APUの出口学長 中等教育を語る…中学受験サポートセミナー

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 中学受験サポートの第12回セミナーが2月20日、読売新聞東京本社(東京・大手町)で開催され、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長が「国際化と日本の中等教育について」と題して講演した。会員校など50団体から85人が参加し、講演後も活発な質疑応答が行われた。

「タテヨコ算数」で世界を知る

詰めかけた会員校の教員たちに少子高齢化の現状を話す出口学長
詰めかけた会員校の教員たちに少子高齢化の現状を話す出口学長

 午後5時過ぎ、教員らが詰めかけた読売新聞本社3階のセミナー会場に出口学長が姿を現した。パワーポイントが会場正面スクリーンに映し出されると、「スティーブ・ジョブズを育てよう」の文字が浮かび上がった。

 「きょうのテーマから、まず『国際化』について申します。近代の高度な産業社会の3要素は、化石燃料と鉄鉱石とゴムです。この3要素を持つ国は自国ファーストでやっていけますが、何も持たない日本のような国は自由な交易によってこそ豊かさを実現できます。国際化はマストであり、今の生活を維持するための前提条件です」と、出口学長は切り出した。

 出口学長は日本の国際化の必然性を強調したうえで、どうすれば世界情勢の認識や、国際的な共通理解を可能にするかについて、まず持論の「タテヨコ算数」という方法論を説明し始めた。

 「タテは歴史のことです。人間の脳はこの1万年、まったく進化していない。ということは、昔も今も喜怒哀楽や経営判断は同じということです。次にヨコです。人類はホモサピエンスという単一種ですから、世界の人がどう考えているのかも非常に大事です。たとえば、夫婦別姓の問題についても、源頼朝の妻は北条政子だったこと、OECD35か国の中で法律婚の条件で同姓を強要している国は日本以外皆無であること。このタテヨコのファクトを見るだけで、『夫婦別姓は日本の伝統ではない』とか『家族を壊す』とか言うのは、思い込みやイデオロギーだということが分かります」

世界の富の変動を表す「象のチャート」
世界の富の変動を表す「象のチャート」

 次に「タテヨコ」に並ぶ方法として「算数」を説明。「かっこよくいうと、『エピソードよりエビデンス』ということです」。スクリーンには、世界約120か国を対象に調査した個人所得を、「実質所得の伸び率」と「所得分布」とを縦横の軸として座標化したグラフが映し出された。線の形から「象のチャート」と呼ばれている。

 ここからアメリカの労働者階層が、実質所得の伸びがもっとも低い「先進国の中間層にあたる」ことが読み取れる。さらに、閉塞感を打破したいという彼らの怒りが、トランプ大統領の誕生につながったという読み方を紹介した。

 「トランプ現象も『算数』で説明できるんです。世の中を見るためには『タテヨコ算数』が何よりも大事だということです」

 さらに、少子高齢化問題について「社会が行うべき政策は定年の廃止しかありません」と持論を展開したり、フランスのケースを引いて少子化や待機児童問題の解決事例を示したりして、「タテヨコ算数」の有効性を強調した。

スティーブ・ジョブズのような人材育成を

 方法論の説明が済むと出口学長は、本題の「日本の中等教育」へと話の軸を移した。

 まず、日本の国際競争力のグラフから、1991年に世界1位だった国際競争力が2017年には26位まで下がっている事実を示し、「製造業の工場モデルが社会を引っ張っていたときは、力が強い男性の長時間労働が社会に合っていた。しかし、今や製造業のウェートは4分の1を切っています。サービス産業は生産設備がないのでアイデアを出す以外、経済は成長しないんです」と現状を分析してみせた。

