読売新聞オンライン

メニュー

孤立させない…「校内カフェ」で安らぐ高校生[中高生の居場所〈1〉]

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 放課後などに安心して過ごせる場がなく、身近に悩みを相談できる大人がいない――。そんな中学・高校生を支援しようと、新たな「居場所」をつくる動きが広がっている。地域や家庭の環境が様変わりする中、困難な事情を抱える生徒の孤立や高校中退を防ぐ効果も期待される。まずは、横浜の高校で週1回開かれる「カフェ」に通ってみた。(編集委員・古沢由紀子、写真・鈴木竜三)

手作りの軽食で支援

横浜の定時制高校

「ようこそカフェ」でくつろぐ生徒。感染対策もあり、長居は控えている(横浜市立横浜総合高校で)
「ようこそカフェ」でくつろぐ生徒。感染対策もあり、長居は控えている(横浜市立横浜総合高校で)

 玄関近くの2階まで吹き抜けになったラウンジに、陽光が降り注ぐ。廊下にはイラスト入りのお品書き。正午過ぎの「開店」を待ちかねて、マスク姿の生徒が距離を取りつつ並び始めた。

 横浜市立横浜総合高校で2016年から開かれている「ようこそカフェ」。大阪の高校が発祥とされ、神奈川県では12の公立高校にある「校内居場所カフェ」の一つだ。

 同校は午前・午後・夜間の3部制定時制高校。原則週1回の昼と夕方、無料で飲み物や軽食を配布し、約200人の生徒が利用する。総勢約10人の支援団体のスタッフや大学生ボランティアと雑談を楽しみ、悩みも相談できる。

蓋付き容器に入れたミニ丼を生徒に手渡す。持ち帰って食べやすい
蓋付き容器に入れたミニ丼を生徒に手渡す。持ち帰って食べやすい

 ようこそカフェの特徴は、圧倒的に「食」が充実していること。元横浜市教育委員で料理研究家の長島由佳さん(59)が全面協力しているからだ。「新型コロナウイルス感染防止に留意し、持ち帰って食べやすい軽食を工夫して調理しています」と頼もしい。

 今年2月のある日のメニューはミニ焼き鳥丼。校内の畑産の野菜を添え、蓋付き容器に盛り付けた。感染防止のため、その場では食べられないが、短時間でも言葉を交わす光景があちこちに。「スタッフが優しくて安心できる。普段はカップラーメンばかりで、手作りがうれしい」と男子生徒(16)。「カフェのご飯はめっちゃおいしい。ここは心身ともに安らげる場所」。最近学校を休みがちだったという女子生徒(17)も笑顔を見せた。

家庭に事情…不登校経験者も

おしゃれな看板がカフェ気分を盛り上げる
おしゃれな看板がカフェ気分を盛り上げる

 コロナの影響で1日3回だった軽食の提供が2回に減り、カフェらしさも発揮しづらい。それでも「手作りの食事を配りたい」という長島さんらのこだわりには理由がある。

 開設当初、わらび餅を出したところ、何度もおかわりする生徒がいた。「朝から何も食べていない」という声の多さにお握りやシチューなど軽食の提供を始めた。希望者にはレシピを渡し、作り方を伝える。

 「家庭の事情で食事を作ってもらえない生徒もいる。今の子はスマホで情報を持っていても未成熟。週1回でも心と体の栄養を取ってほしい」と、「食育」の専門家でもある長島さんは強調する。

 同校の小市聡校長(61)は「弁当持参者はごく一部。朝食を取る習慣がない家庭も多い」と説明する。教師の聞き取りでは、起床時に家の冷蔵庫に食品がない生徒が約30人いた。

「元気だった?」。生徒に軽食を提供する長島由佳さん
「元気だった?」。生徒に軽食を提供する長島由佳さん

 背景には、シングルマザーなどのひとり親や困窮家庭が少なくない実情がある。アルバイト代を家計や学費に回したり、スマホ代を優先したり。夜間部は1食300円の給食もあるが、利用者は少数だ。

 カフェの大きな目的は、様々な課題を抱える生徒を孤立させず、支援につなげることだ。生徒約1000人のうち小中学校での不登校経験者は2割超。外国籍などの生徒は約80人いる。

 学校では教師が何でも抱えがちだが、小市校長は柔軟に考える。「校内に居場所があれば、一息つける子がいる。多様な大人が生徒の思いをくみ取る機会が広がるでしょう」

各地に開設広がる…資金確保が課題

 空き教室などで開かれるカフェは2年前、記者が川崎市内の高校を訪れた際に初めて見た。飲み物を手に語り合う様子は楽しそうで、従来の学校にない空間だと強い印象を受けた。

 校内カフェは大阪、北海道、宮城など各地で開設が進む。高校が地域のNPOと連携して開く方式が多く、行政の支援態勢はまちまちだ。横浜総合高校では市の基金の助成を受け、公益財団法人「よこはまユース」などがカフェの運営に携わるが、資金の安定的な確保が課題。食材の寄付も広く募っている。

「1日1食だけ」ヤングケアラーも

お腹と心を満たしてほしいとの思いがこもる
お腹と心を満たしてほしいとの思いがこもる
これまでに「ようこそカフェ」で提供されたメニューが校内の壁に貼られていた(画像は一部修整しています)
これまでに「ようこそカフェ」で提供されたメニューが校内の壁に貼られていた(画像は一部修整しています)

 今回の取材で驚いたのは、何人もの生徒が「1日1食しか食べない」と話していたことだ。

 4月にカフェで会った女子新入生(15)は「深夜までゲームをしてギリギリに起きるので、朝は食べない。面倒で昼も抜いて夕飯だけ。親は何も言わない」と淡々と語る。

 「夜しか食べないのが基本。気づくと一日食べないこともある」という男子生徒(19)はバイトを掛け持ちし、カフェでもらった果物を兄弟で分けることも。やはり1日1食が普通という別の男子生徒(18)は「母は体調がよくないので料理ができず、週末に妹が作る」と説明した。

 食生活の乱れでは片付けられない。厚生労働省の調査では高校生の4%が家族の介護や世話を担っており、「ヤングケアラー」の支援は急務だ。

 同校を含む横浜市立高校を巡回するスクールソーシャルワーカーの岩尾尚(ひさ)さん(60)は「高校によっては家庭環境が安定しない生徒が多く、1日100円で過ごすとか、ほとんど食べていないという話を聞く。カフェが窮状に気づくきっかけにもなる」と指摘する。

無断転載・複製を禁じます
2195790 0 ニュース 2021/07/10 12:47:00 2021/07/10 13:01:16 2021/07/10 13:01:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210706-OYT1I50116-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)