「自分守って」「相談も大切」SOSの出し方、保健師が授業で語りかける
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昨年1年間に自殺した小中高生は前年から140人増え、過去最多の479人に上った。事態を重く見た政府は、「子供・若者育成支援推進大綱」にSOSの出し方教育の推進などを盛り込み、新型コロナウイルスの感染拡大の長期化を踏まえ、自殺防止対策に力を入れていく方針だ。(渡辺光彦、新美舞)
■対処法
「心と体はつながっている。運動したり、胸を張ったりするだけでも気持ちがさっぱりします」


今月22日、東京都足立区立花畑西小の体育館。5年生57人を対象にしたSOSの出し方を教える特別授業で、保健師の関口久恵さんが児童たちに語りかけた。
同区は2014年度から、教育委員会と連携してSOS教育に取り組む先進自治体だ。今年度はコロナ禍による長期休校の影響で回数は減ったものの、区立小69校中24校、区立中35校中8校で実施した。
この日の授業では、つらいことがあった時の対処法などが伝えられた。約45分間の授業後、女子児童(11)は「自分を大切にすることは、意識したことがなかったので心に残った」と語り、男子児童(10)も「友達が悩んでいたら、声をかける大切さがわかった。悩んでいる時、深呼吸一つでも気持ちが変わると聞いた。やってみたい」と話していた。
■はき出す場
SOS教育では、人に相談することの大切さも教えている。
18歳までの子供を対象に電話やチャットでの相談業務を運営するNPO法人「チャイルドライン支援センター」によると、近年、深刻な相談が目立つという。
チャット相談は19年の約3000件から20年は約4000件に増え、「消えてしまいたい」などの書き込みも20年は206件と倍増した。
同法人の小林純子代表理事は「自殺者が過去最多というのは、心配していたことが現実になってしまった」と声を落とす。「教員も保護者もコロナ対応に追われ、子供たちは甘えや不安をはき出す場を求めているのではないか」と受け止める。
■「兆候」把握
昨年の小中高生の自殺者479人の内訳は、小学生14人(前年比8人増)、中学生136人(同40人増)、高校生329人(同92人増)だった。
文部科学省では、「GIGAスクール構想」で今年度中に、授業などで活用するために1人1台の端末などを小中学校へ配備する。新年度からはその端末を使い、自殺予防システム構築の検討に入る。端末に質問を表示し、答えた結果を学校に送信し、自殺の兆候を読み取るなどの仕組みが考えられるという。
北海道教育大の井門正美教授(学校教育学)は「子供たちは学校の集団生活の中で、自分の感情や悩み、つらさを抑えてしまいがちで、適切な対処方法が分からないまま命を絶ってしまうケースがある。大人が子供のSOSに気づいてあげるポイントは、日頃の様子をよく観察し、コミュニケーションを大切にすることだ。会話が苦手な子供なら、交換日記のような手法も有効だ」と助言する。