共立女子中学高等学校

自分を見つめ、自分を見つける…美術授業

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熱心に筆を動かす生徒たち
熱心に筆を動かす生徒たち

 時代を超えて“輝き、羽ばたく女性”を育てたい――。

 明治19年(1886年)、女性の社会的自立を目的に設立された共立女子中学高等学校(東京都千代田区)では、そんな人材を送り出すための指針として「4つの力~関わる力(人間関係力)、動く力(計画行動力)、考える力(情報活用力)、解く力(問題解決力)」の獲得を目標に掲げています。4つの力をバランスよく培い、自分のものにしていく。その実例として最近、注目されているのが同校の「美術」の授業です。作品制作を通じて生徒たちが6年間でどんな風に成長していくか。中学1年と高校3年の授業を取材してきました。

芸術作品に囲まれた環境を生かして

学校の正面玄関を飾るステンドグラス
学校の正面玄関を飾るステンドグラス

 北の丸公園から徒歩で数分。共立女子中学高等学校の正面玄関は、美しいステンドグラスで彩られていた。モチーフはカンパニュラ、アカツメクサ、コブシ。同校の校訓である「誠実・勤勉・友愛」のそれぞれの花言葉を持つ花々だ。

校舎内にはたくさんの絵画や彫刻が飾られている。随時、作品の入れ替えも行っているという
校舎内にはたくさんの絵画や彫刻が飾られている。随時、作品の入れ替えも行っているという

 校舎内にも、随所に美術品が飾られている。卒業生の父母や作家本人、旧職員からの寄贈によるもの、さらに各年度の卒業記念品など、その数は小さな美術館並みだ。美術担当の上田祥晴先生は、「良い作品がたくさんあるので、2010年に収蔵美術品目録を作りました。この目録は生徒にも配布したので、普段目にしている絵画がより身近に感じられるようになったでしょう」という。芸術作品に囲まれた学校生活とは、なんとも恵まれている。さらに美術の授業では、古典的技法や美術史を学び、近くの東京国立近代美術館を訪ねるカリキュラムもあるという。早速、上田先生が担当する中学1年の授業をのぞかせていただいた。

古典的技法を基礎から学ぶ~中1

ここ数年のテーマである頭蓋骨をメーンに、質感や色の異なるカラーボールやガラス瓶を配して
ここ数年のテーマである頭蓋骨をメーンに、質感や色の異なるカラーボールやガラス瓶を配して

 教室に入ると、中央に画材となるモチーフが置かれていた。頭蓋骨とカラーボールが3つずつ、中央に透明の瓶が立つ。作品に取り組み始めて3回目の授業だという。

 「今日はグラッシという技法を学びます。塗った絵の具の上に、薄くのばした絵の具をさらにかけていく技法で、日本語では“おつゆがけ”ともいいます。こうすることで絵全体に落ち着きが出て、明暗がよりはっきりしてくるんですよ」。上田先生の説明を聞き、早速制作に取り掛かる生徒たち。どの子の作品も、去年まで“お絵描き”をしていた小学生のものだとは思えないほど、しっかり描き込まれている。

 「中1の授業は、スケッチブックに鉛筆で自由に描かせることからスタートします。そうすると、ほとんどの生徒は構図を取ることができません。偏って描いていたり、小さ過ぎたり……。そこで、構図の切り取り方を、デッサンスケールを使って教えていくのです」と上田先生が教えてくれた。

「学べば誰でも描けるようになる」
「学べば誰でも描けるようになる」

 生徒たちは、入学して最初に手がける作品で早速、古典的技法や色彩について学ぶ。小学校では自由に描かせることが多く、それによって苦手意識を持ってしまう子もいるからだ。絵画の技法や考え方を勉強することで、“学べば誰でも描けるようになる”ということを、まず、生徒たちに分からせるのが狙いなのだという。

 「大人が子どもに“自由に描け”と言うのは、羽をつけずに崖から突き落とすようなもの。技法に基づいて作品を完成させていくやり方については『画一的指導だ』という意見もありますが、技法を学んだうえでそこからはみ出すことは認めていますから、弊害はないと思っています」

「グラッシ」を学ぶ
「グラッシ」を学ぶ

 この授業で最初に学んだのが「グリザイユ画法」。グレーなど無彩色の絵の具で対象物の陰影を塗り分け、その上で着色していく技法だ。小学校時代、“鉛筆で下書きして絵の具で塗る”という描き方をしてきた中1生にとっては新鮮だったに違いない。中には初めての体験になじめず、途中で手が止まってしまう子もいるという。

作品全体にグラッシを施し、光が当たる部分に白を置いていく
作品全体にグラッシを施し、光が当たる部分に白を置いていく

 「どの段階でアドバイスするのが一番いいか、一人一人の進行を確認しながら、タイミングを狙っています。早めに軌道修正したほうがいいな、という子がいる一方で、かなり進んでから指導したほうが、経験として生きる生徒もいる。その見極めが難しいところです」と上田先生。

作品制作を通じて自分と対峙し続ける

中学1年CG演習・コラージュ 「合成生物と私」による作品(井上友希・作)
中学1年CG演習・コラージュ 「合成生物と私」による作品(井上友希・作)

 中学1年では、最初に骸骨をグリザイユ画法で描き、次はコンピューターを使った“コラージュによる空想画”を制作。最後に、塑像による自刻像に取り組む。実は最初の作品で、モチーフに骸骨を用いているのにも理由があるのだそうだ。

