中3の卒業研究 戸惑うほど自由なテーマ選び…明星学園

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 明星学園中学校・高等学校(東京都三鷹市)は「教養・自己表現・社会性」を身につけ、主体的・創造的な人間を育成することを教育理念に掲げている。それを具体化している取り組みが、中3生全員が1年がかりでまとめる卒業研究と発表だ。生徒たちが思い思いに選ぶテーマや研究手法は、思わず戸惑うほど自由で大胆。実際、どんなテーマをどのように調べ上げ、論文発表まで仕上げていくのかを紹介する。

「卒論」は生徒が個性を表現する場

卒業研究について話す堀内雅人教諭
卒業研究について話す堀内雅人教諭

 同校は1996年から、中学校3年間のまとめとしての卒業研究を始めた。この試みを呼びかけた中学校副校長の堀内雅人教諭は当時をこう振り返った。

「明星の生徒は昔から個性的な子が多いんですが、自分と価値観の違う人たちの間で自信が持てず、殻に閉じこもってしまう生徒も少なからずいた。彼らの個性は、既存の教科の授業の中だけでは生かされないのではと感じていたんです。生徒たちに自分の個性を表現する場を与えれば、きっと自信につながる。そう考えました」

 そこで、生徒一人一人が好きなテーマで卒業論文を書き、発表するという取り組みを学校に提案したという。「最初は、中学生に論文なんて書けないと反対する先生もいました。でも大切なのは、それが論文と呼べるか否かではなく、好きなことを探究し、他人の前で相手に伝わるように考えを発表することなんですね。最初は代表の生徒だけが発表していましたが、やはり全員に自分を表現する場を経験してほしいという思いで、2011年から全生徒が発表する今の形になりました」

 3年生は、ゴールデンウィークくらいまでに自分の興味や関心のあるテーマを決める。テーマに応じて、それぞれの生徒の担当教員を決める。学年担任だけでなく校長をはじめ中学校の全教員が関わって、きめ細かく指導していく。1月の卒業研究発表会に向けて2学期中に研究内容を論文としてまとめ、発表用の資料をパワーポイントで作成する。

 発表会は2日間。1日目は、1、2年生向けの発表だ。下級生の感想やコメントが彼らに力を与えてくれるという。2日目は、学外から見学に来る保護者や卒業生、同校を志望する小学生の親に向けて発表する。自薦か先生が推薦した10人ほどの生徒はホールで、その他の生徒は八つの教室に分かれて、それぞれスライドを使い、研究成果をプレゼンテーションする。

興味の対象見つけ、人に伝えるだいご味

研究結果のプレゼンテーション
研究結果のプレゼンテーション

 昨年、研究発表を行った3人の高1生に、それぞれの卒業研究について話を聞いた。

 山口りり子さんが選んだテーマは「天才バカボンの真に迫る」。赤塚不二夫さんのギャグ漫画「天才バカボン」がテーマだ。担任の先生が大のファンだったことが興味をもったきっかけだった。「ハチャメチャでブラックな面もあるこの漫画が、高く評価されている理由を知りたいと思いました」

 作品はもちろん、赤塚不二夫さんの娘の著書も読んだ。山口さんは「バカボンのパパはとても前向き。作品の面白さや魅力だけでなく、いろんな物の見方や考え方があるということを伝えたいと思いました。発表の後、バカボンの印象が変わったと友達から言われ、達成感がありました」と話した。

 もともと動物が好きだったという神原楓乃さんは「バイオロギングが動物の生態の解明にどう役立っているのか」というテーマを選んだ。バイオロギングとは、生物にカメラやセンサーを取り付けて、得られたデータから自然環境の中での生態や行動を研究する方法だ。

