生涯、音楽を楽しめる人に…吹奏楽部

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深い緑の中にある校舎。手前には陸上競技場も
深い緑の中にある校舎。手前には陸上競技場も

 玉川学園(東京都町田市)は60万平方メートルを超える緑豊かな敷地に、幼稚部から大学院まで備えた総合教育機関です。

 「全人教育」「本物に触れ、五感に訴える教育」を軸に据えた一貫教育で知られ、多彩なクラブ活動でも有名です。今回はその中から、中学部と高等部の吹奏楽部の活躍ぶりを紹介しましょう。高等部は今夏、「ウィーン国際青少年音楽祭」の吹奏楽部門で1位を獲得、中学部は昨年度の「全日本吹奏楽コンクール」で銀賞に輝きました。強さの秘密は何なのでしょう。

ウィーンフィルの本拠地で演奏~高等部

 玉川学園高等部の吹奏楽部は今年7月7日、オーストリアの首都ウィーンにある楽友協会大ホールで行われた「ウィーン国際青少年音楽祭・吹奏楽部門」のコンクールに出場した。楽友協会ホールはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地であり、ニューイヤーコンサートが行われることでも有名な場所である。

 46人の吹奏楽部員は、伊藤康英作曲「吹奏楽のための交響詩『ぐるりよざ』」より第1楽章「祈り(Oratio)」を演奏し、世界各国から参加した青少年吹奏楽団などを抑え、栄えある第1位を受賞した。

ウィーンのコンサートで演奏
ウィーンのコンサートで演奏

 音楽の都ウィーンでの演奏。しかも、世界の音楽ファンがあこがれる“聖地”で栄誉をつかむことができたのはなぜだろうか? 高等部の吹奏楽部顧問で、当日タクトを振った長谷部啓先生にお話を伺った。

各国代表を抑え、第1位に

長谷部啓先生
長谷部啓先生

――コンクールに応募した理由をお聞かせください。

 生徒たちに海外でも音楽演奏の機会を与えたいと考え、高等部では4年に1度ぐらいの割合で海外遠征を行っています。今回、遠征先を「ウィーン国際青少年音楽祭」にしたのは、コンクールの会場が世界的に有名な楽友協会ホールだったこと、審査員やマネージメントの方々がしっかりしていること、さらに、出場すればウィーン近郊で演奏会をする機会を主催者側が設けてくれること……などがありました。実際には、入賞者ガラ・コンサートを含め3回、現地で演奏することができました。

――審査はどのように行われたのでしょうか?

 まず世界中の国々から、参加を希望する団体が、DVDやCDで応募します。その審査に通った4団体が吹奏楽部門のコンクールに出場することになりました。当日はシンガポールの大学、イスラエルの青少年吹奏楽団、中国の高校と競い合い、第1位を獲得しました。

――生徒のみなさんはどんな様子でしたか。

 コンクールでの持ち時間は25分。「あっという間だった!」という印象を持ちつつも、生徒たちは会場の様子を観察したり、ホールに響く自分たちの音を感じたりしていたようですね。あちらでは、お互いの良いところをほめ合う風土があるのですが、日本との音楽環境の違いなども感じながら、気持ち良く演奏できた、と言っていました。

作曲者自身の指導で「演奏が変わった」

――コンクール以外には、現地でどんなことがあったのでしょう?

 もう一つの大きな収穫は、ウィーン国立音楽大学でのワークショップに参加できたことです。コンクールの審査委員長を務めたトーマス・ドスという作曲家の方が主宰するワークショップで、氏が作曲した『セント・フローリアン・コラール』を演奏しました。合奏のレッスンでは、曲の場面ごとにその背景や解釈について、作曲者自身が指揮棒と自分の声で表現してくれました。通訳も用意しましたが、途中からそんなものはいらない感じになりましたね。

賞状は、参加した生徒全員に1枚ずつ配られた
賞状は、参加した生徒全員に1枚ずつ配られた

 1時間ちょっとのレッスンでしたが、ワークショップを受けた後の演奏は、同じメンバーとは思えないほど変わっていました。演奏が変わったということは、生徒たちが指揮者の意図をきちんと受け取れたということです。とても褒めていただけましたし、生徒にとっては、音楽をとらえる上でも良い財産になったと思っています。

