映画で自殺シーン避けるべきか…兄をなくした監督の決断は?[#しんどい君へ]

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

映画「鈴木家の嘘」(c)松竹ブロードキャスティング
映画「鈴木家の嘘」(c)松竹ブロードキャスティング

 自宅で自死する長男と、それを見つけて記憶喪失になる母親――。冒頭、そんなシーンから始まる映画「鈴木家の(うそ)」。2018年公開のこの映画は、脚本も手がけた野尻克己監督(45)が、約20年前に兄を自死でなくした原体験をもとにした作品だ。WHOがこのほど、映画、テレビ制作者向けに、「自殺シーンの描写を避ける」などの12項目を含む「自殺予防の指針」を策定したが、遺族として、映画監督としてどう受け止めたのかを聞いた。

兄の近況聞かれ、とっさについた嘘

◇のじり・かつみ「舟を編む」「恋人たち」など多くの作品で助監督を務め、2018年に自ら脚本を手がけた「鈴木家の嘘」で監督デビュー。埼玉県出身。
◇のじり・かつみ「舟を編む」「恋人たち」など多くの作品で助監督を務め、2018年に自ら脚本を手がけた「鈴木家の嘘」で監督デビュー。埼玉県出身。

 大学を出て映画の仕事をして、色々な作品に関わり、いよいよ自分で作品を手がけようとした時に、自分が描けるものとは何だろうと考えました。ずっと、家族の話は撮りたいと思っていて、すると、多くの人は経験したことがないであろう兄の自死のことが思い浮かびました。一度はやめようと思い、ある時、兄の近況を聞かれて、「兄は交通事故で死んだ」と思わずうそをついてしまいました。

 自殺する人は日本だけで年間約2万人もいて、私と同じような遺族は計算上、毎年何十万人も増えています。残された家族はなぜ死んだのか理由さえ分からず、「自分のせいで死んだのではないか」と考え、悩み続けています。それでも、家族はバラバラにならず、時に笑いもあり、時にはうそをつき、不器用に生き続けていく。そうした家族の再生をコミカルな部分も交えて描こうと考えました。「うそをついた家族」「家族の喪失と再生」をテーマに、老若男女に見てもらうユーモアにあふれた家族映画を作ろうと、4年ほどかけて脚本を書き上げました。

遺族の葛藤伝えるために…「避けられない」

 うちの兄が死んだ時も、自分が外出していると母から携帯に電話があって、命を絶ったと伝えられて、すぐに自宅に戻って……。自死のシーンを映画に入れるのは非難されるかもしれないと思ったし、実際、そのシーンを入れるかどうか決める時には、個人としてはちゅうちょしました。しかし、映画監督としては、遺族の複雑な葛藤や悲しみをわかってもらうためには、そのシーンは避けられないと判断しました。

「描ききる覚悟」と「命に対する敬意」が必要

 WHOの指針では、「自殺シーンの描写を避ける」という項目があります。でも、それを描けなければ、遺族が悩み、苦しんでいることすら想像もできないような作品になってしまうのではないでしょうか。一人の人間の生き様を描くのが私たち映画関係者の仕事です。自死のシーンでは、長男役の加瀬亮さんは監督の私と何度も話し合い、様々な引きこもりの本を読み、自分を追い詰めて演じてくれました。現代社会は情報が氾濫しており、一人の人間の命や死までが軽くなっていないでしょうか。我々が、自死のシーンを撮影するならば、その人がどうして死んだのかを描ききる覚悟と、命に対する敬意が必要だと思います。

 今、つらいと感じる若者もいるだろうし、生きることを毎日考なければいけない現代社会はしんどいかもしれません。「前向きに生きよう」という言葉がうそに聞こえる時もあるかもしれません。でも、同じ思いを抱えた人は世の中にたくさんいます。たとえ、自分の周りに自分と同じような人がいなくても、この世の中には映画があり、小説があり、漫画もある。そこには自分と同じ人、想像を超えた色々な人が存在しています。人間はみんな同じでなくてもいいということがわかり、彼らはあなたに寄り添ってくれます。僕も多くの作品に救われました。

「懸命に、そして、不器用に生きている姿見て」

 ある時、映画を見て自死のシーンがあったとする。でも、それだけに目を奪われないでほしい。私だけではなく、私と同じ境遇の人もいて、懸命に、そして、不器用に生きているという部分こそ見てほしい。表現する側がしっかりとした覚悟を持って作品を作れば、WHOの指針をすべて守らなくても、命の大切さはきっと伝わると信じています。

「映画の力信じる」

映画を企画した松竹ブロードキャスティング・小野仁史プロデューサー(41)の話

 「WHOの指針やネットフリックスの『13の理由』のニュースを見ると、映画の発信側である我々が、自殺を促したり、影響を与えたりする作品を生み出してしまう可能性があることを、改めて真摯(しんし)に受け止めなければならないと痛感しました。映画は娯楽であるとともに、社会問題を映し出すものであり、今を描くものでもあります。自殺は安易に扱ってはいけないテーマだと思いますが、見る者の心を打つような作品であれば、自殺の予防につながる側面もあるのではないかと、映画の力を信じています。遺された家族をみつめた『鈴木家の嘘』がそうであったように、苦しみを抱えている人の救いにはなれずとも、心の寄りどころになれるような作品を、これからも世に出していきたいと考えています」

無断転載禁止
1072741 0 WHO指針を考える 2020/02/27 10:00:00 2020/02/27 10:00:00 映画「鈴木家の嘘」(c)松竹ブロードキャスティング https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200225-OYT1I50055-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
The Japan News
発言小町
OTEKOMACHI
ささっとー
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
挑むKANSAI
読売新聞社からのお知らせ