[命の葛藤]出口なき若者(3)発達障害 診断が救い

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「生きづらさ」に対処法

「全てがむなしい」。北陸地方の男性は苦しみをスマートフォンにつづっていた=冨田大介撮影
「全てがむなしい」。北陸地方の男性は苦しみをスマートフォンにつづっていた=冨田大介撮影

 人との会話がかみ合わない。周囲に「話を聞いていない」と誤解され、溶け込むことができない。北陸地方に住む20歳代の男性が幼少時から味わってきた息苦しさは、長じても強まるばかりだった。

 〈懲役あと何年だ〉。人生を懲役刑になぞらえ、自らのスマートフォンのメモにこう記したのは、社会人2年目だった2014年夏のことだ。〈五感全てが、苦しみを味わうためだけの器官になってしまったようだ〉。出口の見えない絶望感にとらわれ、首をつるためのロープを通販サイトで探した。

 発達障害と診断された今は、当時のことを冷静に振り返ることができる。

 子供の頃、周りがどうやって友達を作っているのかわからなかった。「バカ、アホ」と言えば仲良くなれると勘違いし、連呼していたらいじめの標的にされた。授業に集中できず、成績優秀の兄と比べられ、親から叱られた。どこにも居場所はなかった。中学時代には「いつ死んでもいい」と思うようになった。

 大学卒業後、薬品会社に就職したが、そこでもうまく会話ができず、先輩から叱責(しっせき)された。「社会人になっても同じなのか」。何度も遺書を書き、パソコンでロープを探した。

 だがそのたび、大学時代の友人の顔が頭に浮かんだ。「人と話すのが怖い」と打ち明けた時、「人と会話せずにできる仕事は少ないからな」と一緒に悩んでくれた。数少ない大切な友人を悲しませたくない。そう思い踏みとどまった。

 16年末、発達障害の一種である自閉スペクトラム症と診断された。対人関係の機微を理解するのが苦手で、こだわりが強い特性がある。ただ、この男性の場合は、人間関係を図式化して覚えれば、苦手を克服できると教えられた。「幼い頃からの生きづらさの理由に診断名がつき、対処法もあると知ってほっとした」

 昨年から自助グループに入り、同じ障害の仲間と悩みを語り合う。心が少しずつ落ち着いていくのを感じる。「友人の言葉と診断がなければ、もう死んでいたかもしれない。今はとりあえず生きてみたい」

 「苦しみの原因が分からずに絶望している当事者にとって、自分の特性を知る意味は大きい」。東日本に住む別の男性(35)の主治医は語る。

 この男性は自殺未遂を8回繰り返した。19歳の時、就職した工場で、「仕事の覚えが悪い」ときつく怒られた。家族も悩みをまともに聞いてくれず、追い詰められて風邪薬を大量服用したのが始まりだった。

 対人関係でストレスを抱えるたび、農薬を飲んだり、首をつったりして自殺を図った。母に「生まれてきてごめんなさい」と遺書を書いたこともある。

 だが2年前、発達障害と診断されたのが転機となった。支援団体に参加して思いをはき出すと、死にたい気持ちはおさまっていった。「生きがいがほしい」。主治医らの助言を受けながら、無理なく働ける仕事を探し始めている。

周囲が支え 社会で活躍も

無料相談窓口などの例
無料相談窓口などの例

 社会に出てから発達障害と判明するケースは、「大人の発達障害」と呼ばれ、支援の必要性が指摘されている。発達障害に詳しい名古屋外国語大の竹内慶至准教授(医療社会学)によると、発達障害の人はきちょうめんな点などを生かして社会で活躍する場合もある。一方で、「うまく会話できない」「特定の音に敏感である」などの特性を理解されずに職場で失敗を責められ続けた結果、うつ病など自殺のリスクがある疾患になる例も少なくない。

 竹内准教授は「追い詰めないためには、失敗に寛容になるというだけでなく、職場で特性にあった得意な仕事を担当させるなどの仕組みが必要だ」と話す。

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