卒業研究を紹介する山口さん、神原さん、川路さん
卒業研究を紹介する山口さん、神原さん、川路さん

 「先生に紹介してもらい国立極地研究所(東京・立川市)に話を聞きに行きました。専門的な分野なので、図をたくさん入れるなど、わかりやすく伝わるように工夫しました。質疑応答ではいろんな質問があり、興味をもってもらえたことがとてもうれしかった」と神原さん。「もともと人前で話すのが苦手でしたが、多くの人に考えを伝えられたという経験は、将来役に立つのではと思います」

 川路友喜さんは、祖父母から聞いた戦争体験から「戦争が奪ってしまうもの、変えてしまうこと」を研究した。国際交流の活動をしているNGOを通じて、アメリカ人の高齢者を紹介してもらい、メールでインタビューした。また夏休みを利用して、ハワイのパールハーバーや広島に足を運び、日本人の戦争体験者に話を聞いた。川路さんは、「アメリカと日本の両方の視点から客観的にまとめることを意識しました。『知らない、関係ない』ではなく、過去を知って今を考えるきっかけになるような発表にしたかった。体験を聞かせてもらった日本の方が発表を見に来て、『自分が話したことをこういうふうに広めてくれてうれしい』と言ってくれたことが、心に残っています」と話した。

 堀内教諭は、「卒業研究で一番大事なのは、テーマを自分で決めること」と強調する。「以前、なぜマージャンは学校でやってはいけないのか、という疑問を研究テーマにした生徒がいました。もともと貴族の遊びだったという説や、頭をすごく使うことなど、マージャンの魅力を発表したんです。こんなことをテーマにしていいのかと思うものでも、自分が好きなことや興味のあることを価値観の違う他者に、いかにその魅力を伝えるか。そこが面白いと思うんです」

 「今、何に興味があるのか、何を伝えたいのかを見つけ、それを問いの形にすること。常識や先入観の前で思考停止にならず、深く追究していくと、いつのまにか本当の『学問』の入り口に立っているんですね。それをサポートするのが教員の役割だと思っています。数年後、大学に進学した卒業生に話を聞くと、卒研がきっかけで自分の進路を考えるようになった生徒は思いのほか多いんですよ」

研究通して社会とのつながりを実感

これまでの卒業論文集
これまでの卒業論文集

 生徒は研究の過程で、調べ学習だけでなく、必要であれば実験やインタビューも行う。その際に強力な助っ人となるのが、多くの保護者が登録する「保護者ボランティア」の存在だ。中には大学の先生や研究者、小説家や漫画家など、さまざまな職業の保護者や卒業生がいる。生徒は彼らのネットワークで、取材先を紹介してもらったり、研究所を訪問したりし、自分の研究に必要な見識を広げることができる。さらに、学校の外でこうしたフィールドワークを行うことで、社会とのつながりを実感できるのだという。

 「例えば、スプレーなどで壁に描かれるグラフィティアートの研究をした生徒は、東京・吉祥寺のハモニカ横丁の店のシャッターに実際に絵を描かせてもらったんですね。ボランティアの方にご協力いただき、企画から店への交渉、段取りまで行う中で、社会とつながることの大切さを体感したと思います」と堀内教諭は話す。研究を通して生徒に学んでほしいことを聞くと、「生徒にはたくさん疑問を持ってほしいですね。ただの不平不満ではなく、もっと良くするにはどうしたらいいのか、何かいい方法はないのか探っていく中で、専門家に出会い、学問の奥深さをのぞくことができます。不十分でも、現時点での自分の考えを形にすることが大切だと考えています」と語ってくれた。

 同校は、生徒の目指すべき人間像を「未来に夢と希望を持ち、主体的・創造的に力強く生きる人間」としている。そのために「教養・自己表現・社会性」という三つの力を身につけることが重要だという。関心のあることを深く調べ、発表を通して自己を表現し、その過程で社会とのつながりを体感する。同校の教育の理想は、卒業研究の取り組みの中でしっかり実を結んでいるようだ。

(文と写真:石井りえ 一部写真提供:明星学園中学校・高等学校)

無断転載禁止
203074 0 明星学園中学校・高等学校 2017/08/08 15:00:00 2017/08/08 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20170804-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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