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飲酒運転被害でトランペット奏者断念、女性教諭「生徒と一緒に」新たな夢へ奔走

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 飲酒運転事故に巻き込まれ、トランペット奏者になる夢を断念した長崎県佐世保市の前川希帆きほさん(25)が今春、同市の九州文化学園高に音楽教諭として採用され、吹奏楽部の創部を目指し奔走している。他校から借りた楽器で練習するなど苦労は多いが、指導する喜びを感じており、「生徒たちと一緒に新たな夢を追いかけたい」と意気込んでいる。(林尭志)

 放課後の音楽室に、クラリネットやフルートの音色が響いていた。「いいね。この前できなかったところも、ちゃんと吹けるようになってるよ」。合奏中に前川さんがそう言ってうなずくと、1年生の5人がうれしそうな笑顔を見せた。うち1人は初心者で、しっかり演奏できる曲もまだ少ないが、「生徒が日々、成長を実感できるような指導を続けたい」と話す。

 前川さんが事故に遭ったのは、県立佐世保東翔高3年だった2013年11月。音楽学部のある県外の大学の推薦入試を受けるため、母親の車で移動していたとき、乗用車に正面衝突され、前歯4本を失う大けがを負った。乗用車を運転していた男は無免許で、酒を飲んでいた。

 後日、特別に行われた面接試験で合格を果たしたが、入れ歯で臨んだ実技の特待生審査は不合格。事故の影響は大きく、その後も「かつての音色は戻らなかった」。プロを諦めて別の道を模索していたとき、自分を励まし続けてくれた母校の恩師の姿が浮かび、音楽教諭を志した。

 大学を卒業し、県内の別の高校で音楽講師を務めていた昨秋、九州文化学園高から音楽教諭としての誘いを受けた。同高は全校生徒約800人と同市では最も大きいが、吹奏楽部はなかった。そこで、一時はプロを目指した経験を持つ前川さんに白羽の矢が立った。

 着任した4月、生徒一人一人に声をかけて5人を集めた。同高にはまだ楽器がそろっておらず、近隣の高校や中学校から借りたフルートやクラリネットなどで練習している。サクソフォンなど足りない楽器のパートも、ほかの楽器で演奏している状況だ。

 それでも生徒らは活動を楽しんでおり、生徒の一人(16)は「憧れだった前川先生に教わることができてうれしい。いつかみんなでコンクールにも出たい」と夢を膨らませる。

 来春の創部が目標で、勧誘活動も続けている。いずれは地域で演奏会を開くなどし、住民らに音楽に親しんでもらう機会をつくるつもりだ。横田正俊校長は「つらい過去を乗り越え、ひたむきに努力する姿は学ぶ点が多い。立派に生徒たちを導いてくれると思う」と期待を寄せる。

 前川さんは「苦しくても諦めず、困難に打ち勝つことで得られる達成感を味わってほしい。自分なりのやり方で、音楽の素晴らしさを伝えていきたい」と話している。

犯罪被害者支援の活動も

 飲酒運転事故に巻き込まれた経験から、前川さんは犯罪被害者を支援するための活動にも取り組んでいる。

 大学在学中から、各地の自治体などが主催するシンポジウムに20回以上参加。事故前後の記憶は戻っておらず、当時の状況を語ることはできないが、痛みに耐えながらリハビリに励んだことや、支えてくれた周囲の人たちへの感謝の気持ちなど、被害者になったことで生まれた感情や体験を伝えている。

 「相手を思いやる気持ちがあれば被害者は減らせる」と前川さん。「事故に遭ったからこそ見えてきたものがある。自分の経験が、少しでも誰かの役に立てばうれしい」と話す。

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