関心高めやすいが、記憶に残りにくい…内容厳選の「紙」との使い分け課題
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学習用端末やデジタル教科書には、様々な機能の活用が期待されるが、機能によって子供たちの気が散り、記憶や集中力に影響する懸念もでている。
「頭に入らない」
「先生、頭に入りにくいよ」
東北地方の小学校で昨年の夏休み明け、6年生が、授業でデジタル教科書を使い始めたところ、何人かの児童から同じような訴えが寄せられた。担任の男性教諭は、デジタル教科書の効果が感じられず使用をやめた。その後は「頭に入りにくい」といった声は聞かれなくなったといい、男性教諭は、「紙のページを触ってめくったり、鉛筆で書き込んだりした方が、記憶に残るのではないか」と感じている。
神奈川県内の小学校では、英語の授業でデジタル教科書を使うが、児童は画面の移動やページの拡大などの端末の操作自体に熱中してしまう。教頭は、「デジタル教科書は児童の関心を高めやすいが、学習に集中させるのが難しい」と話す。読売新聞の小中学校500校調査(回答率65・8%)では「児童生徒が授業と関係ない操作に集中する」と回答した学校は62%に上った。
気を取られる
北海道大の河原純一郎教授(認知行動科学)らは2016年、スマホがそばにあるだけで「メールが来ないか」などと気を取られ、注意力が低下するとの研究結果を発表した。パソコンのモニター上に様々な図形を映し出し、そこから「T」を見つけ出す時間を測ったところ、スマホを近くに置いた人が平均3・66秒だったが、メモ帳を置いた人は平均3・05秒で有意な差がついた。
河原教授は「デジタル教科書を使う端末でインターネットも使えれば、大人より自制心の低い子供はネットに気を取られてしまう恐れがある」と話す。
海外でもデジタル画面が集中力をそぐという研究結果がある。
スペインのバレンシア大などは、00~17年に紙とデジタル画面で文章を理解する力を調べた論文54本を分析した。小中高生と大学生計約17万人を比べた結果、情報量の多い論説文は、紙の方が理解度が高い傾向がみられた。同大は「画面のスクロール作業などに気を取られ読解力が損なわれるのでは」と分析している。
紙にない利点
学習用端末やデジタル教科書には、紙にない利点もある。1人1台持てば、子供の特性や学習の進み具合にあわせた教材や学びが可能になる。また、文章の読み上げや文字拡大、読み仮名振りなど、障害のある子供や外国人の子供を支援する機能を備える。

この2年で端末配備は一気に進んだ。中央教育審議会の作業部会は、3月にデジタル教科書の「本格導入」に向けた議論を始め、今夏頃に「一定の結論」を目指す。文部科学省では今年度、全小中学校に英語を中心にデジタル教科書を配布した。その効果や影響の検証は始まったばかりだ。
斎藤孝・明治大教授(教育学)は、「紙の教科書には『これだけは絶対に身につけるべきだ』という内容が厳選されており、学習の基本となる。一方、端末やデジタル教科書には検索機能や文字の拡大などの良さもある。紙の教科書軽視とならないように紙とデジタルを効果的に使い分けることが望ましい」と話している。
(おわり。この連載は教育部 福元洋平、佐々木伶、鯨井政紀、武石将弘、服部真、台北支局 鈴木隆弘が担当しました)
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