【特集】より深い人間理解こそが「ものづくり」の土台となる…東京電機大中

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 東京電機大学中学校・高等学校(東京都小金井市)の大久保靖校長は就任6年目を迎えた今年、あらためて学校のあり方を問い直している。今年のコロナ禍や、来年度からの新学習指導要領の実施という時代のターニングポイントで大久保校長が考える、これからの学校のあるべき姿や生徒たちに望む力、今後の教育の展望などについて聞いた。

生涯学び続けるための「学びの作法」

就任6年目を迎えた大久保校長
就任6年目を迎えた大久保校長

 新型コロナウイルス感染拡大への対応として一斉休校で始まった今年度は、大久保校長にとって、学校は何を教え、生徒をどう導くべきなのかを深く考える機会になった。オンラインによるホームルームや授業などで生徒の安全を確かめ、学びを確保できたものの、ある種の無力感にさいなまれたという。

 「コロナ禍で世界中が右往左往するなんて、誰も予測できなかったでしょう。その中で『学校には、どういう意味があるのか』と、そう考えた時に、長い人生を歩む中で、生涯学び続けるための『学びの作法』を学ぶところだと思い至りました。踏み込んで言うならば、自分で学ぼうと思う気持ちや、当たり前と思っていたことに疑問を抱く視点を持たせること。さらには一緒に学び、経験を積む仲間の存在や居場所を提供するのが、学校の大きな役割ではないでしょうか」

 「今は人生100年時代と言われます。100歳まで生きるとして、学校で学べるのは二十数年。残りの80年弱は自分で必要なことを学び続けなければならないのです。社会の仕組みも、働き方も大きく変わろうとしている今、学び方も変わっていかなければなりません」

 こうした反省の中で、大久保校長があらためて重要性を確認したのは、中学高校時代に身に付けてほしい資質として同校が提唱している「5つの力」、つまり「視野の広さ」「向上心」「冒険心」「共感」「専門性」だという。

 「『視野の広さ』について言えば、当校には興味・関心のとんがった子が多いので、自分の興味があることをきっかけに、関心を広げてもらえるように働きかけています。たとえば、鉄道が好きならば、それを入り口に、鉄道は社会のインフラとして何を求められているのか、人口減少時代の課題は何なのかなど、自分の頭で考えるように促したいですね」

 また、何かを成し遂げるためには、「向上心」に加えて「冒険心」も大切だという。「生徒の中には極端に失敗を恐れる子もいます。十中八九失敗に終わるような挑戦もあるでしょうが、失敗からしか学べないこともたくさんあります。失敗を恐れずに一歩を踏み出すことが大切です」

 「共感」については、「グローバル」な視点や思考との関わりが深いと大久保校長は考える。「ベストセラーになったブレイディみかこさんのノンフィクション『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の中に、「誰かの靴を履いてみること」という章がありました。まさにこの感覚が、これからの時代に必要な共感力だと思います。グローバル時代には、自分と同じ価値観、環境で過ごしてきた人たちだけではなく、いろんな社会的背景を持つ人たちにも心を寄せていかなければならないでしょう」

 これまで一貫して「技術者を養成する」学校を自任してきた同校にとって、「専門性」を磨くことの大切さは言うまでもないだろう。

技術者にこそ必要な深いコミュニケーション

カンボジアスタディーツアーで現地の小学生たちと授業に参加する
カンボジアスタディーツアーで現地の小学生たちと授業に参加する

 また、大久保校長が今、生徒たちにその意味を考えてほしいと望んでいるのは、「人間らしく生きる」という校訓だという。

 この校訓は、1992年に校舎を東京・小石川から東小金井の現在地に移転した際に定めたものだ。「もともとは東京電機大学の初代学長・丹羽保次郎先生が『技術は人なり』と説いていました。それを現代風にしたのが『人間らしく生きる』です。生徒たちには、常にこれを念頭に置いて学びなさいと教えています」

