【特集】模擬選挙を通じた主権者教育…かえつ有明
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探究型の学習やプレゼンテーションなどを通じて論理的思考力を養う授業「サイエンス科」の設置や、主体性を伸ばすために始業・終業の鐘を鳴らさない「ノーチャイム制」の導入など、先進的な教育を推し進めている、かえつ有明中・高等学校(東京都江東区)。公職選挙法の改正で、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたことを受けて、主権者教育にも力を入れ始めている。その取り組みの一環として7月7、8日に模擬選挙が行われた。その様子と生徒の声を紹介する。
模擬選挙の狙い
「どこに入れるか決めたの」「うん。なんか緊張するね」。記帳台や投票箱が搬入されたカフェテリアは投票所そのもの。前の廊下で生徒たちが交わす声が漏れ聞こえてくる。
この模擬選挙に投票するのは、中学1年生から高校3年生までの全校生徒。同校が実施したのは7月10日に行われた参議院比例代表の模擬選挙。生徒たちは実際の政党の中から選んで1票を投じる。

「10年後、20年後の未来をつくっていくのは、ほかならない彼ら自身です。政治は彼らの生活と密接に関係しているものの、政治というとまだまだ自分たちとは関係ない、遠いものと捉えている生徒が多いのが実情です。そこで模擬選挙を実施すれば、どの政党に投票するかと主体的に考え、興味を持つきっかけになる。政治を身近に感じてもらうのが一番の狙いですね」と模擬選挙の狙いを話すのは模擬選挙の発起人である木之下瞬教諭だ。模擬選挙を実施するために、有識者や江東区の選挙管理委員会、模擬選挙推進ネットワークなどからアドバイスを受けるなど入念に準備を進めてきたという。それだけに、当日は大きな混乱もなく投票は順調にスタートした。
模擬選挙を通じて芽生える当事者意識

生徒は投票所の受付で生徒手帳を見せて投票用紙を受け取る。選挙をリアルに感じてほしいという理由から、ここで使用された投票用紙は、実物のフォーマットを模したもの。そればかりか、選挙管理委員会から本物の記帳台と投票箱を借りてきたという念の入れようだ。そうした細部の一つひとつから学校の本気度が生徒に伝わったのか、投票所には一定の緊張感があり、雑談に興じる生徒は一人もいない。皆、真剣な様子で記入し、投票箱に用紙を入れていった。投票立会人を務めた小畑秀文校長はこう話す。
「弊校には7月10日の参議院選挙の時点で有権者になっている生徒が30人以上います。もちろん、そうした生徒には意識を高く持ってほしいと思いますが、他の生徒にも社会がどうあるべきかを真剣に考えてほしい。今回の模擬選挙が、自分で考えて自分で行動できるようになる良いきっかけになると考えています」

小畑校長の狙いは的中したようで、投票を終えた高校2年生の林日向子さんは、「どこに投票するか考えたときに、どの政党がどんなマニフェストを出しているのか、ほとんど知らないことに気づきました。今後は新聞やニュースを注意して見ようと思いました」と新たな発見があった様子だった。同じ2年生の田邊風緒さんは、「18歳選挙権のニュースを聞いた時は正直ピンとこなかったけど、模擬選挙で投票の流れが分かったので、18歳になったら投票には必ず行きます」と目を輝かせた。
既に有権者である生徒はより意識が高く、話を聞いた6人の生徒はいずれも選挙に行くと答えた。その一人の畑中彦人さんはこう話す。
「模擬選挙があると聞いてから、選挙演説を真剣に見たり公約を調べたりしたので、とても勉強になりました。選挙権が18歳以上に引き下がってから初めての有権者なので、責任ある投票をしたいと思います」
同じく有権者である平田裕暉さんは勉強の役にも立ったと語る。
「今までは友人と政治について話すことはほとんどありませんでしたが、模擬選挙がきっかけで、どこに入れるかといった程度でも政治について話すようになりました。当事者意識が出てくると、日本の近代史も実感を持って捉えられるようになりました」
アメリカへの留学経験があるという秋野真凛さんは模擬選挙をこう歓迎する。
「米国では周りの生徒たちが気軽に政治について話していましたが、日本ではそういう雰囲気がありません。いきなりこの政党についてどう思うなどと聞くと嫌がられるような風潮があると思うので、この主権者教育がきっかけとなってオープンに意見を交わせるような土壌ができてほしいと思います」

生徒によって関心の持ち方は様々だが、今回の模擬選挙が政治に興味を持つ一つのきっかけになったことは間違いないようだ。
「模擬選挙をして終わりではなく、夏期講習の特別授業を使って結果の分析も行います。投票用紙にはその党に投票した理由を書く欄があるので、その集計や、実際の選挙と模擬選挙の結果比較などを行います」と木之下教諭は話す。結果を可視化し、そのうちの1票が自分のものと実感することが大事だと木之下教諭は熱く語っていた。
(文と写真:森祐一)
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