AIに負けない人作りを目指す学校改革…相模女子

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 相模女子大学中学部・高等部(相模原市)で今春、新校長に原野聡美副校長が就任した。原野校長は、教育改革、教員養成についての豊富なキャリアを生かし、AI(人工知能)に取って代わられることのない新しい学力を目指す教育に取り組み始めている。「教えない授業」「生涯学び続ける人」をキーワードとする学校改革とその目標について原野校長に聞いた。

今、必要なのは「教えない授業」

 原野校長は1983年4月、その年に開校した神奈川県立弥栄東高校(現・弥栄高校)の数学科の教員としてキャリアをスタートした。県立相模大野高校に在職中、現・相模原中等教育学校の創設に参画。また、県立総合教育センターで5年間、教員の初任者研修を担当するなど、教育改革や教員養成の豊富な経験を持っている。

――今求められている教育は、どのようなものだと考えますか。

今、必要なのは「教えない授業」だと語る原野校長
今、必要なのは「教えない授業」だと語る原野校長

 必要なのは「教えない授業」だと考えています。世の中が変わり、人間の仕事がAIに取って代わられるとも言われます。その変化に対応し、人間ならではの考える力を身に付けることが重要です。今までの教育が、暗記を中心に、与えられた知識で問題のブランクを埋めていくものであったとすれば、これから主流になるべきは、正解のない問いを探求する教育と言えるでしょう。そのときは教員も答えを持っていませんから、教え授ける者ではなく生徒の伴走者になるはずです。

 実は、私も教員になったばかりの頃は、分かりやすい授業を心がけていました。また、先生の授業は分かりやすいと言われることを喜んでいました。しかし、教員になって5年目の頃に、数学者・遠山啓さんの「競争原理を超えて」という1冊に触れ、学ぶというのは古い自分を壊して、新しい自分を作ることだと知りました。学びを通して生徒たちは変容しなければならない。そう思い、生徒同士のやりとりで結論を導くスタイルに授業を変え、私はその交通整理をする授業を心がけました。

 授業で教えられたことを覚えて、テストで吐き出すのではありません。いわゆる穴埋め問題の弊害は、読解力の低下にも表れています。中学生の約半数が必要な読解力に満たないという衝撃的な報告もあります。「ここ、テストに出るぞ」と言われて暗記するのでは思考力が育たず、それこそAIには勝てないでしょう。

 暗記ではなく、自分で考え、判断し、表現する学びに学校全体で取り組むつもりです。

――具体的にどう取り組みますか。

自分で考え、何度も試行錯誤を繰り返すプログラミングの授業
自分で考え、何度も試行錯誤を繰り返すプログラミングの授業

 副校長を室長として、教育改革推進室を設け、来年度から強力に改革を進めます。とりわけ中1生に対しては、今までにない授業を展開し、相模女子の学びを習慣化させたいと考えています。

 例えば、他校に先駆けて取り組んでいるプログラミング教育は「教えない授業」の一例です。教材用の「レゴマインドストーム」を使って車を動かす授業では、入力したコマンドが正しければ意図した通りに動きますが、動かなければ間違っているということです。失敗を繰り返しながら、生徒自身が原因を考え、自分の力でプログラムを完成する中で、思考力や創造力、問題解決能力を伸ばします。今後は、このような授業のあり方を他の教科にも展開しようとしています。さまざまな教科の授業に、グループワークやアクティブラーニングを積極的に取り入れ、自ら学び考える姿勢を育みます。

心の土台となる自己肯定感を育む

――教科以外での改革の取り組みはありますか。

赤ちゃんと触れ合い、命のいとおしさを肌で感じる「マーガレットタイム」
赤ちゃんと触れ合い、命のいとおしさを肌で感じる「マーガレットタイム」

 中学部には、教科の枠を超えてさまざまな角度から「命」と向き合う「マーガレットタイム」というプログラムがあります。大きな目的は、生徒たちの自己肯定感を醸成することにあります。自分の将来を見つめる「ドリームマップ」の作成や、自然の恵みに触れる農業体験、平和教育、妊婦や新生児と過ごす「赤ちゃんふれあい体験」などを通して、自分を含む誰もが尊い存在であることを確かめ、女性としてのライフステージを意識することで、生き方を主体的に描く姿勢を育てます。自己肯定感は、目に見えるものではありませんが、心に土台となる場所を築くことが、学習や学校生活に前向きに取り組む大きな原動力になっています。

 自己肯定感に関しては、教員の姿勢も重要です。毎日の小テストでも、できたことを認め、ステップアップした生徒には根拠のある称賛をすることが、生徒の意欲を高めます。

 特に、中間層の生徒は、教員の声がけが成長のきっかけになります。他者との競争では、決して大きく成長することはできません。中間層の生徒が伸びることで学校全体も変わっていくと思っています。

「生涯学び続ける人」を作る事が課題

 すべての教室でWi―Fiが使える環境が整ったので、端末を中1と高1から1人1台購入してもらい、これを文房具のように使っていく計画です。中高の教員チームがコンテンツの検討を進めており、個別に最適化した学習の充実を図ります。

 もちろん環境整備よりも重要なのは、それによって実現する学びの質です。「自制心」「やり抜く力」「社会的関心」「読解力」「好奇心」「メタ認知」といった力を育てることを、すべての教員が意識して授業に反映していこうと考えています。ポイントは中学入学後の1~2年間。その間に自ら学ぶ姿勢を養うことができれば、残りの4年間は目標に向かってめきめき成長します。それは、まさにこれからの課題である「生涯学び続ける人」になることであり、中高一貫教育の大きなメリットだと考えています。

――今後の方向性を教えてください。

 教員たちと協議をしながら、いずれは定期テストの回数を減らしたいと考えています。テストの前だけ詰め込みの勉強をするのではなく、自律的に学ぶ習慣を育てるために、単元テストを増やし、学んだ内容が自分の中に定着しているかを生徒自身が確認できるようにするためです。そうすれば、教員たちにとっても、生徒の理解度を把握しやすくなるはずです。

 本校の生徒は、みな元気が良くて多様性を認める気風がある。誰にでも必ず居場所がある学校です。その校風を生かしながら、AIにはできない「考える力」を養う場としていくために、教員も生徒も大きく変わろうとしているところです。

 (文:山口俊成 写真:中学受験サポート 一部写真提供:相模女子大学中学部・高等部)

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958355 0 相模女子大学中学部・高等部 2019/12/20 05:22:00 2019/12/20 05:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/12/20191218-OYT8I50018-T.jpg?type=thumbnail

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