参加した教員らの質問に答えて…出口治明APU学長<6>

無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「実例がすべてだと思います」

質疑応答で質問や発言を促す出口学長
質疑応答で質問や発言を促す出口学長

 Q.今、若い子たちが社会に出ていくのに、就活時の学歴フィルターや過労死の問題など、いろいろと情報があるので、このまま個性を磨いて、とがった方向に進んでいいのか、という不安があると思います。そうした中高生にヒントをいただきたい。


 A.一番いいのは、メディアに、がんがん世界の高校生や中学生のレポートを書いてもらうことでしょうね。人間は、世界中でみんなはこうやっているんだ、ということが分かれば怖くなくなるんですけれど、みんながやっていないことは怖いんですよね。だから、そういう意味では、いろんな実例、ロールモデルを世界中から探してくることが一番いいと思います。今の日本を見ていると、いい大学に入り、いい大会社に入ったら、本当に人生が楽しいのかどうか。みんな疑い始めているじゃないですか。だから、広い世界にはいろいろな選択肢があるんだということを提示していくのは、大人の義務のような気がします。実例がすべてだと思います。

「考えを組み立てる能力を見る」

 Q.お話の中でスティーブ・ジョブズのような人を目指してほしいと話されていました。近年、入試改革が進んできていますが、スティーブ・ジョブズのような人が持つ能力、または資質を測るような入試について、どう改革されていくべきか考えを聞かせてください。


 A.僕が10年間経営していたライフネット生命で、新卒の採用をどうしていたかということをお話しすれば分かりやすいと思います。非常に簡単で、30歳未満を新卒と定義して、字数無制限の論文を書いてもらうだけです。家でゆっくり書いてもらう。その代わり、難しい問題を出します。字数無制限ということは何字書いたらいいかということも含めて自分で考えるわけです。考える力が何よりも大事なので、自分でいろいろなデータを引いてきて自分で考えを組み立てる能力があるかどうかということを見ていました。

 こういう見方は世界共通です。特にGoogleなどは徹底的にそれを見ます。どんな個性があるんだろうかと。東大の大学院の博士課程を修了してきても10人に1人くらいしか取らないよとか、豪語している企業ですからね。本当にユニークな独創性を持っている人を採りたいということです。

 ただ、これはよく考えると昔も同じです。中国で諸子百家の時代に、いろんな食客を囲っていた孟嘗君(もうしょうくん)という人物がいて、敵国から脱出する途中、関所の門が閉まっていた。夜が明けないと門が開かない。追手が迫ってくる。すると食客の中で私に任せてくださいと、鶏の鳴き真似が何よりも得意な人が「コケコッコー」と鳴き真似(まね)すると、鶏たちがつられて一斉に鳴いた。夜が明けたと思った門番が門を開けたので、無事に逃げることができたという有名な話があります。昔からいろんな個性、一芸に秀でた人をたくさん抱えておけば物事に対応できるということを人間は知っていたわけです。ですから、ジョブズのような人物を求めるというのは、今に始まったわけではなく、2500年前の中国の戦国時代に、すでにその発想があったということです。

「ショック療法で社会もどんどん変わる」

 Q.定年制をやめて社会が大きく変わっていくんではないかというお話を聞いたときに、私立校の教員として、まったく身近なものとして感じられませんでした。私学という小さな企業体の中で、大学なり大学院を出て以来、年功序列で給与は上がっていくという形や定年制が常に頭にあるのですが。


 A.どんな改革であっても、変えるということは今までの社会になじんできた人にはショックですよね。アメリカの大学では80歳を超えた人が教鞭(きょうべん)を執っています。すると、定年制をやめてしまったら高齢の教授ばかりになって、准教授とか専任講師がいなくなってしまうんじゃないかという誤解をする人が多い。アメリカの大学は極論すれば講義単位で生徒が先生を採点します。面白くない講義をする先生は40代の働き盛りでも即刻、首が切られます。ということは年功の考えが一切ない。プロ野球などと同じで頑張ればいつまでも仕事ができるんです。やっぱり、こういう社会を目指さなければいけない。もちろん、一朝一夕にはできないので、少しずつやっていかなければいけないとは思いますが、たぶん定年制廃止のようなドラスティックなことをやれば、ショック療法で社会もどんどん変わっていく気がします。

 よく考えてみれば、これはプロ野球と同じです。4番を打っていても、打てなくなったら変わっていくのは当たり前の世界。おそらく定年制を廃止すれば労働の流動化はもっと進むと思います。労働の流動化がもっと進めば、受け皿ももっと増えてくるでしょう。

