図書室の底ヂカラを見た…読書活動優秀実践校

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本はトキワ生にとって身近なもの
本はトキワ生にとって身近なもの

 トキワ松学園中学校高等学校(東京都目黒区)は、「子どもの読書活動優秀実践校」(2011年度)として文部科学大臣から表彰されるなど、図書室を活用した教育に定評があります。

 実際には、どんな授業が行われているのでしょうか? 高校1年生の「新聞を使いこなせるようにしよう!」の授業を取材しました。

専任司書教諭2人の手厚い体制

 トキワ松学園の図書室に足を一歩踏み入れると、ほっと肩の力が抜けた。落ち着いたトーンの薄緑の壁、自然光で十分に明るい室内は、リラックスして本と向き合える空間なのだ。

 この図書室には、図書室専門の教諭が2人常駐している。これは私学でも珍しいことだが、同校がめざす探究型の学習を実践するために、22年前から司書教諭2人体制をとっているという。

落ち着いて過ごせる配色も特徴的
落ち着いて過ごせる配色も特徴的
明るくて読書や勉強がはかどるよ
明るくて読書や勉強がはかどるよ

 探究型の学習とは、生徒が抱いた関心を生徒自らが掘り下げていく授業。英国数理社などの通常授業の担当教師と相談したうえで、図書室を使った探究型の学習を行うための課題学習を、年間数コマの授業で行っている。そのためには、司書教諭が教育内容に添った資料を常に意識し、集め続けることが不可欠になってくる。

 多くの学校では、司書教諭は学級担任などの業務に追われ、図書室実務に専念できないことが課題になっている。スタッフの手厚さという点からも、トキワ松学園の図書室学習にかける本気度が伝わってくる。

生徒全員分の個別教材を準備

 今回見学した授業は、「新聞を使いこなせるようにしよう!」。図書室には、生徒が生まれた1997年度の新聞の縮刷版が各机に2冊ずつ、あらかじめ用意されていた。生徒たちは、自分の生まれ月の縮刷版が置いてある机に座る。

 縮刷版と一緒に机の上に置いてあったのは、授業用のワークシート。驚いたのは、ワークシートそれぞれに、生徒一人ひとりの生まれた日の新聞コラムが印刷されている点だ。つまり、全員分の「個別教材」が準備されているというわけだ。

 「生徒それぞれの生まれた日を調べ、印刷しました。中学1学年で約80人、高校の多い学年でも1学年150人という規模だからできることですね。人数の多い学校では、とてもできません」と笑うのは、この授業を担当する司書の勝見浩代先生。小学校と、中学・高校の国語の教員免許を持っている。

 手間をかけて生徒の誕生日ごとのコラムを用意することは、ひとつのコラムを生徒全員の教材にするのとはどう違うのだろうか?

 「生徒の興味の持ち方が全然違います。まずは“自分が生まれた日”というものが、興味・関心の“つかみ”になると思っています」。(勝見先生)

 それにしても、授業の“つかみ”にかける手間としては、膨大すぎないだろうか?

 「それに値するだけの効果があります。生徒たちが自分で興味を持って縮刷版を開いている様子がお分かりになると思いますが、それは自分の生まれた日の新聞コラムであり、生まれた月の縮刷版だからなんです。題材が自分と全く乖離した話になってしまうと、世界で何が起きていようが、生徒達にはピンと来ないのです」(勝見先生)

 “つかみ”に成功したところで、もうひとりの司書教諭である小澤慶子先生が新聞の使い方、記事の読み方といった内容を説明する。小澤先生はトキワ松学園の卒業生で、在学中は図書委員会に所属するなど図書室でたくさんの時間を過ごした。この授業では生徒たちに情報の目利きの方法も伝授した。

 「同じニュースでも、新聞によっては書かれていることが違う可能性が高いものです。ひとつの新聞だけで情報を判断するのではなく、必ず2種類以上の新聞に目を通して下さい。いろいろな立場、見方があることがわかるでしょう」

書くことを大切にする教育

 その後、縮刷版の「索引目次」のページにある「○月のおもなニュース」の「世界」と「社会」の項目の中から、ひとつの記事をグループごとに選ばせる。生徒たちは、その記事を実際に探して「いつの記事か」「何面にあるか」「記事の見出し」をワークシートに書き込んでいく。

 作業を見つつ、縮刷版についての感想を、生徒に聞いてみた。

 「自分の生まれた年、時代のことがわかって、新鮮な気持ちになりました」(Sさん)、「まわりの席に誕生日の近い人がいたので、記事をきっかけに話が盛り上がり、新聞にも興味を持つことができました」(Fさん)

あった! この記事だね
あった! この記事だね

 生徒たちはこれまで気にもかけなかった新聞の中に、自分史の出発点を見つけられて嬉しそう。先生たちの狙いもばっちり当たったようだ。

 生徒たちは次に、個別に用意された「自分が生まれた日の新聞コラム」の要約を書く。

 「トキワ松学園では書くことをとても大切にしています。生徒がつけた見出しと要約文は、きちんと人に内容を伝えられるように司書が添削をします」(勝見先生)

学ぶための力「スタディ・スキルズ」

とはいえ、なぜ「新聞」なのだろうか?

