池上永一「週刊誌を超えた『トピックインタレスト』」

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 掲示板「発言小町」開設20周年のインタビュー企画。第4回は、作家の池上永一さんです。発言小町の熱烈なファンを自認する池上さんは、沖縄・石垣島の出身。沖縄の離島のコミュニティーと発言小町に、意外な共通点を見いだします。

沖縄の離島社会とそっくり

 ――発言小町をご覧になったきっかけは?

 僕は開設以来、読んでいます。確か2チャンネルだったかな、発言小町からの引用があったので、小町で1次情報を見てみたら、「何? この楽しい世界」って(笑)。はじめの頃は「発言小町」でキーワード検索してサイトにアクセスしていたので、読売新聞が運営しているサイトだって分からなかったんですよ。そのことを知った時、ものすごい違和感があったけれど、「読売、もしかしたら慧眼(けいがん)かも」とも思いましたね。今では自由自在にアクセスしています。今日だって4回見ていますから(笑)。

 僕が発言小町を見るのは、自分の中にある「ゲスな心」を満たすためだと思っていたのですが、ある時、面白さと同時に懐かしさを感じていることに気づいたんです。それはなぜかと言うと、沖縄の離島社会と発言小町が似ているからなんです。

 都市部だと、「この人、嫌い」と思ったら、付き合わなくてもいいけれど、離島はそれが不可能です。狭い地域に島民のほぼ全員が住んでいて、ほぼ全員が顔見知り。そうなると、好きとか嫌いとか言っている場合じゃないんです。嫌いだからその人と話をしないとなると、島の中ですごく不自由なことになるので、好きな人と同じようにコミュニケーションを取らざるを得ない。

 うちの母なんか、同級生の集まりを毎月のように開いていますが、母たちが話していることが小町そっくり(笑)。胸焼けがするくらい中身の濃いうわさ話を、1人や2人でなく、集まった人たち全員でガーッとしゃべるんです。大げんかもよくしていて、「けんかするぐらいなら会わなきゃいいのに」と思うけれど、そういうわけにはいかないらしくて。離島では、「同級生」と「親戚」は同義なんです。

 取材で訪れた南米ボリビアの日系人社会も、沖縄の離島と同じでした。人口が1500人ぐらいの日系人のコロニーがあって、そこの人たちは朝から晩まで、小町のような話をしているんです。「誰々さんちの昨日の夕食は、ワニの肉だった」とか(笑)。僕は沖縄の離島で培ったマインドを持っているから、彼らのマインドを理解した瞬間から、自由自在に彼らから欲しい情報を得ることができました。

 でも、人間って本来、このように密なコミュニケーションを取るものなのだと思うんです。都市型社会になって、人間が本来持っていたものがなくなってしまいました。

 戦後、都市化が進み、隣人が誰か分からない、共通の知り合いがいないとなっていくと、人々の関心は芸能人に向かいました。女性週刊誌が代表的なメディアです。ところが、発言小町のようなメディアが出てくると、「芸能人のネタ、もう要らない」となります。週刊誌は、人々の興味が「人」に注がれている「ヒューマンインタレスト」のメディアなのに対し、発言小町は、興味が「話題(トピ)」に注がれている「トピックインタレスト」です。トピ主の顔は全然分からないけれど、自分の興味のあるトピに飛びついて見ているわけです。

 ――確かに、発言小町では、芸能人に関するトピはそれほど盛り上がらない傾向があります。

 同じ掲示板サイトでも「ガールズちゃんねる」はヒューマンインタレストのサイトだと思います。僕、ガルちゃんも見ているんです(笑)。ガルちゃんは女性週刊誌の延長線上にあると思うんですが、発言小町は「ヒューマンインタレスト」から「トピックインタレスト」に進化したメディアだと言えます。

 ――ふだんはどのような状況で発言小町を見ているのですか。

 家のパソコンで見ています。ふだんは誰もやって来ないし、誰とも話をしない。小説を執筆していて1か月間、誰とも話をしなかったなんて、普通のことなんです。ところが、発言小町を見ていると、人としゃべっている感じがするんですよ。街の中にいて、人の声がザワザワ聞こえてくるような気がするんです。

恐れず「選択ポツン」を表明

 ――関心のあるジャンルはありますか。

 以前、「男性からのトピ」に注目していた時期がありますが、男性はあまり本音をしゃべらない気がしますね。だいたいこういうオチがつくだろうと予測しながらトピを書いている気がします。やはり、本音をむき出しにしたトピの方が面白いし、閲覧者の食いつきもいい。あっという間に、レスが400も500も付いたりしますからね。