「日本人らしさなどというものはない」

質問者の声に耳を傾ける出口学長
質問者の声に耳を傾ける出口学長

 Q.田舎で昔ながらの教育を受けて、今までこの国で五十数年生きて、長いこと教師としてそういうベースの下に子供たちをずっと育ててきました。非常に曖昧ですけれど、そういう日本の実態がどういうものなのか。日本人らしさとか、日本の文化とか、日本人の生き方とか美しさとか、そういうものって一体、実はなんなのだろうと、お話を伺ってますますグラグラしています。


 A.極論すれば、日本人らしさなどというものはどこにもないと考えたほうがいいと思います。これは次のように考えれば分かりやすいと思うのですが、みなさんに明日、可愛い赤ちゃんが生まれたと考えてください。あさってにはワシントンに養子に出します。10年後に再会したら、その赤ちゃんは何人ですか。アメリカ人でしょう。これも学者の間では共通見解になっていますけれど、人間の意識は育った社会を映す鏡に過ぎないのです。

 日本人はこういうものだとかいう人がいるんですが、僕はそういう人には日本人の定義をしてくださいと言います。日本という国号はいつできましたか。これは確か、歴史上では701年の遣唐使が最初です。それまでは日本という国号はなかった。以後1300年の歴史があります。一番面白いのはたぶん室町時代だと思います。室町時代の日本人というのはたとえばバサラ大名が典型ですよね。ロックンローラーのような人が日本人の理想だった。今の日本人とはまったく違いますよね。だから今、僕たちが漠然と日本人と考えているのは、その90%以上が戦後の製造業の工場モデルの中で作られてきた日本人のイメージを、日本人と仮定しているだけだと思います。

 常識だと思いますが、議論にはグローバルなルールがあります。相互に検証可能なデータを用いて、出所をオープンにし、ロジカルに議論していかなければ、あとは好き嫌いの話になってしまう。だから、「これは日本の文化なんだ」と言った時点で対話を拒否することになりますよね。議論するときには「日本人だから」とか「日本の文化」とかいう言葉は使わないほうがいいのです。

 有名な話があります。ティーセレモニー(茶会)に呼ばれた外国人が、「どうしてお茶を飲むときにお茶碗を回すのか」と聞いた。これに対して「これが日本の茶道の伝統だ」と答えた。分かるはずがないですよね。トートロジー(同義語反復)ですから。それで、別の人がこう答えたそうです。たぶん、間違えていると思うんですが、「ティーセレモニーのゲストは本当はホストで、お茶をいれている人が一番大事なんだ。だからその人にお茶碗のきれいなところを見せるために回すんだ」と言ったら、その外国人は、「それなら理解できる」と納得した。

 分かりますよね。「日本の伝統だ」「文化だ」と言った瞬間に、対話は止まるんです。だから若い学生に教えるべきなのは、議論をするときは、そういった議論をストップしてしまうような抽象的な概念は使わないで、お互いに率直な意見を出し合うことが大事だということですよね。有名な「江戸しぐさ」というデタラメがあります。あれは江戸時代にはまったく使われていなくて、平成しぐさであることが、ほぼ100%証明されています。勉強とか教育とか学問というのは、相互に検証可能なデータを全部、机の上に出して、ロジカルに議論をしなければ、お互いの意思疎通はできない。これが世界共通の考え方だと思います。

「等身大以上のことは広報できない」

 Q.私は企業から出向して中公一貫校の広報を担当しています。先ほど広報を行う際の留意点、あるいは先進国のリーダーに必須の条件として、正直であることというお話を聞きました。当然、正直であることは重要だし、嘘をつくことはありえないと思いつつも、私立学校同士の競争の中で広報を担当していると、どうしても少し膨らませた言い方をしてしまうなど、ありのまま正直に伝えきれないという葛藤があります。


 A.僕の聞いた話ですが、やっぱり、新聞記者はプロですから、上手に書いてもらおうとか、いい格好をしようとかいう広報はすぐに分かると言います。確かにどんな組織であっても人間の気持ちとしては、よく書いてほしいですよね。でも、お互いにプロの世界なので、だいたい分かってしまう。よく書いてもらおうと思って格好いいことを言っても、記事に取り上げられる確率は結果的にものすごく少ないと思うのです。

 ですから、当たり前ですけれど、等身大以上のことは広報できないと考えたほうがいいのです。仮に一瞬できたとしてもずっと背伸びしているのは辛いでしょう。爪先立ちは、いつまでも続けられないので、結局、等身大に戻ってしまう。上手に広報するよりも、むしろ中身をどのようによくするか。等身大を大きくすれば記事の扱いも大きくなるのですから、そっちに注力するほうがはるかに有効だと思います。

(終わり、構成・写真:中学受験サポート、資料提供:立命館アジア太平洋大学)

13482 0 トピックス 2018/04/24 05:20:00 2018/04/24 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180315-OYT8I50019-1.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

共学校ページTOP

女子校ページTOP

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