先生のコトバ 「もう二度とやるな」

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 いじめや挫折、進路に悩んでいた時、先生のひと言に救われたという経験を持つ人は少なくありません。2019年の読売新聞は、新しい時代を迎えても大切にしたい「先生のコトバ」を紹介していきます。

ボクシング元世界王者・内藤大助さん(44) × 佐々木秀俊さん(56)(当時・北海道豊浦町立豊浦中教諭)

いじめ受け胃潰瘍に

内藤大助さん(安斎晃撮影)
内藤大助さん(安斎晃撮影)

 中学2年のクラス替えを機にいじめが始まりました。理由はよく分かりません。ある日、不良の先輩と仲がよかった同級生が「金返せよ」と言ってきました。もちろん、お金を借りた覚えはありません。

 すると、「お前、母子家庭だろ。母子家庭には国から金が出ている。あれは俺らが払っている税金だ」と。「ボンビー(貧乏)」とあだ名を付けられました。その同級生の影響で、他の生徒からもお金を取られたり、暴力を振るわれたりしました。なんで僕ばっかり。本当につらかったです。

 気づいたら、おなかの痛い日が何日も続きました。下痢で1日に何度もトイレに駆け込むので母親に病院に連れて行ってもらい、胃カメラで検査したら、胃潰瘍でした。それぐらい追いつめられていたのです。「生まれてこなければよかった。俺は生まれつき不幸なんだ」と自分や母親を責めました。

「正直に手を挙げろ」

内藤大助さん(安斎晃撮影)
内藤大助さん(安斎晃撮影)

 中学3年のある日、担任の佐々木秀俊先生の様子がいつもと違うことに気づきました。「ホームルームが終わったらクラス全員に残ってもらう」。この時、口調はすでに怒っていました。「しばらく様子を見ていたら、ある一人の人間が特定の人間をものすごくいじめている。心当たりのあるやつは正直に手を挙げろ」

 これにはびっくりしました。すぐに自分をいじめている同級生のことだと分かり、ドキドキしました。同級生の方をちらっと見たら、一向に手を挙げようとしない。沈黙がしばらく続きました。

 先生は「ここで名乗り出なかったら俺が名指ししてしまう。それだけはさせないでくれ」と続けました。同級生はどんどん追い込まれていきましたが、それでも教室は静まりかえったままでした。

 すると、ついに先生は同級生を名指しして、「お前のことを言っているんだ! もう二度とやるな!」と教壇からどなりました。先生はなんだかんだ言っても、結局名指ししないんじゃないかと思っていました。でも、違った。本当にうれしかったです。

ちゃんと見ていてくれた

内藤大助さん(安斎晃撮影)
内藤大助さん(安斎晃撮影)

 それまでみんなに見て見ぬふりをされてきました。

 その同級生が学校のガラスを割った時、「俺の内申点に響く」と言われ、罪をかぶって別の先生に謝りに行ったことがあります。後日、その先生に「あれは自分がやったんじゃない」と打ち明けたら、「その時言わないお前が悪い」と言われました。

 あれはショックでした。悔しくて悔しくて仕方なかった。誰も信じられないと思いました。

 でも、佐々木先生は違った。当時、それほど話をする仲ではなかったけど、ちゃんと見ていてくれたのがうれしくて。先生があの時叱らなければ今頃どうなっていたか。きっと誰も信じられないままだったと思います。

 ボクシングの全日本新人王を取って田舎に帰った時、先生に会いました。格闘技好きの先生は僕を応援してくれていて、その後も度々試合を見に来てくれました。

 あの時、先生が僕を救ってくれたように、いつか先生に恩返ししたいと思っています。

 ないとう・だいすけ 1974年、北海道豊浦町生まれ。96年にプロデビューし、2007年、WBC世界フライ級チャンピオンに。11年に現役を引退した。通算戦績は42戦36勝(23KO)3敗3分け。現在はタレントとして活躍中。

恩師・佐々木さんから 名指しで恥をかかせた思いも

佐々木秀俊さん
佐々木秀俊さん

 中学の3年間、大助の担任でした。彼に初めて出会ったときは、教員になって3年目。当時の彼は身長1メートル30と小柄でした。

 私の学年では普段から「人にはその人の責任でなくても変えられないことがある。そのことで相手をばかにしたり差別したりすることは許されない」と言い続けてきました。

 しかし、大助の人格を否定する生徒がいました。当時の私はまだ若く、すぐに熱くなりました。黙っていればシラを切り通せるという生徒の態度に腹が立ったのです。私がいじめた生徒を名指ししたことで大助を勇気づけたかもしれませんが、一方でその生徒には大勢の前で恥をかかせました。今思えば、指導方法の定石ではなかったですね。

 北海道豊浦町の成人式で、卒業以来初めて彼に再会しました。すっかり精悍(せいかん)な顔つきになっていて、思わず「立派になったねえ」と声をかけました。ボクシングを始めたことはその時は知りませんでしたが、何か生きがいを見つけたんだろうと思いました。

 それから数年後、全日本新人王を取ったとき、町役場から地元の祝賀会に誘われました。なんでも、大助が私とスパーリングをしたいというのです。中学時代、「落ち着きがない」とたびたび叱っていたので、ひょっとしたらそのことを恨んでいるのではないかと思いました。結局は違いましたが。

 大助は現役中、私が勤務する中学校にサプライズでいじめ防止の講演をしに来てくれたことがあります。自分の苦しみを糧に、いじめに悩む人を助けたいのでしょう。教師は目の前の生徒に応えることはできますが、彼ならもっと多くの人にメッセージを届けられます。これからも人々を勇気づけていってほしいと思います。

記憶に残る「ひと言」募集


 みなさんの「先生のコトバ」を募集します。記憶に残るひと言を教えてください。記事への感想も歓迎します。住所、氏名、年齢、職業、電話番号、メールアドレスを明記し、〒100・8055 読売新聞東京本社教育部「先生のコトバ」係へ。ファクス(03・3217・9908)、メールでも受け付けます。

468897 0 その他連載 2019/03/03 05:00:00 2019/03/04 18:06:54 2019/03/04 18:06:54 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190227-OYT8I50068-T.jpg?type=thumbnail

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