 ――発言小町の20年の歴史から、社会の変化を感じる点はありますか。

 今の発言小町に投稿している人は30代後半から40代ぐらいが多いんじゃないかと思います。その上の世代の人たちのトピには、本音を隠して大勢を見極めるために投稿したようなものがよく見られました。「レスの流れを見て、意見を変えてみようか」といった感じです。ところが、最近のトピは、空気を読まずに「私はこうです」と主張するものが増えています。小町には、「選択ポツン」という「ママ友用語」が使われています。あえて周りに同調せず、一人でいることを選ぶといった意味です。「私は選択ポツンですが、何か?」といった内容のトピが上がると、すごく共感を呼ぶんです。「ママ友との付き合いで疲れています」といったトピは、意外にレスが伸びなかったりする。女性たちが、時流や空気を読んで大勢につこうとせず、「選択ポツン」を恐れずに表明しだしている。そして、それに共感する声も増えていると感じます。

 他にも例えば、「結納返しに何を贈ればいいでしょうか」と尋ねるトピに対し、「自分のやり方でどうぞ」といったレスを返した人がいました。旧態依然とした常識を他人に押し付けない。このレスを返した人のマインドも「選択ポツン」だと思うんです。「選択ポツン」のマインドを醸し出しているトピはすごく人気が出ます。僕もそのマインドを小説に取り入れてみようかな(笑)。

文化が確立されたメディアは最強

 ――発言小町で他人に悩みを相談するということについては、どう思いますか。

 トピが提示され、本音が書き込まれ、それは厳しい意見だったり、見当外れだったりする。思いもよらない方向に話が急に進み、突然終わることもあります。小町の投稿者は「小町の文脈の中でしゃべっている私」という役割を演じているんです。もちろん本心も入っているけれど、小町的なトピの立て方、小町的な反応の仕方を分かったうえで書き込んでいくんです。20年も続くと、そういう文化が形成されていくんですね。

 こうした文化が確立されたメディアって、最強だと思うんです。今では、発言小町をあまり見たことがない人でも、「発言小町」と聞くと、「ああ」って分かる。例えば、歌舞伎や能だって、見に行ったことがない人でも、だいたいどういう芸能なのかは知っていますよね。それと同じように、小町も文化として定着しています。すごく魅力があるから、発言小町のような掲示板サイトを作ろうと考える人もいるかもしれません。でも、小町の文化をそのまま移植したようなサイトを作ることはできないと思う。「小町的な私」がトピを立てて、小町的に荒れ、最後は小町的なところに落ち着く。放置されているようで管理されている。こんなサイトは誰もまねができません。

 ――発言小町では、すべての投稿にスタッフが目を通しているので、投稿者には安心感があるのかもしれません。

 いわゆる「中の人」への信頼が源泉だと思います。犯罪に関するトピが立ったら、安心して楽しめませんから。「中の人」が信頼たり得る仲裁者であるというのが重要なのだと思います。僕は、読売新聞における発言小町とは、阪急電鉄における宝塚歌劇団だと思うんです。

 ――そんなに高尚ですか(笑)。

 かつては宝塚をはじめ、少女歌劇団が各地にたくさんありましたが、今ではそのほとんどが消滅して、宝塚の一人勝ちの状態です。宝塚も、その名前を聞いただけで、()たことのない人でも「ああ、あれね」と分かります。宝塚は今年が創設105周年です。発言小町は20周年ですが、100周年だって夢ではないと思っているんです。もしかしたら100年後には、発言小町の中に「読売新聞」というニュースのコーナーがある。そんなふうになっているかもしれませんね(笑)。

 (聞き手/編集局生活部・伊藤剛寛、メディア局編集部・田中昌義、撮影/編集局写真部・園田寛志郎)

プロフィル
池上 永一( いけがみ・えいいち
 1970年生まれ、沖縄県石垣市出身。94年、早稲田大学在学中に『バガージマヌパナス』で第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。97年、『風車祭(カジマヤー)』が直木賞候補に。琉球王朝を舞台にした2008年刊行の『テンペスト』は、テレビドラマ化、映画化され、大ベストセラーとなった。現在、読売新聞オンラインで 小説「 海神(わだつみ) の島」 を連載中。

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