<速報> 山口で行方不明だった2歳男児、発見…意識あり
    
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    教育に関する様々な話題を随時紹介、解説します。

    (最終回)声高な教育論にささやかな矢を…特別の教科 道徳

     本連載第1回でも触れたが、小中学校の道徳が「特別の教科 道徳」(以下、「道徳科」)として教科化され、小学校では2018年度から、中学校では19年度から本格実施される。すでに、道徳科への移行に対応した一部改訂学習指導要領も公表され、今、教科書作成が大詰めを迎えつつある。私は来年度、大学で「道徳教育」の講義を担当することもあって、ここ数か月、道徳科のあり方について検討し、論文にまとめていた。

     道徳科では従来の道徳教育と同様、「思いやりの心」や父母や祖父母への「敬愛」といったことが扱われることとなっている。なるほど思いやりは大切だし、親や祖父母を敬うことも大切で、そうしたことができていない子どもが多くなるとまずいと、思われるだろうか。

     教育を考える上で、こうした一般化された議論は危険だ。例外はないのか、と問う必要がある。

    そう簡単ではない道徳教育の設計

     思いやりとは、相手が言わないことについても配慮することである。これまでの道徳副読本を見ても、車椅子に乗っている人や(つえ)をついている高齢者など、一見して困っていそうな人が描かれ、そうした人を助けるという話になっている。

     だが、車椅子に乗っている人や高齢者が具体的にどういうところで困るか、人による違いはどうかといったことは扱われない。そして、聴覚障害の人、病気等で体力が弱っている人、お(なか)の大きさの目立たない妊婦など、一見しただけでは困っていることがわからない人もいる。思いやりより、相手のニーズを知り、ニーズに合った支援の仕方を学ぶことが必要である。

     父母や祖父母への敬愛は、円満な家族像が前提になっている。児童虐待相談件数の増加を見れば明らかなように、父母や祖父母への敬愛などと言っていられない状況の家庭がある。そうした家庭の子どもが、「親を敬愛しなければ」と学ぶことは、新たな苦しみにつながる。敬愛を学ぶのであれば、家族から助けを求めることについても学ぶ必要がある。

     人々のモラルの低下が感じられると、道徳教育を充実せよという声高な議論が強くなる。だが、道徳教育の設計はそう簡単ではない。これまでの道徳教育がうまくいっていなかったとしても、それは教科外だったからでなく、うまく設計できていなかったからではないか。今後も、人々の多様さが無視され、ステレオタイプが強調されるだけの教育が展開されるとしたら、道徳科に未来はない。

     動いている教育の一瞬一瞬をとらえる「ゼノンの逆説」。古代哲学者ゼノンは、「飛んでいる矢は止まっている」と言ったとされる。このゼノンの逆説は、動的なものを細分化してとらえる微分の考え方につながり、現代の自然科学の基礎をなしている。

     ほとんどの人が学校教育を受けた経験を持ち、教育について自分の経験から何かを言いたくなる。ときにはそうした発言が声高な議論となる。

     だが、教育は逆説的だ。具体的な問題を突き詰めれば、最初とは異なる見え方が浮かび上がってくるはずである。

     声高な教育論に対して、反対の立場から声高な議論をぶつけてもあまり意味はない。声高な教育論に対しては、そこに疑問を投げかけるささやかな矢を放とう。具体的に緻密に実践を構築することによってのみ、逆説を解くことができるはずだ。

     

     藤川教授の新刊『スマホ時代の親たちへ』は、4月6日発売です。

     「ゼノンの逆説~教育の今を読む」は今回で終了いたします。ご愛読、ありがとうございました。 

    プロフィル
    藤川大祐( ふじかわ・だいすけ
    千葉大学教育学部教授・副学部長(教育方法学・授業実践開発)
     1965年、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学(教育学修士)。2010年より千葉大学教育学部教授。15年より同副学部長。メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業、企業との連携授業等、さまざまな分野の新しい授業づくりに取り組む。学級経営やいじめに関しても詳しい。文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員(2007年~)、NPO法人企業教育研究会理事長、NPO法人全国教室ディベート連盟理事長・関東甲信越支部長、日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)理事長等をつとめる。主な著書に、『12歳からのスマホのマナー入門』(大空出版、2014年)、『授業づくりエンタテインメント! ―メディアの手法を活かした15の冒険』(学事出版、同)、『スマホ・パソコン・SNS よく知ってネットを使おう! こどもあんぜん図鑑』(講談社、2015年)など。
    2016年03月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun