【特集】「美しい人生」へ向けて実践的な美術教育…共立女子

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 共立女子中学高等学校(東京都千代田区)は今年度、美術で中学1年次からの油絵指導を始めた。先端的なCGデザインの授業と並行して、油絵の古典的な技法に早期から取り組むことで、生徒の美術センスを大きく伸ばしたいという狙いだ。同校の美術教育の役割や成果、今後の展望について美術担当の上田祥晴教諭に話を聞いた。

古典的な油絵と最新のCGデザインを学ぶ

「生徒に美しい人生を歩んでもらいたい」と話す上田教諭
「生徒に美しい人生を歩んでもらいたい」と話す上田教諭

 「なぜ、美術教育に力を入れてきたのか。それは生徒たちに『美しい人生を歩んでもらいたいから』に尽きます。美意識を磨き、自分の美の基準を中学、高校生のうちに身に付けてもらいたい。そうすれば、将来、どんな人生を歩むことになっても、豊かな感性を持ち続けられると思います」。美術担当の上田教諭は熱っぽくこう語る。

 同校が本格的な美術教育に取り組んできたのは、30年以上前からだという。上田教諭や中城芳裕教頭らが中心となって、古典的な手法から先端的な手法までさまざまな美術教育のプログラムを作ってきた。

 「世の中のデザインジャンルの仕事がコンピューター化しかけたころ、その流れに合わせてコンピューターを導入しました。デザインの授業では手作業はやめて、すべてコンピューターグラフィックス(CG)に切り替えました。もう20年ぐらい前になります」と上田教諭は話す。

 その一方で、CGとは対極にある古典的な絵画技法の指導も始まった。例えば、無彩色絵の具で陰影をつけるグリザイユや、油絵に透明な絵の具を薄塗りするグラッシなどの技法だ。この古典的技法の指導の一環として今年度からは、これまで指導してきたアクリル画に代わり、油彩画を中学1年次から指導することにした。

 「油絵は世界的に見ても古めかしい感じですが、あえて導入する理由は、CG全盛の今だからこそ、古典に立ち返ろうという思いが一つ。もう一つは、これまで高校1年次から指導してきた油絵を、もっと早く始めていたら、さぞかし伸びるだろうという考えがありました」と上田教諭は明かす。

 油絵を中学1年次から指導するにあたって、美術室に生徒の人数分、約320枚の作品が収納できるスペースとラックを設置した。コロナ禍に伴う自粛休校明けに油絵の道具を配布したときの生徒たちの様子について上田教諭は、「目を輝かせていました。プロが使うような本格的な道具を与えたから、さぞ新鮮に感じたでしょう。生徒たちはまず絵の具の重さに驚いていました」と話す。

中1の油絵はデッサンからスタート

油絵の道具は、プロが使うような本格的なものを使用する
油絵の道具は、プロが使うような本格的なものを使用する

 中学3年間の美術の授業には、油絵を中心とした絵画と、CGを使ったデザインの二つの柱がある。油絵は、1年次に頭蓋骨とガラス瓶などを組み合わせた静物画、2年次に想定自画像、3年次には、昨年まで行っていた美術史の時間を、細密画の制作に振り当てる予定だ。

 取り組む油絵は学年ごとに1枚と決めて、たっぷり時間をかけて制作する。中1、中2では、F6号(41.0×31.8センチ)のキャンバスを使い、中3ではSM(22.7×15.8センチ)から0号(18.0×14.0センチ)に細密画を描く予定だ。

 「油絵のいいところは、絵の具が乾いてもかさが減らないこと。そして、謎めいた雰囲気も魅力です」と上田教諭は話す。「高校生になると植物油と揮発油と樹脂を混ぜて自分で調合しますが、中学生にはまだ難しいので、あらかじめ調合されているアルキド樹脂入りの溶き油を用意しています。これを使うと1週間後には完全に乾くので、全体に透明な絵の具をかけるグラッシの技法が使えます。中学1年では自由に描くというよりは、まずは手習い。古典的な油絵の技法を学んでもらうのが目的です」

 中1の授業では、まずデッサンを学ぶ。石こう製の四角柱を見て描くことから始まり、六角柱、八角柱と面の数を増やしていき、最後は円柱を描けるようにする。そこから頭蓋骨のレプリカのデッサンに入る。「頭蓋骨を観察して細かく理解するうちに、人物画がすごく描きやすくなるのです。頭蓋骨そのものは不気味なモチーフですが、ガラス瓶や果物と組み合わせて、10週ほどかけてデッサンしていきます」と上田教諭は話す。頭蓋骨をデッサンすることで人体の骨格が理解できる。それによって人物画が飛躍的に上達するのだそうだ。

 一方、CGを使ったデザインの授業では、中1生は自分で撮影した写真をパソコンに取り込み、フォトレタッチソフトで加工して、コラージュによる空想画を制作する。2年次には、より実践的にCDジャケットのデザインに取り組む。さらに3年次になると、自分でキャラクターをデザインして、パズルゲームの駒の制作や、10コマほどで1~2秒のアニメーション制作を予定している。

美術、芸術系大学へ毎年10~15人進学

美術教育に引かれて共立女子を志望した生徒も少なくない
美術教育に引かれて共立女子を志望した生徒も少なくない

 「こうしたデザインの授業がきっかけで、ゲームデザインやアニメーションに興味を持ち、仕事に就いた卒業生も複数います」と上田教諭は明かす。人気のゲームデザイナーやアニメーターを目指して、美大に進学する卒業生は、ここ10年で6、7人いるという。

 「うちは普通科の中学、高校なんですが、その割には美術、芸術系への進路を選択する生徒が多いと思います。毎年10人から15人は首都圏の美術大学、芸術大学に進学していますから。実力的には、もっとたくさんの生徒がその道に進めると思います」

 「よく『美術芸術系は才能』と言いますが、実は美術の才能は、国語や数学の才能とそうは変らないと思うんです。音楽家になるには幼少期から始めないと間に合わないかもしれませんが、美術では中学から始めてプロフェッショナルになる生徒がいます。たとえプロにならなくても、中高の6年間でかなりのレベルまでみんなが上達します。これは三十数年間の実践で証明できたように思います」と上田教諭は胸を張る。

 「アニメが好きで」「デザインやイラストを学びたくて」と同校を志望した生徒も少なくない。また、学校説明会や文化祭などで共立の美術教育に引かれて、美術の授業を楽しみに入学してくる生徒もいるという。

 「小学生の頃に図画工作が苦手だった生徒でも、問題ありません。共立の美術の授業は、『教える美術教育』を大事にしていますから。『実演』を重視していて、何度もやって見せますし、手順を大きな紙に書き、道具の使い方も細かいところまで教えます。できない子をそのままで終わらせはしません」と上田教諭は請け合う。

 同校は来年度、中高の図書室の近くに『共立ギャラリー』の開設を予定している。「ここで企画展を開催したい。生徒たちがさらに美術や芸術への関心を深めてくれれば」と上田教諭は期待を膨らませた。

 (文:田村幸子 写真提供:共立女子中学高等学校)

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1410394 0 共立女子中学高等学校 2020/08/21 05:21:00 2020/10/26 11:18:01 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200814-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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