「オンライン授業はコロナ理由に限定」、福岡市教育委の通知に不登校の保護者落胆
完了しました

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、福岡市教育委員会が今月から順次始めているオンライン授業を巡り、不登校の子どもを持つ親から落胆の声が上がっている。受けられる対象がコロナを理由に登校できない子どもに限られ、それ以外は含まれていないためだ。市教委は「公教育の公平性」を理由に理解を求めるが、保護者からは「学校に行けない状況は同じなのに」と不満が漏れる。(遠藤信葉)
小学校高学年の息子が不登校の母親(41)は、今月中旬、学校を通じて配られた市教委の文書に気を落とした。文書では、オンライン授業の対象を、本人や家族に基礎疾患があったり、感染が心配だったりして登校していない児童・生徒に限定。目的について、これらの子どもの「学習機会の保障を行うもの」と太字で記載し、下線を引いて緊急措置であることを強調した。
文書の表記に、不登校の子どもを排除する印象を持ち傷ついたという母親は、「『オンラインで自分のクラスが見られるのなら授業を受けたい』と息子も乗り気だった。登校再開のきっかけになるかもしれないと期待していたのに」と残念がった。
福岡市は5月31日、オンライン授業の開始を発表。コロナが理由であれば、貸与するタブレット端末や家庭のパソコンなどで授業を受けられる。
高島宗一郎市長は「学校に通いにくかった人たちにも、新しい学習の選択の余地ができるのではないかと思う」と述べ、不登校の子どもを抱える一部の保護者は活用に期待を寄せていた。
市教委学校指導課は、対象を限定した理由について、現状では不登校の児童・生徒約1800人全員には端末を配備できないため、インターネットを使える環境がない家庭では授業を受けられず、貧富の差などで公教育の公平性を欠くと指摘。不登校の原因も一人一人異なるため、「十分に配慮した上で実施する必要がある」としている。
斉藤啓一課長は「全員分が準備できて初めて不登校児童への活用を考える段階」とし、将来的にはオンライン授業の活用を検討する考えを示した。一方、文書の表記については、「保護者が日々思い悩んでいるという事情を考えれば、言葉を選ぶ必要があった。
熊本市は利用可能
大阪府寝屋川市は15日から授業のライブ配信を始めたが、福岡市と同様、不登校の子どもは対象にしていない。市教委の担当者は「不登校の理由は子どもによって様々。現場の状況を見ながら、新型コロナ以外の理由で登校できない子への対応を検討したい」と話した。
熊本市では、休校期間中の4月から小学3年生以上を対象にオンライン授業を実施。不登校の子どもから「登校はできないが、オンラインなら参加できた」との声も寄せられた。学校は再開したが、市教委は8日、不登校の児童・生徒も利用できる想定で、希望者には授業のライブ配信をするよう学校側に通知した。
文部科学省の担当者は「一般論として、不登校児の学習機会確保に情報通信技術(ICT)の導入は有効」と指摘したうえで、「自治体によって事情は異なるだろうが、今できる範囲で対応してほしい」とする。
公教育を考える時
川口俊明・福岡教育大准教授(教育社会学)の話「ICTを活用すれば、教室に集まらなくてもよい場面も出てくるが、登校が前提のままなので、不登校の子には対応できないという不自然な状態が生じる。コロナで問われているのは、今までのような公教育のあり方でいいのかということ。市民全体で考えるべき問題ではないか」