DNA鑑定実験で科学的リテラシーを磨け…浦和明の星

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 浦和明の星女子中学・高等学校(さいたま市)は高校3年生の選択科目「選択生物(4単位)」の授業で「DNA鑑定実験」を行っている。同校は、中学1年生から科学的リテラシーの養成を目的に、実験、観察など体験を重視した理科教育に取り組んでおり、中でも「DNA鑑定実験」は倫理観の醸成までも目的とした実験だという。「リケジョ」の卵たちの実験風景をリポートする。

「事件です」犯人をDNA鑑定で特定せよ

――高校の生物実験室で朝、T先生が血を流して倒れているのが見つかった。傷害事件だ。現場に凶器はなかったが、犯人らしい人物の血痕もある。警察の捜査で5人の容疑者が浮かんだが犯人を絞りきれない。そこで、DNA鑑定を行うことになり、あなたが勤める法医学研究所に警察から依頼がきた……。

六つのDNA断片のサンプルを注意深く用意する
六つのDNA断片のサンプルを注意深く用意する

 このサスペンス仕立てのストーリーは、浦和明の星の高3の理科で行われた「DNA鑑定実験」の設定だ。

 同校で生物を担当して21年目となる理科主任・高野栄治教諭によると、DNAを扱う技術は、人間をはじめ、さまざまな生物に対して行われ、病気の原因解明や治療法の研究、さらには種の起源や進化の探求に応用されるなどバイオテクノロジーの最重要な技術の一つであるという。同校では日常生活の中でよく耳にするようになった「遺伝子組み換え」や「DNA鑑定」などの技術について、正しい科学的リテラシーに基づき、生徒一人一人が判断できるようになってもらいたいとの思いで、これらの実験を15年ほど前から実施している。

 「DNA鑑定実験」は4日間にわたる授業で、各日1時限(各50分)に分けて実施している。1日目は講義のほか、実験手順、マイクロピペットや電気泳動装置などの器具の取り扱い方法などの確認をする。2日目は5人の容疑者のDNAサンプルと犯人のDNAサンプルを同一の制限酵素で処理し、サンプルごとに異なる数や長さのDNA断片を得る。また、電気泳動の土台となるアガロースゲルの作成も行う。3日目は、2日目に得られた各サンプルとアガロースゲルを用いて「電気泳動」を行い、DNA断片を長さごとに分離させる。最終日の4日目に実験結果の解析を行う。

 この実験は市販のキットを土台に、高野教諭が実験プロトコル(手順)を考案したもの。「DNAを扱った技術について、その原理と有用性を理解させることが狙いです。その倫理的な背景も考えさせます。遺伝子の情報を解読するこの単元は、大学入試においてもかなりの出題頻度です」

細心の注意を払って実験の核心部をクリア

 取材に訪れた実験3日目、高野教諭はまず、その日の実験の概要について板書しながら説明した。「DNAは無色だから、電気泳動中のDNA断片を見ることはできません。電気泳動の進行状況をモニタリングできるように、2種類の青色色素をDNA溶液に添加しましょう」。この色素はDNAを着色するわけではないが、同様に電気泳動するので、DNA自体がどの程度、電気泳動しているかの目安になるそうだ。

「泳動槽」にセットされたアガロースゲルのウェル(溝)にマイクロピペットを使ってサンプルを注入する
「泳動槽」にセットされたアガロースゲルのウェル(溝)にマイクロピペットを使ってサンプルを注入する

 生徒たちは2人1組になり、マイクロピペットを使って青い色素をDNA断片が入ったマイクロチューブに注入する作業を開始した。生徒たちは1日目の授業で器具の取り扱いを学んでいるため、慣れた手つきで作業をこなしていく。

 この後は、いよいよ電気泳動だ。現場の血痕から採取した「犯人」のDNAと5人の容疑者のDNAを比較するので、用意されたDNA断片のサンプルは6種類。寒天状のアガロースゲルの板を「泳動槽」にセットし、ゲルの一端にスタートラインのように横一線に開けた「ウェル」という溝に、マイクロピペットを使ってそれぞれのサンプルを注入する。