 「ものづくりの基本は、技術的なスペックを追い求めることではありません。使う人の役に立つこと、社会に役立つものを生みだすことが大切です。たとえば、車のキーレスエントリーは、便利さの反面、本当にロックされたかどうか確かめるための効果音や光信号を出す装置を搭載しなければならなくなりました。作り手は『より便利に、より高性能に』とこだわりますが、本当に使う人にとって必要なのか、快適なのかと問われると、答えはまた違ったものになる。つまり、ものづくりをする時には、より深く人間を理解して洞察しなければならないということです。技術者だからコミュニケーションは要らないのではなく、技術者だからこそ深いコミュニケーションが求められているのです」

 同校は今年の中1・高1からSurface Goを全員に配布して、ICT(情報通信技術)を駆使した情報処理教育にも力を注いでいる。「当校の情報科の教諭も、『プログラミングはコミュニケーションを深めるためのツールだ』と言っています。つまりソフトウェア開発などプログラミングの作業も、チームで協働して作り上げていくことが重要だということです」

 大久保校長は、「人間らしく生きる」という校訓は、国際理解にもつながると考える。「グローバル教育を突き詰めると、『あなたの当たり前は、ほかの人の当たり前ではない』ということに気付くことだと私は思います。前国際基督教大学学長の日比谷潤子先生が「グローバルな人材とは、世界に当たり前はないことを知っている人」だとある講演で言われていました。まさにその通りだと思います。短期留学もいいですが、ほかの人に『自分の当たり前』を押し付けないで共感できる気持ちこそが、真のグローバルではないでしょうか」

 同校では、主に高校1、2年の希望者を対象に、夏休みにカンボジアへの「スタディーツアー」を行っている。参加者たちはアンコールワット遺跡近くの村の小学校でボランティア活動を行う。

 「村の家庭にホームステイしますが、最初はそこで出会う『当たり前じゃない生活』に面食らいます。水道などの社会インフラのない村なのに、そこで暮らす子供たちは屈託がない笑顔を浮かべている。夕方には、地平線のかなたに真っ赤な夕陽が沈む。そんな光景を見て、生徒たちは『本当の幸せって何だろう』と考えるわけです。それが深い学びにも、共感力にもつながってくるのでしょう」

ゼミ形式の「ラボ」をいっそう探究型に改編

「TDU 4D-Lab」で池や用水路の生態系を調べる生徒たち
「TDU 4D-Lab」で池や用水路の生態系を調べる生徒たち
ロボットを使ったプログラミングの授業
ロボットを使ったプログラミングの授業

 同校は、「5つの力」を身に付けるために、2016年度から「総合的な学習の時間」(高校では「総合的な探究の時間」)に学年横断型ゼミ学習「TDU 4D-Lab(ラボ)」を続けている。今年度はコロナ禍のため活動休止となったが、例年、中学2、3年、高校1、2年の4学年を縦割りに編成し、約20人で1チーム(ラボ)をつくって課題に取り組む。ラーメンの研究や、便利グッズの開発などユニークなラボもあるという。

 「ビオトープの研究・製作をしているラボは、毎年挑戦しています。なかなか完成しないようですが、異なる年齢同士で一つのテーマに取り組むことは、今後の彼らの学びにきっと役立つでしょう」

 同校は来年度からの新学習指導要領実施を前に、このラボの改編を検討中だ。「生徒たちが課題を設定して、仮説を立て、情報を収集し、分析して、解決策を導き出す。それをリポートにまとめて発表する。さらに新たな課題を見つけて、という繰り返しができるように教員がファシリテーターになります。今は教員がいかに答えを教え込まずに生徒をサポートできるかを模索中です」

 中学校1~3年生では、週1回「探究」の時間を設定する。高校ではグループで行っている探究学習を、将来的には個人研究の形にしたい考えだ。

 探究型の学びを通して「5つの力」を磨けば、時代が変わっても自分で必要なことを学び続ける力が身に付くことだろう。

 (文:田村幸子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:東京電機大学中学校・高等学校)

 東京電機大学中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

無断転載・複製を禁じます
1590312 0 東京電機大学中学校・高等学校 2020/11/05 06:00:00 2020/11/05 06:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201030-OYT8I50013-T.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

東日本 共学校ページTOP

── 女子校ページTOP

西日本ページTOP

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