 中学部の吹奏楽部も、昨年度の「全日本吹奏楽コンクール中学校の部」で銀賞を獲得するなど、活発な活動を展開している。全国大会に行く吹奏楽部の練習とは、どんなものなのだろうか? 玉川学園のめざす「全人教育」との関係なども含め、同部顧問の土屋和彦先生にじっくりお話を伺った。

“最短”の練習時間で全国大会へ~中学部

土屋和彦先生
土屋和彦先生

――全国大会に進むためにどんな練習をされているのか、関心があるのですが。

 まず知っていただきたいのは、全国大会出場した29校の中で、私立は玉川学園だけということです。中学の場合、私立は通学時間が長いことが多いですから練習時間を確保しにくく、なかなか全国大会まで勝ち抜けないというのが現状なのです。

 高校の場合は、受験の際、部活動中心の選択もあるかと思いますが、中学校の場合は「吹奏楽部で全国大会に行きたいから」という理由で学校を選ぶのはレアケースです。

吹奏楽部の練習風景:オーボエとファゴット
吹奏楽部の練習風景:オーボエとファゴット

――全国大会出場校でもそうなんですか。

 そういう理由で玉川を選んだ子も、何人かはいます。でも、大多数の受験生、保護者の方々は、教育理念やカリキュラム、大学進学実績といったことに着目されます。

――つまりは学習面に注目している、と?

 もちろんです。基本は学習ですよね。全国大会に出場するために生徒を集めたりすることもしませんし、クラブ活動は、あくまで日々の教育活動の一環です。

――にもかかわらず、全国大会に出場できているわけですね。ふだん、どんな練習をしているのでしょう?

 平日は週4日、1時間~1時間半程度で、週末は土・日どちらか1日で9時~4時です。おそらく練習量は、全国大会に出場した29校中、一番少ないんじゃないでしょうか。

「歌に始まり、歌に終わる」

――その練習量で、全国大会に行けるクオリティーに仕上げているのですね。何か秘密があるのですか。

 一番の理由は、学校生活の中で歌を歌う機会が多いことだと思います。礼拝、朝会などで歌う校歌が混声4部合唱ですから。歌えるか、歌えないかというのは、楽器の場合も大切です。正しい音程で歌えない子は、正しい音では吹けませんから。

――どうして歌を歌う機会が多いのでしょう?

 「全人教育」の実践ということですね。学力の修得だけではなく、全てのことがバランス良くできる人になってもらいたいということで、「音楽」「美術」「労作」「自由研究」「体育」「礼拝」といった教育活動をとても大切にしているのです。

――音楽の授業が多いのですか。

 公立の中学校と同じです。ただ、毎週ある礼拝で賛美歌を、教室で行う朝会では校歌を歌います。また節目となる行事でも必ず歌を歌います。それから、全ての教室にアップライトですがピアノがありますので、生徒たちは気軽に弾くことができます。「歌に始まり、歌に終わる」と言われるほど、歌や音楽が日常生活の中に溶け込んでいるのです。

「本物を見せる、聞かせる」教育はこれに尽きる

吹奏楽部の練習風景:パーカッションやハープ
吹奏楽部の練習風景:パーカッションやハープ

――ベーシックな音楽環境が高いレベルにあるのですね。他に要因は?

 練習プログラムでは、個人を育てるように工夫をしています。全体を上手にするためには、個人技を上げないとしょうがないですからね。

――「個人を育てる」という考え方は、玉川学園の校風でもあるのでしょうか。

 全体のために個人がいるのではなく、一人ひとりが育った結果、全体がある。それが玉川の教育理念です。月並みな言い方かもしれませんが、個性尊重。それは、昔からの校風で、今も変わりません。

――個人練習ではどんなことを?

