「思考と表現」でダイバーシティーを生きる…トキワ松

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 トキワ松学園中学校高等学校(東京都目黒区)は、今年度から中学1年生を対象に、図書教育を深化させた独自の授業「思考と表現」をスタートした。同校は全国に先駆けて1979年から朝読書を取り入れるなど、図書教育に定評がある。今回の授業は図書室を利用して培ってきた思考力教育をさらに発展させ、2020年の大学入試改革や、ダイバーシティー(多様性)社会に対応できる力を育てる狙いがある。その授業風景を紹介する。

問いかけることで言葉を引き出す

「友だちに紹介する本」の内容や薦めるポイントを画用紙にまとめる
「友だちに紹介する本」の内容や薦めるポイントを画用紙にまとめる

 「今日は、『友だちに紹介する本』の仕上げの日です。これまでワークシートにたくさん書き込んできましたよね。それを画用紙に清書してください」。司書の勝見浩代教諭が指示すると、文章から書いていく生徒もいれば、イラストから描く生徒もいて、それぞれ画用紙に向かってすらすらとペンを動かし始める。こうした作業では普通、手が止まって悩む生徒が何人かはいるものだが、トキワ松学園の生徒は皆、伸び伸びと手を動かし続けていた。

 これは今年度から始まった中学の総合学習「思考と表現」の授業だ。取材した6月20日は「友だちに紹介する本」をテーマとする授業の4回目だった。色とりどりの画用紙に、イラストや本のタイトル、あらすじ、薦めるポイント、気に入った表現などを書き込んでいく。

 中学1年のYさんは、「自分で書いたワークシートに、こう直したほうがいいとか、ここがおかしいとか先生から赤ペンがたくさん入って、なるほどと思いました。だから、今日の清書はすらすら書けます。書くのが楽しい」と話す。「書くことは苦手」と話した生徒も、そうは思えないほどスムーズに文章やイラストを書き込んでいく。

 勝見教諭が授業の狙いを説明する。「何を書いたらいいか分からないと、手が止まってしまう子もいます。そこで苦手意識を持たないように、あなたが言いたいことはどんなことなのかな、そこはどう考えたのかな、と何度も聞き取りをしながら、ワークシートに書き込んで直していきます。問いかけることで生徒たちから言葉を引き出していくのです。このやりとりを10回も20回も繰り返すことで、書ける子はさらに書けるようになりますし、苦手な子も書くことに抵抗感がなくなります。さらには発表もできるようになっていくのです」

 「思考と表現」の授業では、好きな本の紹介シートを作成する「友だちに紹介する本」以外にも、自分の好きなものを調べて新聞にする「私の好きなもの新聞」、好きな本のプレゼンテーション合戦をする「ビブリオバトル」、4枚の絵を読解し、物語を考えて表現する「4枚の絵」などをテーマに、年間を通して学び、思考力と表現力を鍛えていくという。

図書教育・思考力教育の先駆け

図書室の司書教諭が2人ついて、生徒に細かく指導する
図書室の司書教諭が2人ついて、生徒に細かく指導する

 同校は、これまでも図書教育・思考力教育に力を入れてきた。早くも1979年には、他の中学校高校に先駆けて「朝読書」を導入し、30年以上にわたって図書教育、作文教育、調べ学習に力を入れてきた。2011年には「子どもの読書活動優秀実践校」として文部科学大臣から表彰を受けている。

 この教育を支えているのが同校の誇る図書室だ。蔵書は4万1000冊、毎月100~200冊の新しい本が配架されるという。年間1万ページ、中学3年間で100冊を読む国語科の取り組み「読書マラソン」や、社会や理科をはじめとした各教科での課題型学習・探究型学習で、リポート作成やプレゼンテーションの場として活用されている。さらに図書室以外にも、各クラスに中1から高3まで年齢に応じた学級文庫がそれぞれ150冊以上用意されており、常に図書に親しめる環境が用意されている。