中学1年CG演習・コラージュ 「合成生物と私」による作品(池田萌恵・作)
中学1年CG演習・コラージュ 「合成生物と私」による作品(池田萌恵・作)

 「最初に頭蓋骨を描き、理解したうえで彫刻に取り組むため、骨格の基本をおさえた立体をつくれるようになります。中には彫刻なんて難しいという生徒もいますが、3次元の骸骨を2次元に置き換える絵画よりも、3次元から3次元への彫刻のほうが、実はやりやすいんですよ」。

中学2年「想定自画像」による作品(新井千尋・作)
中学2年「想定自画像」による作品(新井千尋・作)

 そして、平面と立体を織り交ぜた作品制作に一貫しているのが“自分を見つめる”作業だ。

中学2年「想定自画像」による作品(落合梨乃・作)
中学2年「想定自画像」による作品(落合梨乃・作)

 コンピューターを使ったCG演習で学ぶのは、シュールレアリスムだ。歴史的背景なども勉強しながら、コンピューターありきの今のデザイン業界にも通ずる世界を、空想画制作で学ぶ。さらに中学2年になると、“想定自画像”という課題も登場する。

 「まず自分の心の中にある心象風景を、色を使って思うままに表現したり、ワークシートで自分の過去を振り返るレポートを書いたりしながら、背景を作り上げていきます。その上で、その背景を背負う人物として自画像を描くんです。出来上がった作品は、それはもう、暗い世界ばかりですよ(笑)。でもこれが健全だと思います。中学2年という多感な年頃に、明るい絵が出て来たらむしろおかしい。この想定自画像は、精神面でのケアにもなっていると思います」と上田先生が解説する。

「自分にも出来る」体験を重ねて

中学2年「想定自画像」による作品(添野愛・作)
中学2年「想定自画像」による作品(添野愛・作)

 これらのカリキュラムを経験しても、絵が苦手な生徒がいなくなるわけではない。しかし作品は必ず提出させるため、“自分にも出来る”という自信は、どの生徒にも芽吹く。「在校生の作品を見た入学志望者の保護者から、“うちの子はこんなに描けないけれど、大丈夫でしょうか?”とよく質問されます。共立女子中学高校で指導している美術は、一般的に言えば大学で学ぶレベルです。でも、きちんと指導すれば、中学、高校でも十分にできることなんです」と上田先生。続く取材では、美大を目指す高校生の、美術演習を訪ねた。

きめ細かく本格的な個別指導~高3

美術を専攻した生徒が集まる高校の美術室
美術を専攻した生徒が集まる高校の美術室

 午後の美術室には、高校で美術を選択した生徒が集まっていた。主に美術系の大学を志望する生徒の個別指導が行われている。下校後、予備校に行くまでの時間を有効利用するためでもある。ミロのヴィーナスなどの石膏胸像を取り囲み、鉛筆デッサンに励む生徒たちは、先ほどの中学1年に比べると、姿勢の良さ、視線の強さが断然、“本格的”だ。筑波大大学院で絵画を専攻した上田先生の指導もより、専門的になる。

美術担当の上田祥晴先生
美術担当の上田祥晴先生

 「ある程度、技術が身についている生徒たちなので、この授業では、ある線を引き出すためにどこを調整していくか、視点をどこに持ってくるか、どの線に着目すべきかなどを指導します。楽しいところ、ラクなところばかり描き込み過ぎないよう、描き直しをさせることもあります」。このクラスの場合、提出物は年3作品程度。少ないのは「壊して作る」という過程を繰り返しながら、1作1作を丁寧に仕上げているからだ。

東京芸大建築科に3年連続合格者

高校2年「建築デザイン・幼稚園」による作品(大庭彩香・作)
高校2年「建築デザイン・幼稚園」による作品(大庭彩香・作)

 高校の授業にも自画像制作がある。中学の時とは違い、どこまで写実を極めるかというのが課題だ。美術史を学び、自分の好きな画家の作品を模写する課題もある。「筆の持ち方も知らなかった生徒が、絵画、コンピューター、立体やマンガ制作など、さまざまな課題に取り組む中で、個々の本領を発揮する場面があるんです。最近は、建築デザインに関心のある生徒も多いです。間取りソフトを使って自分の家の平面図を作り、建ぺい率や容積率を決めて“理想の家”を作らせると、それはもう面白い作品が出来てきますよ」

高校2年「建築デザイン・幼稚園」による作品(山下真由子・作)
高校2年「建築デザイン・幼稚園」による作品(山下真由子・作)

 ちなみに定員わずか15人の東京藝大美術学部建築科にも、2009年から2011年まで3年連続で合格者を出している。これを受けて、将来の美大受験を見据えた入学希望者も増えているという。

 “美術に強い共立”を牽引する上田先生は、「大事なのはやはりバランスです。英国数はもちろん、美術など他の教科にも同等に力を注ぐことが大切だと思います」と強調する。「共立で6年間美術を学ぶことで、『考えて描く』という一番基礎的な技術が培われます。そして多感な時期に、自分を見つめ、自分と向き合う経験を重ねていくことも大きい。生徒たちは作品制作を通じて、かなり冷静に自分を見つめられるようになっているのではないでしょうか」。

 創設から間もなく130年。老舗・共立に新たな風が吹き始めたようだ。

(文と写真:小林由佳、作品写真は共立女子中学高等学校提供)

掲載日:2013年6月13日

無断転載禁止
403416 0 共立女子中学高等学校 2013/06/13 14:56:00 2013/06/13 14:56:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20140324-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

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