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病で休学 復学かなわず

布団に横たわる息子の名を叫びながら頬をたたいたが、反応はなかった。周囲には、空になった薬の包装シートが数十個、散らばっていた。
2014年12月、広島県尾道市の母親(47)は、大学3年の息子が意識を失っているのを見つけた。向精神薬の過量服用だった。一命を取り留めた息子はつぶやいた。「死んでもいいかなーと思って」。1年後、大学校舎から飛び降り、本当に命を絶った。22歳だった。
勉強が得意で、ゲームと旅行が趣味だった。理系学科に進学し、楽しそうに大学に通っていた。しかし14年10月、「周囲から悪口を言われている気がして大学に行きづらい」と訴え、大学を休学した。病院で精神疾患と診断され、3種類の薬をもらった。
翌月にはパニック発作で精神科病院に搬送された。休学期間はずるずると延び、翌15年春には留年が決まる。友人にはツイッターで「薬が効かない」と明かし、復学できない焦りを漏らしていた。アルバイトを探しても見つからず、母親に「病人なんてだれも雇ってくれない」と訴えた。
母親によると、息子は医師に薬を増やすよう頼んでいたようだ。15年6月、ツイッターに錠剤を手に盛った写真を載せ、〈これだけの薬飲んで、生きてるってなんなんだろう〉とつぶやいていた。
処方薬の内容を示す「お薬手帳」の記載ではこの頃、向精神薬は1日30錠になっていた。「若者の自殺リスクを高める恐れがある」と添付文書に記されている抗うつ剤も含まれ、1種類のみの処方が勧められている薬が4種類出されていた。
自殺に至った直接の原因が、病気なのか薬なのかはわからない。ただ母親は「薬を大量に飲んでいなければ、息子の未来は違っていたかもしれない」と話し、「異変に早く気づき、悩みを受け止めていれば」と今も悔やんでいる。
向精神薬は精神疾患の症状の悪化を防ぐには有効とされるが、専門家は「服用の方法によっては、自殺を誘発することがある」と指摘する。厚生労働省は10年6月、薬の投与日数や量に注意するよう医療関係団体などに通知を出した。だが、患者が過量服用したり、医師に隠れて複数の医療機関で処方を受けたりできる現状を防ぐ仕組みは十分ではない。
仙台市の男性(68)は08年、多量の睡眠導入剤による急性薬物中毒で高校2年だった次女(当時16歳)を亡くした。次女が残したメールには「薬を飲んで自殺しました」と記されていた。半年間に6か所の医療機関をはしごし、薬局で向精神薬などを手に入れていたという。
男性は地元の自助グループで、同じように薬物依存の末に命を絶った人の家族の話を聞きながら、「薬に
患者支援の仕組み必要

精神科医で国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦部長によると、つらい出来事やストレスを抱える若者の中には、周囲の人に悩みを相談できず、つらい気持ちを薬で消そうとした結果、量がエスカレートして過量服用に陥るケースが少なくない。自殺に至ることもある。
背景には、医師が患者1人に十分な診療時間を取れず、患者を少しでも楽にしようとして、求めに応じて薬を処方せざるを得ない現状もあるという。
松本部長は「投薬だけに頼るのではなく、臨床心理士や地域のソーシャルワーカーと連携して患者や家族を支援する仕組みがもっと必要だ」と指摘する。