観察力を磨く美術教育…トキワ松

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 トキワ松学園中学校高等学校(東京都目黒区)には、高校に美術コースがある。その美術教育をベースにして生徒たちの感性を育て、図書館を活用して思考力・表現力を伸ばすことが教育の大きな柱となっている。多彩な個性をはぐくむ同校のユニークな教育方針と今後の展望について、4月に就任した中山正秀校長に聞いた。

強さと優しさ兼ねた生徒を育てる

中山正秀校長
中山正秀校長

 今年、創立100周年を迎えたトキワ松学園が建学の精神として掲げているのは、「鋼鉄に一輪のすみれの花を添えて」という言葉だ。鋼鉄は人間力を持った強さを、すみれの花は女性としての優しさを意味しており、強さと優しさを兼ね備えた人間の育成を旨とした教育を示す言葉である。

 「強さや優しさの内容は時代によって変わりますが、今の時代、強さは国際社会で活躍できるグローバルな知識と教養、優しさはコミュニケーション力と位置づけました。これらを身につけることが本校の教育方針ということになります」と中山校長は語った。

 中学校で教育の土台となる部分を育み、高校になると理系・文系・美術コースの中から、進路希望に合わせたコースを選択できる。

美術的な刺激にあふれた学校

アトリエと呼ばれる美術用の自習室にはモチーフが並ぶ
アトリエと呼ばれる美術用の自習室にはモチーフが並ぶ

 美術系のコースを設ける高校は珍しい。系列に横浜美術大学を持ち、伝統的に美術教育に力を入れてきたトキワ松学園を象徴的に表す教育スタイルだ。「よく『トキワ松は絵がうまくないと授業についていけないんじゃないの?』と聞かれますが、そんなことはありません。芸術作品に触れる機会を増やすことで、美しさに対する感性を養うとともに、美術を通して観察力を養うのが狙いですから、絵のうまい下手をことさら強く問うということはありません」と中山校長は話す。

 校内の廊下やエントランスなどいたるところに絵が飾られていて、学校全体が美術的な刺激にあふれている。また、アトリエと呼ばれる美術用の自習室には石こう像やイーゼルが置かれ、いつでも自由に絵を描くことができる環境が整っている。美術がこれほど身近にあれば、感性が磨かれるのも納得だ。

 絵を描くために必須の能力である観察力は、授業の中で磨かれていく。例えば、自分の手を描く課題では、まず自分の手をじっくりと観察しなければならない。そうすると今まで気づかなかった細かい凹凸やシワなどに気づくことになる。一つのものを集中して観察することで、新しいものが見えてくる。中山校長は、こうした体験が美術だけでなく、あらゆる学びに役立つ貴重な体験になると強調する。

卒業生が語るトキワ松の魅力

イラストレーターとして活躍する卒業生のmimoeさん
イラストレーターとして活躍する卒業生のmimoeさん

 美術コースでは、とにかく絵を見て、描いてとまさに美術三昧の3年間を過ごすことになる。作品を人に見てもらう機会が多いことも魅力の一つだ。

 同コースで学んだ卒業生のmimoeさんは、現在はイラストレーターとして、アパレルブランドのアートワーク、CDジャケットや雑誌などのイラスト、壁画制作、切り絵の個展開催など多方面で活躍している。

 mimoeさんは在学中のことを「運動会のしおりや修学旅行の文集など、学内の発行物に使われる表紙絵や挿絵をコンペ形式で決めるので、みんなそこに向けて闘争心を燃やしていました。自分の作品が実際に印刷物になるのはうれしいことですし、それを見た家族や友人から反応が返ってくると、絵を描いて発表することがさらに楽しくなります」と振り返る。

 実はmimoeさんが在学中にデザインしたキャラクターが、卒業から10年以上がたった今でもトキワ松オリジナルのノートのデザインに使われている。久しぶりに学校を訪れてそのことを知り、自分の作品が形になって残っていることに驚きと喜びを感じたという。「同じ目標をもった仲間がいる環境で学んだことや得たものは、すごく今に生きていると感じます」とmimoeさんは話す。

学びの集大成「ショッププロデュース」

ショッププロデュースの作品
ショッププロデュースの作品

 生徒たちが自分の作品を内外に発表する機会は非常に多い。学内ではコンペの他には、ポスターコンクールなどの公募があり、学外では近くの商店街に飾る旗をデザインしたり、病院の壁に絵やイラストを描いたりする機会がある。作品の発表を通して地域と連携し、生徒のやる気を引き出しているのだ。

 しかし、同校の狙いはもう一歩踏み込んだところにある。中山校長は「ただ人に見せるというだけではなく、作品に込められた制作意図や思いを、きちんと人に説明して伝える力、つまりプレゼンテーション力が本当に重要な部分だと考えています。美術に限らずあらゆる授業で、調べ、まとめ、発表するということを経験してもらうようにしています」とその狙いを語る。

 その集大成となるのが「ショッププロデュース」という美術の授業だ。これは自分で店を開くという想定で、コンセプト決定から、店の内装や包装紙・袋などの小物のデザイン、ミニチュア模型製作、プレゼンテーションまで、一人でやりきるというものだ。入学時は人前で話すのが苦手だった生徒も、ショッププロデュースの発表がある高校3年の6月には、立派な発表ができるようになるという。

思考力と表現力を鍛える図書館学習

図書館を利用した授業は年間で約250時間
図書館を利用した授業は年間で約250時間

 同校は美術をベースにした教育の取り組みだけでなく、思考力・表現力を伸ばす教育にも力を入れている。そのために力を発揮するのが同校の図書館だ。専任の司書教諭2人が図書室に詰めており、生徒たちが調べ、まとめ、発表する「探究型の学習」の相談相手をしている。図書館に魅力を感じて入学する読書好きの生徒もいるほどだ。

 「どの教科を学ぶにしても、文章を構成して、まとめる力はベースとなる能力です。本校は図書室を活用した授業が多く、年間で約250時間あります。調べて発表するというのが基本になりますが、ビブリオバトル(書評合戦)など表現力を鍛えるさまざまなプログラムを取り込んだカリキュラムを、来年から実施することになっています」と中山校長は話す。

多様な個性が共生

 同校には美術好きや読書好きだけでなく、運動好きで活発な生徒もいて、実にさまざまなタイプの生徒がいる。多様な個性を発揮する生徒たちが、認め合い、うまくバランスを取って共生することで、トキワ松の独特のカラーを生みだしているという。

 美術教育については今後、いっそうの充実を図っていく。大学との連携をさらに強め、アトリエを使った指導を通して美術に触れる機会を増やす。さらに中学生向けの出前授業なども計画しているという。美術をベースに磨かれた感性と表現力を持つトキワ松の生徒たちが、社会にも新しい息吹を吹き込んでくれることを期待したい。

(文と写真:深澤恭兵)

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300472 0 トキワ松学園中学校高等学校 2016/12/19 05:50:00 2016/12/19 05:50:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20161215-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

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