刑事裁判の傍聴にはまった中学生、最年少18歳で司法試験に合格するまで…推しの勉強法を聞いてみた

司法試験受験のきっかけや勉強法について語る大槻凜さん(9月21日、東京都渋谷区の伊藤塾東京校で)

 18歳が今年の司法試験に合格――。9月に報じられた驚きのニュースの主役は、 大槻凜おおつきりん さん(18)という慶応大法学部の1年生だった。気になる「挑戦のきっかけ」や「勉強のコツ」、そして「合格後も大学で学ぶ意義」とは。さらに、好きな「法律の条文」から「芸能人」に至るまで、100分間、丁寧に答えてくれた。(読売中高生新聞)

「目の前で裁かれている」刑事裁判のリアル

――満18歳3か月(受験時)での司法試験合格は、少なくとも、法科大学院修了生の受験が始まった2006年以降、最年少です。いつ、どんなきっかけで勉強を始めたんですか。

 司法試験の勉強を始めたのは高校1年の2月ですが、そもそもは、中学1年の秋に東京地裁で刑事裁判の傍聴をしたことがきっかけです。

――中1で裁判の傍聴ですか。

 はい。中学校(慶応義塾普通部)で毎年、卒業生を招いた特別授業がありました。その一環で弁護士の先生が20人くらいの同級生と一緒に傍聴へ連れて行ってくれました。

 覚醒剤取締法違反の事件でした。特別な事件ではなかったんですけど、裁判を見るのは初めてで、すごく衝撃を受けました。

司法試験を受けるには「法科大学院を修了」「予備試験に合格」の2ルートがある

 「これはフィクションではない。本当に起きた事件が、目の前で裁かれているんだ」と気づいて。一人の人間が法によって裁かれている現場を目の当たりにしたというか。その時に、司法の最前線を見たような気がしたんです。

――どこに衝撃を?

 なんというか、リアルさと言いますか……。法廷で被告人の生い立ちが語られ、「この人はどんな人生をたどったんだろう」などと色々考えてしまいました。被告人も発言していて、30歳代ぐらいの男性だったんです。「こんな普通の人が犯罪、覚醒剤をやるのか」という点もショックでした。

 とにかく、本当に実在する人間が、目の前で裁かれていると強く感じました。「裁判ってこういうものなのか」と関心を持ったことが大きなきっかけです。

――その後も傍聴を続けたんですか。

 そうです。裁判は平日しかやっていないので、学校の授業がない夏休みや春休みなどに通うようになりました。

 朝に一人で行き、昼になったら裁判所地下のフードコートのような大きな食堂でご飯を食べて。今はお店が少なくなりましたが。そして午後にまた傍聴して、夕方に帰る…というようなことをしていました。

 毎日ではなく、裁判員裁判や気になった刑事裁判を見つけて、ちょっと通ってみるという程度です。傍聴記録をつけ、法廷イラストを描くこともありました。逆転無罪判決や死刑判決の言い渡しも聞きましたし、逆送された少年事件も傍聴しました。

 中学校では年に1回、数学でも美術でもなんでもいいから自分の興味、関心を追求して、作品として発表する「労作展」という展覧会がありました。中2で「裁判・司法を考える 実際に裁判員裁判を傍聴して」というリポートを作り、中3では今思えば大それた題名ですが、「刑法解釈を考える 実際の傍聴によるケーススタディー」を発表しました。

勉強は講座の「早聞き再生」で週18時間

――そうした裁判や法律への関心から、司法試験の勉強を?

 そうです。「いま何の話をしているのかな?」と法律的なやり取りがわからないことが傍聴中にありましたが、高校(慶応義塾高)1年になると、そこにだんだん歯がゆさを覚えてきて。中学でリポートを作成した時にも刑法の入門書を読みましたが、「もっと勉強したいな」と思いました。

勉強に使った「伊藤塾」のテキスト(刑事訴訟法)には、蛍光マーカーや書き込みも

 そして「司法に参画したい」「将来は法律家になりたい」という自分の気持ちにも気づき、受験しようと決めました。

――どんな勉強をどれくらいしましたか。

 高1の(2019年)2月から、司法試験の受験指導校「伊藤塾」で学び始めました。収録されたものを自宅で好きな時間、自由に巻き戻せるウェブ講義です。“早聞き再生”で自分の部屋のパソコンで受講しました。

 友だちにも「1日何時間勉強した?」と聞かれましたが、その日によってバラバラで。高校の授業で疲れて帰ってきて寝ちゃうような時もあれば、休日は一日中勉強することもありました。それに受験の直前期は朝起きてから寝るまでずっと……みたいな感じでもありました。「1日何時間」というのは難しいんです。

 ただ、目安として、伊藤塾の講義は1回3時間、それが週3日あって計9時間。それと同じ時間をかけて復習したので、1週間で合計18時間か、やや多いくらいの時間をやっていた気がします。

