青山学院大の授業を受ける高校生たち

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教授の講義を高校生が独占
教授の講義を高校生が独占

 横須賀学院中学高等学校(神奈川県横須賀市)は、2016年度大学入試から青山学院大学・女子短大(以下、青学)への推薦入学枠を中高一貫生のみに適用するとともに、その枠を拡大(20人から30人)することになりました。

 2009年に締結した教育提携協定による青学との高大連携授業も5年目に突入。高校と大学のギャップを解消し、進路選択に役立つと評判です。

横須賀学院のためだけの「青学」

青学のシンボル・ガウチャー記念礼拝堂
青学のシンボル・ガウチャー記念礼拝堂

 高大連携授業とは、横須賀学院の生徒が、青学の全9学部、10講座を大学キャンパス(相模原キャンパス・青山キャンパス)で受講できる制度。高校1~2年生が対象で、9月から12月の土曜午後に実施している。

 教授、准教授の先生方が、各学科で実際に研究している内容を、高校生向けにわかりやすく説明してくれる。教室に大学生の姿はない。横須賀学院生のためだけに用意された講義なのだ。

 今回取材したのは、経営学部長であり大学院の経営学研究科長でもある田中正郎教授の講義。青学の経営学部は、文学部英米文学科(創設時は「英文科」)とならんで青学の源流のひとつとして100年近くにわたって青学の歴史を紡いできた。いわば看板学部である。

 そんな学部の長である教授の講義を聴けるとあって神妙な面持ちで席に座っている生徒に、田中教授は軽妙な関西弁で話し始めた。

 「今日は風邪をひいているから、覚悟しておいてね(笑)。大学生から感染した悪質な菌やから気をつけなあかんよ」。教室はドッと笑いに包まれ、フッと場が和んだ。

高校の授業と違う雰囲気

気さくな田中教授の講義はためになる!
気さくな田中教授の講義はためになる!

 講義のテーマは、「消費者行動とマーケティング活動」。いきなりハイレベル?と思いきや……田中教授は一人ひとりに話しかけるようにどんどん質問を始めた。

 「よい時計ってどんなん? 正しい時間を知ることができればいい時計なん?」「生まれた時にはコカコーラ知らないのに、何でみんな飲むの?」。

 回答が思いつかないのだろう。口ごもる生徒がいれば、側まで行って「何でもいいから言ってみ。正しいとか間違っているとかないから。どう思うか聞いているだけなんやから」と促す。

 さて、気になって仕方がないその答えは。田中教授は、精度が高くてもいくらでも安い時計がある一方、精度は劣っていてもブランドの派手な時計が高額で流通している状況を例に説明してくれた。

 「人間には“ほーれ、すごいだろう”って見せびらかしたい願望があるよね。そういった潜在的需要に働きかける部分に会社は経費を使ってるわけ。それがマーケティング活動というものなの」。

 我々が消費行動において、必要のないものにもお金を払っていることの理由のひとつを知り、生徒たちは感心した様子でうなずいた。

 講義を聴いた鈴木究武さん(高2)は、「経営学の本をただ読んでいるのとは全然違います。話が縦横無尽に広がってワクワクしました」と話す。

 確かに身近な題材を例にとりつつ、理論を教える田中教授の講義には引き込まれるものがあった。

 滝花乃さん(高2)は将来、企業の経営戦略に関わる夢を抱いて参加した。「経営学に興味を持ったキッカケは、家の近所のベーグル屋さんが閉店してしまったこと。それなのに、同じ場所で始めた花屋さんは続いている。それはなぜかを知りたくて」。とても問題意識が高い。

好きなことこそ役だつ

 さて、進路選択に役立てることが高大連携授業の目的のひとつ。実際のところ、「会社の経営戦略に貢献してみたい」と夢を描く高校生に対して、大学の経営学部はニーズに合致した授業を提供してくれるのだろうか?

 この点を田中教授に率直に質問してみた。「大学での専門教育を選択するのは難しいこと。でも、学問を修めることに喜びや楽しみを見いだせれば、どこの学校、どこの学部に行っても、将来、社会に出て役に立つ人になれると思うんです」。

 つまり、夢中になって勉強できそうな分野を選ぶのがいい、というお答え。たしかに「実益」だけで学部を選ぶのでは、可能性を狭めてしまうこともある。先ほどの滝さんのケースは、経営学部を選ぶ動機としてはバッチリだろう。

 この高大連携授業の優れているところは、日程さえあえば複数の講義を聴講できること。国際政治経済学部と経済学部のように分野の重なる講義はもちろん、文学部と理工学部という内容に隔たりの大きい講義に参加することもできる。まだ文系・理系のどちらに進むかも決まっていない生徒にとっては、またとないチャンスだ。

 横須賀学院の狙いもそこにある。高大連携授業の責任者で副校長の鎗田謙一先生は「漠然としたイメージで大学に進学し、ギャップの大きさにつまずいてはもったいない。この取り組みは、キャリア教育の最初の一歩と言えます。だから大事にしてあげたい」と話す。

推薦入学枠は中高一貫生のみ

 ここで、横須賀学院と青学がなぜ深いつながりを有するのかを簡単に説明したい。

 青学は、米国のメソジスト監督教会が日本に派遣した宣教師が創設した。キリスト教信仰にもとづく教育を目指している大学だ。横須賀学院は、その青山学院の横須賀分校として1947年に設けられ、その後独立した経緯がある。もとは一つだったのだ。

都心のオアシス的な青学のキャンパス
都心のオアシス的な青学のキャンパス

 そのように理念を共有していることが、青学が横須賀学院の生徒を受け入れることにつながっている。

 「横須賀学院の生徒には、キリスト教信仰の下地がある。他の多くの学生も彼らに感化され、キリスト教主義の大学で学ぶ意義に気が付くと思うんです。だから横須賀学院の生徒には、青学でキリスト教の精神を伝えるコアになってもらいたい」と、田中教授。

 こうした青学側のニーズに合わせて、横須賀学院は青学への推薦入学枠をキリスト教に触れる時間がより長い中高一貫生のみに適用する。

 青学への推薦枠は、大学25、女子短大5の計30人。現在、横須賀学院中学校の1学年の平均人数は約80人。条件さえ満たせば、ほぼ3人に1人がこの制度を利用することができる。

 青学への推薦条件は、青学側が提示する推薦基準と横須賀学院高等学校側の内部推薦基準の2種類を満たす必要がある。このうち、大学が提示する推薦基準の主なものには「高校在学中の評定値(学校の成績)平均が5段階中4.0以上」。横須賀学院側の基準としては、「学校の成績と同程度に模試の成績も重視する」「英検2級以上取得(文系学部)」「高大連携教育への参加」などがある。

「一歩リード」させてくれる教育

 横須賀学院には進路選択を考える学習機会として、「高大連携授業」のほかにも、「学術研究入門」(高校1年)、「学術研究演習」(高校2年)がある。

 昨年始まった「学術研究入門」では、教員からの一方的な座学の授業から離れ、調べ学習をベースにした発表やディベートの経験を生徒に積ませている。大学でのゼミ形式の授業に早い時期から慣れさせることが目的だ。

 この「学術研究入門」で身につけた学習方法を、各自が関心ある分野で発展させる場が「学術研究演習」。文学、人文、社会科学、自然科学の4分野に分かれ、自分でテーマを設定して研究を深めていく。今年からの取り組みで、文化祭での研究発表もあった。「日本人はなぜ英語の習得に苦しむか」「魔女はいかにして生まれたか」などといった興味深い研究も報告された。

 「大学で勉強した内容は社会で役にたたない」と言われた時代の「大学=レジャーランド」は、はるか昔のお話。自ら体系的に学び、問題解決を模索する学問的素養は、ビジネスの世界でも活用できる。人生の早い段階で、それを身につけさせてくれるのが横須賀学院の教育だと言えるだろう。

(文と写真:楢戸ひかる)

掲載日:2013年12月17日

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