電流を流して電気泳動の様子を観察する
電流を流して電気泳動の様子を観察する

 その後、泳動層の両端に電極をつないで電流を流すと、DNA断片は水溶液中ではマイナスの電気を帯びているため、電極のプラス側に引かれて移動していく。長い断片は移動しづらく、短い断片はスムースにアガロースゲルの中を移動していくので、ある程度の時間、泳動すると長さごとにDNA断片を分離させることができる。後に、DNAそのものを染色処理すると、その違いが「バンド」と呼ぶ(しま)模様になって現れる。この縞模様のパターンが現場のサンプルと一致した容疑者が「犯人」というわけだ。

 「ウェル」は七つあって、6種類のサンプルのほか、前もってDNA断片の分子量などが分かっている「DNAマーカー」というサンプルも定規代わりに使う。「ウェル」の大きさは小さい。サンプルがウェルからあふれてしまうと他のサンプルと混じり合い、正確な解析結果が得られないので作業は神経を使う。生徒たちの目は真剣そのものだった。

 約30分間、電気を流して泳動の様子を観察し、この日の実験は終了。「バンド」のパターンの比較から「犯人」を特定したり、実験を振り返ったりするのは次回のお楽しみとなった。

実験の考察のポイントを確認する高野教諭
実験の考察のポイントを確認する高野教諭

 実験後に生徒の話を聞くと、食品開発の研究を志す生徒は「DNA解析による微生物・異物同定検査は食品業界では重要な検査項目の一つなので、とても興味があります。試薬や器具の取り扱いは難しく感じましたが、進路への実感がわいてきました」と満足そうだ。管理栄養士を目指す別の生徒も「授業で得た知識を実際に実験で確認することで、印象に残りやすい。将来の仕事のイメージも広がります」と目を輝かせていた。

実験が「最良の自分を生きる糧」になってほしい

 同校は、進学校にありがちな詰め込み式教育を行わず、少人数制だからこそできる丁寧な授業を大切にしている。理科教育では、興味や関心を抱かせ、正しい科学的なリテラシーを養成するよう体験教育を重視しており、医療系への進学希望者が多いことから、生命に対して畏敬の念を抱けるように実験や観察にも力を入れている。

 同校では高校2年次で文理を選択し、3年次には理系の中でも物理選択か生物選択に分かれるが、これに応じて授業計画もきめ細かい。たとえば「遺伝子組み換えの実験」は科学的リテラシーの養成を図るため、2年次に理系を選んだ生徒全体(約80人)を対象としているが、より安全性や倫理の問題を厳しく問われる「DNA鑑定実験」は、医歯薬系への進学を目指し、最終学年に生物選択したグループ(約40人)を対象としている。高校3年生の実験授業は、このほかにも、ニワトリの脳やブタの目の解剖、マウスの頭骨標本作りからメダカの透明骨格標本作り、すいとん作りから草木染めまで多岐にわたる。

 これらの実験については、中学1年生からリポートを作成している。実験方法や実験観察の結果を細密なスケッチで表し、そこから考えられることをまとめる。リポート作成は高校3年生でも続く。

 「このような実験のまとめ方は、大学入試の対策にもなります。生物の入試問題の多くは、実験観察の結果から、どのようなことが考えられるかを問うものですから」と高野教諭は説明する。「本校では何かに特化した授業や実験をやるわけではありません。顕微鏡観察から解剖、バイオテクノロジー、食品系までまんべんなくいろんな分野の実験を行って、生徒に将来の進路を考える機会を与えています」

 「学んだことが最良の自分を生きる糧になることは、本校の理念でもあります。生徒たちが色々な実験に参加する中で一つでも興味のある分野が見つかり、将来につながっていくといいですね」と期待を込めた。

(文・写真:櫨本恭子) 

 浦和明の星女子中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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43422 0 浦和明の星女子中学・高等学校 2018/10/11 05:20:00 2018/10/11 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181004-OYT8I50017-T.jpg?type=thumbnail

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