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    (5)ヒヤリ・ハットへの不作為は、もはや許されない…学校事故

    • 文部科学省「柔道の授業の安全な実施に向けて」参考資料より
      文部科学省「柔道の授業の安全な実施に向けて」参考資料より

     動いている教育の一瞬一瞬をとらえる「ゼノンの逆説」。第5回は「学校事故」を取り上げる。

     今年5月22日、福岡市立中学校の柔道部の活動中に、1年生女子生徒が頭などを打って意識不明となり、27日に死亡したことが報じられている。

     名古屋大学の内田良・准教授によれば、柔道は主要部活動の中でも突出して死亡率が高いものであったが、2012~2014年度には死亡ゼロが続いていた。

     内田准教授の分析では、過去118件の学校柔道での死亡事故は、中高とも1年生で多発し、主たる原因は柔道技による頭部外傷である。

     また、時期は5月から7月が多く、技では大外刈りが多い。受け身の習得が不十分な初心者が無理な稽古を行うと危険だということが、すでに指摘されていた。

     内田准教授は、今回の福岡の事故も大外刈りによるものであり、今回のケースが死亡の「典型的な事例」であった点が衝撃的だと指摘している。

     2012年より新しい中学校学習指導要領が実施され、保健体育で武道が必修化されている(原則として、柔道、剣道、相撲のうち一つを選択)。特に、部活動で死亡事故が多く発生していた柔道については、安全対策が重視されてきた。

     文部科学省は2012年3月に「柔道の授業の安全な実施に向けて」という文書を出しており、その中でも「大外刈り」など後方に受け身をとる技については、運動部の活動などで頭部外傷の事故が報告されており、扱うとしても、受け身等を十分に習得した上で、学んでいくことが必要になります」と明記している。指摘されていたリスクがなぜ回避されなかったのか、検証と再発防止が求められる。

    組み体操の巨大化・高層化も問題

     内田准教授が最近強調している問題には、もう一つ、組み体操の巨大化・高層化の問題がある。運動会で4段のタワーや7段のピラミッドといった組体操が行われることがあるが、組み体操に関しては事故が多く発生している。

     日本スポーツ振興センターの統計によれば、2012年度の1年間で、小学校における組み体操における事故は6,540件、中学校1,953件、高校390件である。こうした状況であるにもかかわらず、組み体操が巨大化・高層化する傾向が見られる。

     危機管理の基本は、重大事態が起きる前の比較的軽微な事故やヒヤリ・ハットの段階で防止策をとることである。柔道にしても組み体操にしてもリスクが指摘されていたにもかかわらず、初心者に柔道技がかけられたり、組み体操の巨大化・高層化が行われたりしている。すでに事故が発生しており、ヒヤリ・ハットはかなりあるはずなのに、リスクが残されている。

     本来学校は子どもたちのためにあり、子どもの安全を守ることは大前提であるはずである。子どものための学校で子どもの安全が守れないのでは、逆説的すぎる。安全対策の優先順位が低すぎるのなら、高めなければならない。

     

    参考

    内田良連載「リスク・リポート 事故・事件を科学する」
    文部科学省「柔道の授業の安全な実施に向けて」
    独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害〔平成25年版〕」

    プロフィル
    藤川大祐( ふじかわ・だいすけ
    千葉大学教育学部教授・副学部長(教育方法学・授業実践開発)
     1965年、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学(教育学修士)。2010年より千葉大学教育学部教授。15年より同副学部長。メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業、企業との連携授業等、さまざまな分野の新しい授業づくりに取り組む。学級経営やいじめに関しても詳しい。文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員(2007年~)、NPO法人企業教育研究会理事長、NPO法人全国教室ディベート連盟理事長・関東甲信越支部長、日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)理事長等をつとめる。主な著書に、『12歳からのスマホのマナー入門』(大空出版、2014年)、『授業づくりエンタテインメント! ―メディアの手法を活かした15の冒険』(学事出版、同)、『スマホ・パソコン・SNS よく知ってネットを使おう! こどもあんぜん図鑑』(講談社、2015年)など。



    2015年06月12日 08時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun