[命の葛藤]出口なき若者(2)「あの時」母の自責

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体罰目撃 次男に異変

中学生の時の恭平さんと、小学生時代に愛用していた野球ボール。「そっちにいったら謝るから、まだ待っててね」と優美子さんは呼びかける(4月20日、愛知県刈谷市で)=冨田大介撮影
中学生の時の恭平さんと、小学生時代に愛用していた野球ボール。「そっちにいったら謝るから、まだ待っててね」と優美子さんは呼びかける(4月20日、愛知県刈谷市で)=冨田大介撮影

 「息子が亡くなってから、ずっと自分を責めてきた」。愛知県刈谷市の山田優美子さん(49)は、高校2年で命を絶った次男・恭平さん(当時16歳)の遺影の前で、そう語り始めた。

 2011年6月10日の昼過ぎ、自宅から8キロ離れた廃車置き場で、車の中で冷たくなった息子を見つけた。練炭自殺だった。

 両親の要請を受け、県が設けた第三者委員会は14年2月、野球部の副部長だった教諭が他の部員に体罰を伴う厳しい指導をしていて、部活を辞めたいのに辞められないことなどの葛藤が重なり、うつ状態となって自殺したと結論づけた。

 16年3月には、学校での災害共済給付制度を運営する日本スポーツ振興センターが、恭平さんの死を「故意の死亡ではなく、学校の管理下で発生した事件に起因する死亡」と認定した。

 それが一つの区切りになるはずだった。だが、優美子さんの心が晴れることはなかった。

 振り返れば、異変は確かにあった。亡くなる1か月ほど前、副部長の体罰を目撃した日に、落ち込んだ様子で「すげー嫌なものを見た」と話していた。小学6年の時にも、コーチが友達を激しく 叱責(しっせき) し続けたため少年野球チームを辞めたほど、体罰には敏感な子だった。「部活にはもう行かない」と言い出し、食欲も落ちた。成績も急に下がった。

 あの朝は、珍しく弁当箱を玄関に置き忘れていた。息子のリュックに、弁当箱の代わりに練炭が詰め込まれていたとは、夢にも思わなかった。

 体罰を見て落ち込んでいた時、すぐ学校に申し入れていれば。あの朝、すぐ弁当箱を持って追いかけていれば――。「体罰さえなければ」と思う一方で、「もしあの時」と考え出すと、胸がつぶれそうになる。

 当時の野球部の監督(51)も、自責の念にさいなまれ続けている。

 恭平さんから退部の申し出を受けたのは自殺の2か月前だった。副部長による体罰は知らず、もう少し頑張らせることも必要と思い、「辞めちゃダメだ。逃げるな」と突き返した。

 〈これ以上頑張れないところまで追い詰められていた〉。第三者委の報告書はそう総括している。恭平さんのリュックには、題名にひかれて買ったのか、「がんばらない」(鎌田實著)という本も入っていた。

 監督は恭平さんの死後、「自分に野球を教える資格はない」とグラウンドを離れ、昨春には教員も辞した。「死ぬほどつらいと思っていたことに、なんで気付いてやれんかったのか。死ぬまで心の中に持っとかなきゃならん十字架なんです」。そう言って涙をぬぐった。

 恭平さんを失った優美子さんを支えてきたのは、残された家族の存在だという。現在は同じ立場の遺族への支援に力を注ぎ、今月、自死遺族が静かに過ごせるシェルター(宿泊施設)の運営団体を設立する。「当事者しかわからないつらさを受け止める。それが今、私にできることです」

言動や体調「サイン」

無料相談窓口の例
無料相談窓口の例

 自殺問題に詳しい精神科医の高橋 祥友(よしとも) ・筑波大教授によると、自殺を図る人は直前に「サイン」を発しているケースがしばしばある。

 代表的なものとして「突然の態度の変化」がある。例えば、〈1〉成績が急に落ちる〈2〉学校に行かなくなる〈3〉投げやりな態度〈4〉食欲不振や不眠など体の不調〈5〉関心があったことに興味を失う――などだ。「遠くへ行きたい」などと漏らしたり、日記や手紙を処分したりといった言動もサインといえるという。

 高橋教授は「自殺したい人は、その気持ちを誰かに何らかの形で訴えている。それを受け止めることが、自殺防止につながる」と指摘している。

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745352 0 特集など 2019/08/16 15:25:00 2021/08/17 23:14:42 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190815-OYT1I50049-T.jpg?type=thumbnail

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