 教則本、エチュードですね。それから強制はしていませんが、意欲のある子は独奏のコンクールに出場したりもします。昨年度は中2の男の子が、トロンボーン部門で日本一になりました。そういう子が出ると、周囲の子にも良い刺激になります。

――指導はどなたが担当しているのですか。

 玉川大学の芸術学部の先生のほか、卒業生や私の知り合いのプロが教えに来てくれます。各楽器に外部の指導者がいるんです。こういったことは、割とどこの学校でもやっていることで、特別なことではないと思いますが、玉川学園の場合、外来指導者を呼ぶ場合も、費用が学校予算に組み込まれているので、別に部費を取るということはありません。これは吹奏楽部だけではなく、運動部もそうですね。顧問の先生を補う形で、外来指導者を呼ぶということが学校の中のシステムとして確立されているのです。

 たとえば、僕は金管楽器が専門なので、他の楽器については、実際に良い音を出してお手本を示すことができませんからね。だから専門の先生に演奏をお願いして、生徒には本物の音を聞かせてあげるのです。

――それは玉川学園の教育理念のひとつである「本物に触れ、五感に訴える」という考え方から発しているのでしょうか。

 教育は、本物を見せる、本物を聞かせる。それに尽きると思います。

全人教育の一環としての音楽教育

――もっとガシガシ練習しているのかと思っていました。

 のんびり、普通です、普通(笑)。

――ひとりひとりがリラックスして、活動しているのでしょうね。

各教室にあるピアノ
各教室にあるピアノ

 習い事は行っていいということになっているので、練習を休んで行く子もいます。また「宿題が終わるまで土日の練習は来てはいけない」という規則を作っているので、反対にいえば「宿題が終わらないから休みます」ということが言える状況にはしています。

――「クラブに行かなければいけない!」みたいな圧迫感もなさそうですね。

 「行かないと怒られる」とかは、ないんじゃないかな。「行きたいと思っているから来る」というふうにしなきゃいけないと思っているので。

――そのために、どんな工夫をされているでしょうか。

 「練習は楽しく!」ですね。「9」褒めて、「1」アドバイス。褒める時は、大げさに褒める(笑)。自分ができていない場合は、本人が一番わかっていますから。

――「できない部分を管理しよう」といった感じもありませんね。

 こういうやり方は、効率が悪いかもしれません。子どもたちは私の目の届かないところで遊んでいることも多々あると思うんです(笑)。でも、「全国大会に行って、はい終わり。さようなら」という訳ではないですから。

――全人教育の一環としての「音楽教育」ですものね?

 そうです。楽譜が読めて、正しい奏法を身につけて、自分で生涯、音楽を楽しんでいける。中学校での音楽教育は、そういう基礎力をつける時期だと思っているんです。だからコンクールに向けても、過度な練習や無意味な精神論は必要ないと考えています。

一人ひとりの個性をのばしたい

――そんな指導方法が実行できている理由は何だとお考えですか。

 結局、無理に練習や勉強をさせても、型にはまったものしか出来上がりません。音楽はその最たるもので、部の決まりや躾が厳しければ厳しいほど、固まった音楽になります。子どもたちが自主的にやっているクラブほど、音楽に柔軟性があります。

――音楽は表現であるということなのでしょうか。

 自分の物の考え方や伝えたいメッセージを音に託しているのが音楽です。いろんな思いがあって、吹き方だって個人によって多少は違うでしょう。最終的な方向性を決めるのは指揮者ですが、最初から「こうしなさい」「こうあるべき」と決めてしまうものではないと思うのです。

――玉川学園の教育理念が、部活動を通じて伝わってきます。

ユーホニウム:先生とマンツーマンの個人レッスン
ユーホニウム:先生とマンツーマンの個人レッスン

 玉川学園の創立者、小原國芳は、人間を「生まれながらにして唯一無二の個性を持ちつつも、万人共通の世界をも有する存在である」と定義しました。その理念は、今でも脈々と息づいています。最初に高校が全国大会に行くことが決まった時、小原先生が「神様に聞いていただける音楽を奏でておいで」とおっしゃったそうです。「全国大会で金賞をとってきなさい」とはおっしゃらなかった。

 コンクールの演奏といっても、ミスがあるとか、ないとかではなくて、どれだけ人を動かせる、人に伝えられる演奏ができるかというのが大事だと思うんです。そのためには、その子なりの100点満点、100%を目指せばいいんじゃないかと考えています。

(文と写真:楢戸ひかる、写真は一部、玉川学園提供)

掲載日:2013年8月22日

404686 0 玉川学園中学部 2013/08/22 18:59:00 2013/08/22 18:59:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20140408-OYT8I50190-T.jpg?type=thumbnail

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