 こうした図書教育・思考力教育は、生徒たちに多くの影響を与えてきた。勝見教諭によると、卒業生のNさんもその一人。「彼女は最初、本が嫌いだったんですが、妖怪の映画を見たことがきっかけで、図書室にある妖怪の本を読み始めました。私たちは彼女の知的好奇心を満たそうと、徐々に妖怪と関連のある民俗学の学術書などをそろえていきました」。関心を深めたNさんは、民俗学の研究で有名な筑波大学の人文・文化学群人文学類に進学し、専門的な研究をしたという。

 同校の先生たちは、中高6年の間に、図書室などを通して生徒との信頼関係を作り、関心を把握し、その関心をいかに点から線や面に広げていくかを考えているのだ。

教員たちの気づきが生んだプログラム

思考力教育、国際力教育、美の教育を実践するトキワ松学園(正面)
思考力教育、国際力教育、美の教育を実践するトキワ松学園(正面)

 新しい授業「思考と表現」は、こうした同校の図書教育・思考力教育の強みをさらに洗練したものだ。今年あらためて教科としたきっかけは、大学のAO(アドミッション・オフィス)入試や自己推薦などが多くなるにつれ、先生たちが生徒の出願作文を添削する機会が増えたことだったという。

 松本理子教頭は、「図書教育の効果が、生徒によってバラツキがあることに気付きました」と話す。「それで、今までの図書教育をさらに体系立てて、表現できる生徒、思考力のある生徒を育てるプログラムを作ろうと教員同士で2012年頃から話し合ってきました」

 「思考と表現」の授業では、図書資料の検索力、言語技術、論理力、コミュニケーション力を養うことに重点を置く。最初に図書室の使い方を教える。請求記号や目次、索引、奥付などを学び、図書の検索能力を身に付ける。

 図書によって情報を得ることの利点について勝見教諭は、「たとえば辞典で調べれば、カテゴリーやグループ、上位概念と下位概念がしっかり分かります。ネット情報と比べることで客観情報と主観情報の区別もできるようになり、ネットで調べることも得意になるのです」と説明する

 実際、同じ事柄を辞典とネットの両方で調べることも国語の授業で行う。生徒からは「ネットには情報がないものもあった。辞典って使えるね」「ネットで調べたことは本当かどうか分からないから、辞典や新聞で裏を取ればいいんだ」など、気付きの声があるという。

 松本教頭は「こうした授業を通して資料の検索力、情報の取捨選択、絵や図の読解力がつき、根拠のある文章を書く力が育ちます。詰め込んだ知識ではなく思考力が問われる2020年の大学入試改革にも、このプログラムは合致しています」と話す。

ダイバーシティーを生きる力に

中山正秀校長「思考力と表現力は、将来どんな職業でもやっていけるオールマイティーな力になります」
中山正秀校長「思考力と表現力は、将来どんな職業でもやっていけるオールマイティーな力になります」

 中山正秀校長は「自分の言葉で考えて、相手に伝え、外に発信できるようになることが、これからの社会では必要です。この『思考と表現』の教科を通して、2020年の大学入試改革に対応する力はもちろん、社会に貢献できる力を持つ人物になってほしいと考えています」と話す。

 また、松本教頭は「グローバル社会ではダイバーシティーを尊重する視点も大切になってきます。自分を理解してもらうと同時に自分と相手との違いを受け止め、理解し、相手と共感できる部分を探すことも深いコミュニケーションには必要です。この授業がそのもっとも基礎の部分を作るでしょう」と確信を込めて話した。

 来年度からは高校1年でも、この「思考と表現」を学校設定教科として実施する予定だ。生徒の思考力と表現を高める同校の取り組みは、中高6年間を見通すステージに入る。

(文と写真:小山美香 一部写真提供:トキワ松学園中学校高等学校)

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202786 0 トキワ松学園中学校高等学校 2017/08/03 14:00:00 2017/08/03 14:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20170802-OYT8I50012-T.jpg?type=thumbnail

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