学校優先、部活は生徒会の「幽霊部員」

――学校との両立は大変だったのでは? 大槻さんには通常の大学入試がなかったとはいえ、慶応の法学部への内部進学には、上位の成績が求められるはずです。

高校生活との両立について語る大槻凜さん(9月21日、東京都渋谷区の伊藤塾東京校で)

 高校の授業との両立は、やっぱり難しかったです。

 平日は朝から午後3時ぐらいまで、化学、物理、世界史……と法律と全然関係ない授業を受けますし。いきなりリポートや英語のエッセーを書く課題が出ることもありました。

 選択を縛られたくなくて全学部に行けるように対策をしていたので、(高3で合格した予備試験の)直前期は別ですけど、基本的には学校優先でした。

 だから、司法試験の勉強をほとんどできない日もありました。ただ、たいていの人は何かと両立しているはずです。大学生は大学の講義、サークル、アルバイト。社会人はもちろん仕事。みんな何かしら両立しているので、そこは受け入れて、うまく時間を使うほうが大事かなと思っていました。

 それに毎日高校に通っていたので、友だちとのたわいのない会話が、意外とストレス解消になっていたのかもしれません。

――部活動はしていましたか?

 生徒会の“幽霊部員”でした。1年のときはちょっと活動していましたが、その後はほとんど参加しませんでした。中学まではラクロス部でしたが、高校では運動部に入りませんでした。

勉強法のコツは…セルフ・暗記・スキマ

――司法試験の勉強法は? コツをぜひ教えてください。

 整理すると三つあって、一つは〈セルフレクチャー〉というやり方です。声を出して自分に講義することで復習する勉強法です。

 テキストを開き、「今日は△△という単元を進めよう」「この言葉の定義は○○だ」「□□という判例があって」などと、ぶつぶつ言いながらやります。

 自分が本当に理解しているかどうかがよくわかり、文章の読み飛ばしもなくなります。それに、「なぜこういう結論になるのか」みたいなことも同時に思考できる方法です。僕はポケット六法で条文を確認しつつ、考えながらセルフレクチャーをしていました。

――他には?

 二つめは〈寝る前5分間は暗記の時間〉と決めて、毎晩必ずやりました。もう一つは〈スキマ時間の活用〉で、電車通学の片道20分に○×形式の正誤問題をこなしました。

――いずれも「驚くべき勉強法!」というわけではなさそうです……。

 そうですね(笑)。どれも(伊藤塾の)伊藤真塾長が最初の講義で教えてくれたやり方なんですが、その時に「たぶん今日、セルフレクチャーも寝る前の5分の暗記も、ほぼ全員がやるでしょう。1週間後にやってくれる人は半分ぐらいかな。1年続く人は1割もいないです」と言われました。

 おそらく毎年、受講者に伝えているんでしょうね。さらに続けて、「でも、こういうことを真面目に続けた人が受かる試験です」と。そこで自分は変に意地になって「絶対1割に入ってやる」と思い、やり続けました。

――それらの方法は、学校の勉強にも役立ちましたか?

 学校の勉強では、セルフレクチャーはあまり使いませんでした。ただ、役に立ったといえば、話が少し変わりますが、論文式試験では、法律的な知識も大事ですが、それ以前に論理的な文章を書く力、わかりやすい文章を書く力が大切です。

 そういう点は高校、大学問わず役に立っていると感じます。やっぱりリポートなどを書く時に、司法試験で学習した論理的な思考、論理の展開は使えていると思っています。

大槻さんが勉強に使った「伊藤塾」のテキスト(刑事訴訟法)と「ポケット六法」(有斐閣)

 それと、自分が昨年高3で(合格率4%の)予備試験を突破し、今年大学1年で(同41・5%の)司法試験に合格できたのは、新型コロナの影響だと思っています。

――コロナの影響?

 もともと去年(2020年)の予備試験は、短答式5月、論文式7月、口述10月の予定でした。それが、コロナ禍の影響で3か月ずつ延期されて8月、10月、翌年1月になりました。当初のスケジュールでは、勉強が間に合わなくて落ちていたと思います。

 それに高校も4~6月頃は休校になったので時間ができ、集中して勉強できました。それで予備試験に合格できたと思っています。受講のペースもそれまでは遅れ気味でしたし。

大学飛ばして司法修習に行く?

――そして今年(2021年)、司法試験に合格しました。「もう大学卒業を待たずに司法修習に行こうかな」と思ったことはありませんか?