 こうした産業構造の変化を指摘したうえで、「スティーブ・ジョブズをテレビ工場の生産ラインの前に立たせたらどうなりますか。ラインは即刻止まりますよ。きっとジョブズは腕を組んで考え出します。これからはアイデア勝負になります。ということは、とがった人間を作らなければいけない。グローバル基準で、『人間は全部違うんだから意見や考えが違っても当たり前』という人を育てていかなければ、日本経済は先行きがありません」として、スティーブ・ジョブズに象徴されるような人材育成の必要性を訴えた。

 こうした人材の育成を可能にする「新しい時代の教育」について、出口学長は「個性を生かすということは『小さい丸より大きい三角』です」と説明した。

 「人間はみんな、三角形とか四角形でとがっているんですよ。そこで、円満な人にしようと思って角を削ったらどうなるか。大きい三角形が小さい円になっていく。削られて喜ぶ人はいませんから、エネルギーは消えてしまいます。やっぱり、これからはとがったところを大事に育てていくことが大事です。長所を伸ばせば短所も伸びる。短所をなくせば長所もなくなる。世界の第一線の教育者に共通している見解です。個性を伸ばすことが何よりも大事です」

世界に学ぶ気持ちを忘れたら衰退しかない

ユニークな持論を熱く語る出口学長
ユニークな持論を熱く語る出口学長

 また、「新しい教育」を可能にするためには、高度経済成長期の成功体験を捨て、世界の先進国で何が行われているかを学ぶことの重要性を強調した。

 「今年は明治維新150年です。当時の岩倉視察団はほんとうにすごいと思う。革命をやって国がまだ固まってない一番大事なときに、総理大臣を含めて大臣の過半が、1年以上国を空けて勉強に行った。これほど虚心坦懐(たんかい)に学んだからこそ、明治の国家は立派に立ち上がったんでしょう。世界のどの国の歴史を見ても、学ぶという気持ちを忘れたら衰退しかない。世界各国から学ぶという気持ちが()せた国家は全部、衰退していきます。それがこれからの教育です」

 その後、学校広報担当者の参加も多かったことから、広報のあり方についても触れ、「正直に物事を伝えるということが一番大事」と留意点を話した。このことに関しても、パリで開かれたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)を例に取り、温暖化ガス排出抑制に消極的だった発展途上国を合意させたのは、最先端のコンピューターを使っても気候を読むことはできない、分からないものは怖い、という正直な説明だったという例を紹介し、話に厚みを加えた。

 さらに、もう一度、「教育の目的」というテーマに立ち返り、出口学長自身が尊敬する人物の言葉を引いて、「自分の頭で考え、自分の言葉で、自分の考えたことをきちんと説明できること。全世界の人は、この唯一の目的のために一生、勉強を続けるんです」と話した。また、APUの学長として「大学とは何か」という問いを自ら見つめ、「入学随時、受講随時、卒業随時」という、10世紀のカイロで設立されたアズハル大学の3信条を紹介して、これを理想としていることを話した。

 最後に「本当に教育は日本の未来そのものですから、皆さんがこういう場でいろいろと情報交換して、より良い教育を作っていくというのは素晴らしいことだと思います。ぜひ頑張ってください。ご清聴ありがとうございます」と講演を締め括ると、会場から大きな拍手が沸いた。

 講演後の質疑応答では、「個性を磨いて、とがった方向に進んでいくことについて中高生は不安があると思うが」「スティーブ・ジョブズのような人の能力、資質を測るために入試改革はどうあるべきか」「定年制を止めると社会が大きく変わるとのお話ですが、実感がついていきません」「日本らしさ、日本の文化とはどういうものでしょう」など、さまざまな質問が寄せられ、出口学長はそれぞれに真剣に回答していた。

 セミナーの後、会場を移しての懇親会の場でも、出席者らが出口会長らを囲んで教育をめぐる話に花を咲かせた。

 (写真と文:中学受験サポート)

無断転載禁止
9561 0 トピックス 2018/03/01 05:20:00 2018/03/01 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180228-OYT8I50027-1.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

東日本 共学校ページTOP

── 女子校ページTOP

おすすめ記事

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