 「今の子供達は情報を調べるとなると、まずネットにいきます。ネットは便利ではあるけれど、弊害もある。『ネットを差別はしないけれど、図書資料とは区別するよ』ということは教えています。新聞は図書資料ではありませんが、客観的な資料として非常に有効だと私達は認識しています」(勝見先生)

 高校1年生の探究型の学習ではこのほか、高校からの入学生もいるため図書室の使い方を伝えたり、大人向けの本格的な本を推薦したりしてきた。今後は、論理的文章の書き方も指導する予定だ。

 学習をするための“学ぶ力”のことを、「スタディ・スキルズ」という。勝見先生は「調べる、まとめる、発表するといった時に必ず必要になってくるスタディ・スキルズを、図書室を使うことで身につけてもらっています。教科の授業で自然に備わるものもありますが、トキワ松学園では百科事典や専門辞典、年鑑類の使い方を図書室の授業として教えています」と説明してくれた。

 ある机の上には、本立てに挟まれ、本がズラリ並んでいる。中学2年生が社会の授業で進めている“自分が興味をもった歴史上の人物について調べる”という調べ学習のための資料だ。

授業で使うから、借りるのは待ってね
授業で使うから、借りるのは待ってね

 「資料をせっかく棚から探して持ってきても、他の生徒が借りてしまったら課題ができません。だから、ここに集めて貸し出し停止にしておくんです」と勝見先生。

 ところで、“自分が興味を持った歴史上の人物”ということは、対象は誰でもいいのだろうか?

 「そうです。あくまで生徒が興味を持った人物です。こういう授業をすると先生方は大変です。特定の人物を指定して、その人について調べなさいという方が指導も評価もしやすいですから」(勝見先生)。それを敢えてやるということは、誕生日の新聞コラムと同じく、ここでもきめ細かな指導をしているようだ。

 勝見先生は「座学の授業だとあまり活躍しない生徒が、調べ学習となるとなぜか生き生きすると、先生方はよく話しています」と語る。自分が興味を持って選んだ事柄であれば、子供達は主体的に学ぼうとするのだろう。そんなふうに子供たちに寄り添う学校側の姿勢がひしひしと伝わってくる。

年間1500冊を新規購入

 図書室を改めて眺めると、可動式の棚ごとにテーマを絞った本が集められている。勝見先生はひとつずつ指し示しながら、説明してくれた。

 「こちらは中学1年生の国語で学ぶ詩の授業のための棚です。この中から好きな詩を選んで、それを書き写し、解釈と感想、イメージイラストまで加えます」。「こちらは、中学2年生の保健体育で扱う成人病のための棚です。先生から“こういう授業をやります”という連絡を頂き、必要な本をピックアップして揃えておくのです」

 通常の授業でも、扱うテーマに合わせ、図書室を使った探究型授業につながる課題学習が行われているのだ。それにしても、テーマごとの本がなぜこれだけ揃うのか。

 「週に1回、書店から借りた本の現物を見て、先生方といっしょに、授業で教えるテーマに合った図書の購入を決めています。だから“今の”トキワ生たちに最もふさわしい本が集まる仕組みとなっているんです」

 この仕組みにより、月に約120冊~200冊、年間にすると1500冊の本を購入し、その分年度末に1500冊を廃棄する。このような新陳代謝の結果、トキワ生は「うちの学校の図書室が一番使える」と実感するようになるそうだ。

教室にもたくさん本があるんだ
教室にもたくさん本があるんだ

 図書室の取材の後、教室も覗かせて頂いた。黒板の横にあるのは何の変哲もないクラス図書の棚だったが、いくつかの教室を見るうちに、学年やクラスによって本の内容にバラつきがあることに気がついた。

 「クラス図書は、できるだけ発達段階や興味の範囲にあわせて本を選ぶようにしています。たとえば中学1年生のクラス図書は、読書に親しみやすいように、敢えて易しい本を揃えています。高校3年の理系コースであれば、理系進学に役立ちそうな本を選びます」

 トキワ生にとって、本はとても身近な存在だ。「活字ばなれ」といわれる時代にあって、あらゆる学びの基礎となる読書の習慣と活用の仕方を身につけてくれる取り組みは、子どもの一生の宝物になるに違いない。

(文と写真:楢戸ひかる)

掲載日:2013年12月13日

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