 たしかに「法律の勉強」という点だけを見れば、司法試験の勉強も今の法学部での勉強も、それほど変わらないかもしれません。

 ただ、両者は目的が違うんですよね。つまり、司法試験は「難しい」とは言われますが、合格というわかりやすいゴールがあります。一方で、大学というのは学問や真理の探究の場であり、そこにゴールはありません。

 なので、今まで試験勉強として見てきた法律を、大学の場でまた別の視点から勉強するのは、意義があることだと思っています。「大学は真理の探究の場」という部分は、これも伊藤塾長の受け売りです(笑)。

――大学では教養科目も学べますね。

 はい。やっぱり教養って大事だと思います。極端な話、いま大学を中退して、司法修習を受けて、弁護士になりました、ということも理論上は可能です。けれど「こんな若いやつに相談や依頼をしたいですか?」と聞かれたら、頼みたくないと思うんですよ。

 法律家は、法律の知識だけで仕事をしているわけじゃないと思うので。教養という面で考えても、やっぱり大学に通う意味はある。よりよい法律家になれるんだろうなと考えています。

 そして、これから勉強に限らず、幅広く社会経験も積みたいです。今まであまりしてこなかったので、いろんなことに手を出したいです。その一つとして、留学があると思いますし、英語もそうですし。法律と全然関係のないアルバイトもしたいです。

――裁判官、検察官、弁護士の法曹三者、どれになりますか?

 今はいずれを目指すか、まだ決められていません。けれど、もともと法廷でのリアルなやり取りに衝撃を受けてこの道を目指しました。なので、目の前にいる被告人や当事者、依頼人と心から向き合うことを忘れない。そんな法律家になりたいと思っています。

好きな条文、推しの裁判官は…

――ここからは「好きな○○」などを聞かせてください。まず好きな条文は?

「好きな芸能人」を問われ、やや困った表情を見せた大槻凜さん(9月21日、東京都渋谷区の伊藤塾東京校で)

 そういう質問があるかもと思って、考えてきました(笑)。憲法なら23条が好きです。「学問の自由は、これを保障する」という、ただそれだけの条文です。

 声に出すと五七五になっていて、音がきれいだなというのもあります。それに、たった17音の条文に、判例が積み重なり、ここから派生した原理、解釈がたくさんあり、学問的にも蓄積している。それがかっこいいなと思って。あまり多くを語らない態度が、かっこいいと思っています。

――民法にも五七五があったような。

 「相続は、死亡によって開始する」(882条)ですね。

――さすがの即答ですね。

 五七五だったから、たまたまです。六法全書をすべて覚えるわけではないです。ドラマでもそういう設定の弁護士がいますけど、現実にはその必要はありません。

――では、好きな食べ物は?

 ゆでたホタルイカを酢みそにつけて食べるのが好きです。中高生新聞でホタルイカというのも変かな……。たまに家で出るんですけど、最近食べてないです。

――苦手な食べ物は?

 ブロッコリーですかね。

――特技は?

 特技を聞かれてうまく答えられないことに困って、高校生の時にルービックキューブを練習しました(笑)。一定のコツがあって、しっかり学べば、誰でもできるようになるんです。

 頑張って2分間でそろえられるようになったんですが、それ以上早くすることはできませんでした。

――こういう話題もホッとするので…。

 わかります。ゆるい話題もあったほうがいいですよね。堅い選挙報道でも、候補者のゆるいプロフィル情報が面白いです。

――ありがとうございます。憧れている人、尊敬する人は? 芸能人など。

 芸能人なら、長澤まさみさんのファンです。主演の「コンフィデンスマンJP」は、ドラマも映画も全部見ました。犯罪のドラマですけど……司法試験に受かった人間が犯罪のドラマが好きというのもまずいですか(笑)。

 映画版の「プリンセス編」は、予備試験の短答式が終わった記念にすぐ見ました。論文の試験に向けて気合を入れるためにも。

 それと、ちょっとマニアックになるかもしれませんが、 合田悦三ごうだよしみつ さんという裁判官がいたんです。東京高裁で傍聴していた時に、その人柄が好きだなと思いました。

 高等裁判所のいわゆる「エリート裁判官」なのに、すごくおおらかな方で、被告人ともざっくばらんに会話して、たまには笑ったりしていました。「この裁判官、いいな」と思ったんです。でも直後に転勤してしまって。

 札幌高裁の長官まで務めて、8月に定年退官を迎えられました。

――人事までフォローしているんですね。

 裁判傍聴が好きになると、最後は裁判官人事にまで関心を持つようになるんです(笑)。最終形態というのかな。

――推しは合田裁判官。

 推しでしたね(笑)。訴訟指揮が好きでした。先ほど話した「逆転無罪判決」も、合田裁判長の法廷でのことでした。

――好きな裁判官まで教えてくださり、ありがとうございました。最後に、ここまで読んでくれた読売中高生新聞の読者にメッセージを。

 上から目線な言い方になってしまいますが、やっぱり、自分が興味のあることを突き進めてほしいなと思います。僕の場合は裁判でした。それを突き進めた結果、司法試験を目指しました。

――興味があって楽しいから、好きだからこそ、苦しいことがあっても突破できると?

 そうですね。司法試験の世界でも、「自分は弁護士にならないといけないんだ」みたいな義務感だけでやると、たぶんつらくなってしまうと思います。

 僕の場合は、幸せなことに純粋な興味、関心として追求できました。それが、この結果に結びついたのかと思っています。(聞き手・森田啓文)

  【おおつき・りん】  東京都出身・在住。2003年1月、会社員の父と幼児教室指導者の母の長男として生まれた。現在、慶応大法学部法律学科1年。

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