=AIだと信じないかも。やはり、文章を書いた人の人情・ひと肌をネット越しに感じられるのがいいのかもしれませんね。

 発言小町による悩みの膨大な蓄積は、後世にとって貴重な資料になるのではないかと思いますね。インターネットがどこまで続くか分からないけれど。たぶん何百年後の人が見たら、「へえ、当時の人類はこんなふうに生活して、こんなことで悩んでいたのか!」って資料になると思います。

 (聞き手/編集局生活部・崎長敬志、メディア局編集部・李英宜、撮影/編集局写真部・吉川綾美)

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 1974年、埼玉県生まれ。漫画家、コラムニスト。独特の視点で世相や流行を観察、分析するスタイルが人気。近著に「タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか」(PHP研究所)。

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860089 0 20周年 2019/10/23 17:30:00 2019/10/23 17:30:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191023-OYT8I50071-T.jpg?type=thumbnail

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